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第59話 なぜか祀られることに

「ぬおっ!?」


 俺達がギルド長室に出現すると……ギルド長は驚いてコーヒーをこぼしてしまった。


 あれ? この光景、一週間前も見たような。


「あれ、おかしいな……」


 しかし今回は前回と違い、ギルド長は怪訝な顔をしながら机上に置いてあった魔道具を眺めだした。


 あの魔道具は……転移阻害と破壊通知の機能が一緒になったもの、か?

 なぜそんなものを。


「どうしたんだ?」


「いやはや。ライゼル様が急に転移してこられるとびっくりしますので、通知機能が欲しくてこの魔道具を設置していたんです。ライゼル様にはこの程度の転移阻害、無いかのごとく破壊して転移できますからね。しかし、なぜか今回これが作動しませんでして……」


 そんな目的で、破られる前提の結界を張ったのか……。

 しかしそれなら、通知が作動しなかった理由は明白だ。


「ライゼルどのならこの程度の転移阻害、壊しすらせずすり抜けてしまうぞ」


 俺が説明するより前に、メルシャがそう口にした。


 メルシャの言う通りだ。

 俺の転移魔法は一定以下のクオリティの転移阻害を自動ですり抜けるようになっているので、半端な物だとこのように意図せずすり抜けてしまうのだ。


「そこまでは存じ得ませんでした……。どうやら私がただの愚か者だったようです」


 ギルド長はそう言って、深々と頭を下げた。

 いや、そこまでは言ってないが……。


 ともかく、こぼれたコーヒーがもったいないので、以前同様時空調律魔法で元に戻す。

 それから俺は、本題に入ることにした。


「今回来たのは、追加の朗報があるからだ。例のダンジョンだが……『脱獄者の楽園』からの完全な奪還に成功した。機能復活次第、また冒険者に入ってもらえるぞ」


「おお、ついに……! 本当にありがとうございました」


 ギルド長は泣きそうに、しかし笑顔でそう言って頭を下げた。


「あのまま占拠され続けていたらどうなっていたかと……。ご苦労おかけしました」


「いやいや、なんてことはなかったぞ」


「ははは、確かにライゼル様ですもんね……。『ご苦労おかけした』なんて言っては逆に失礼でしたか」


 ……なんかさっきから気を遣うベクトルがおかしくないか。


「ちなみにお答えできる範囲でお聞きしたいのですが、どのように撃退なさったのですか?」


「俺達を倒すためにほとんどの勢力が集結したところを一網打尽にした。本拠地の動きを伺うために一部は追跡付きで逃したがな」


「流石、なんというかライゼル様にしかできない作戦ですね。一網打尽もさることながら、敵の勢力を集結させること自体常人には不可能ですから」


 ギルド長は遠い目でそんな感想を口にした。

 かと思うと……ギルド長は何か思い出したかのような表情でこう尋ねる。


「そういえばライゼル様、ただいまもう少しお時間よろしいでしょうか?」


「大丈夫だが……どうした?」


「ライゼル様にご覧いただきたい物があるのです」


 俺に見てもらいたい物……?

 一体何だろう。


「こちらです」


 ギルド長はそう言って、ギルド長室のドアを開けた。

 俺達はギルド長の案内のもと、ギルド長が俺に見せたいという物の在り処までついて行った。



 そこにあったのは……思ってもみなかった物だった。


「……おい。あれは何のつもりだ?」


 ギルド長が指し示したのは、俺を象った銅像。

 意味が分からなくて、思わず俺はそう聞いてしまった。


「もちろん、ライゼル様の像でございます。我々のほうでもどのようにライゼル様の今回の功労を讃えるか議論になりまして……このような形で祀り上げることに決定いたしました」


 なんじゃそりゃ。

 呆然としていると、ギルド長は慌ててこんな弁明をし始める。


「あ、あの、一点お伝えし忘れておりましたが……もちろんこれで完成形ではございません! ライゼル様の進捗があまりにも早すぎて製作途中のものをお見せすることになってしまいましたが、ここから金メッキを施す予定でございます。その点はご安心ください、失礼いたしました」


 どうやらギルド長は何か重大な勘違いをしているようだ。

 俺が絶句してたのは像のクオリティに不満があるからじゃなくて、そもそもこんなものが飾られるという事実が衝撃的だからなのだが。


「もちろん、ライゼル様がお望みであれば、ご自身で調整なさってもらって構いません。お恥ずかしながら、資金力も高度な錬金魔法を使える人材も持ち合わせていないため全体を純金にはできておりませんが……ご不満でしたら、元素を変換してもらって大丈夫です! 誠心誠意お作りはしましたが、ライゼル様の本気のクオリティに適うはずもございませんからね」


 勘違いを続けるギルド長は、尚もそんな提案をし続ける。


「いや、そういうことではなくてだな……。単純に、こんな形で祀られるなど恥ずかしいのだが」


 一応俺はそう言って、勘違いを訂正してみることにした。

 すると……なぜかギルド長は、途端に青ざめる。


「な……! そ、それは大変失礼いたしました。像そのものがお気に召さないとは、完全に私の不徳の致すところです!」


 震える声で、ギルド長はそう言って深々と頭を下げる。


 あーいや、そんなに畏まられてもやりにくいな。

 この空気、どうしようか。


 次の一言を考えていると、メルシャが横から口を出した。


「良いではないか。臣民にここまで慕われるなど、名誉なことだぞ」


 メルシャよ、ここへきて魔王目線を出すんじゃない。

 だいたい、ギルド長も街の人も別に俺の臣民じゃないぞ。


 と、ツッコみたいところではあるのだが……このままではギルド長が「責任を取って辞職する」とか言いかねないような雰囲気だ。

 ここは一旦、ありがたく思っているということにしておいたほうが良いかもしれない。


「いや、そんなに畏まる必要は無いぞ。少し面食らってはしまったが……気持ちはありがたいからな」


 そう言ってみると、途端にギルド長はホッとした表情に早変わりした。


「でしたら安心でございます! こちらは丁重に奉らせていただきます!」


「お、おう……」


 俺はただ、第二の狂乱を倒すために等価交換となるような条件で動いただけのつもりだったんだが。

 どうしてこうなった。



 像を紹介してもらった後は、街全体で「脱獄者の楽園」の退散祝いをするということで、俺たちもそこに参加した。

 出てきた品自体は俺達が提供したリブロースだったりしたが、この街の精肉店自慢の「メキシモゥ」とかいう調味料が絶妙で、知らない味わいを楽しむことができた。


 次の日になると第二の狂乱が復活していたので、俺は第一の狂乱の件の犯人が来たら現行犯を取り押さえられるよう、ダンジョン最深部の入り口に液体金属製の番犬サイボーグを設置した。

 これで一応、この街でやることは全て済んだ。

 ここからは……第三の狂乱戦に備えるためにも、今ある能力を使ってできる限り技や戦術を極めていくとしよう。


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