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第58話 脱獄者の楽園との全面戦争

 そうして一週間ほどが経過した。

 もうあと数分で「脱獄者の楽園」の増援が到着しそう、というところで、俺は消滅の力の熟練具合をテストすることに。


「よし、じゃあいくぞ。今から出現させるエネルギー弾を全部防いでみろ」


「ああ」


 予備動作なし、至近距離から出現、高速で迫るエネルギー弾を、メルシャは全て消滅結界で防いでいった。

 一週間前と異なり、メルシャの消滅結界展開速度は0.2秒を切っている。

 ここまで来れば、もう十分実用的と言えるだろう。


「……合格だ。おめでとう」


「そう言ってもらえてありがたい」


 増援到着までに仕上がって何よりだ。


「じゃ、ちょうどいいタイミングで敵も来たことだし、実戦に移るか」


「ああ、そうだな」


 増援が完全に合流したのを探知魔法で確認してから、転移魔法を発動する。

 俺達は一つ上の階層に転移した。



 転移先にて。

 そこには夥しい数の「脱獄者の楽園」の構成員が集結していた。


 まず俺は、ガルミア王国に報告するための証拠持ち帰り役を探すべく、全体を見渡す。


「メルシャ、あそこの三人にだけは攻撃を当てないようにしてくれ。俺が俺である証拠を持ち帰ってもらう必要があるからな」


 見つけると、俺はメルシャにそんな指示を出した。


 ……自分で言ってて本当に違和感あるよな、これ。

 まあ、敵の作戦がいかに馬鹿だろうとこちらには何の問題も無いが。

 それじゃ、戦闘開始といくか。


「メルシャはあっち側を中心に攻撃してくれ。俺は逆を担当する」


 指差しながら、俺は分担する敵の範囲を示した。


 今回集まった敵、メルシャ一人で余裕で討伐できる程度の強さではあるんだがな。

 今回は、敵に「俺がライゼルである」という証拠を持ち帰らせるというミッションもある。

 それを考慮すれば、戦闘をメルシャに任せきりにするわけにもいかないのだ。

「仲間に全部任せるなどライゼルらしくない」などと敵を混乱させてしまいかねないからな。

 目的を考えれば、俺らしい戦闘スタイルで分担する範囲の敵を殲滅するのが望ましいだろう。


「はっ! てめえなんざ、この人数の前じゃ何にもできねえよ!」


 敵は言葉こそ威勢が良い……のだが、その表情はといえば引き攣ってしまっている。

「相手はライゼルかもしれない」という事前情報だけでこうも態度が変わるのか……。

 もちろん、だからといって情けをかける義理は無いがな。

 こんな組織に所属してしまっている時点で。


「『何もできない』か……。そんなことを言われては、手加減している場合ではなさそうだな」


「あ、いや手加減はすればいいんじゃ……かかってこいやあ!」


 情緒不安定か。

 まあ実際は、目的を考えればある意味手加減をすることにはなってしまうのだが。

 俺がライゼルだと分かるような戦闘スタイルを取る必要がある以上……消滅の力や量子魔法陣を用いる技みたいな、世間に知られていない技を使うわけにはいかないからな。


「じゃあ、行くぞ」


 俺は異世界に行く前の時点で最も得意としていた対人戦闘用攻撃魔法を発動した。

 デスプロテクトという、回復魔法阻害型即死魔法だ。


 この魔法の効果は、敵を細胞レベルでバラバラに粉砕すると同時にあらゆる自動回復魔法を解除し、粉砕された破片一つ一つに回復魔法術式阻害の魔力の膜を張るというもの。

 高度な魔法戦闘の場では、即死魔法と自動回復魔法の応酬で魔力切れまでもつれるのが常ではあるが……ある程度以上魔法技術に差があると、この魔法で敵を回復不能、そしてそのまま死に追いやれるのだ。

 デスプロテクトの回復阻害を貫通する回復魔法はあるにはあるのだが、それを発動するには異世界に行く直前の俺レベルの魔法制御力が必要だからな。

「脱獄者の楽園」の構成員レベルであれば、残念ながらこの魔法はどうあがいても防げない。


「が……」


 デスプロテクトを受けた奴は、断末魔の叫びを上げる間もなく木っ端微塵になった。


「あ……あれは……」


「く……くそがっ!」


「本物のライゼルだったのかちくしょう……!」


 粉砕された仲間を見て、「脱獄者の楽園」のメンバーたちは揃いも揃って苦虫を噛み潰したような表情を見せる。


 実は……デスプロテクト、俺のことを知ってる人なら誰もが連想すると言っても過言ではないくらい、俺のイメージが強い技なんだよな。

 自動回復を防げて便利なので多用していたら、敵対する人々の間で最警戒魔法に入れられてしまったのだ。

 警戒されているとは言っても、相手に対策を立てるだけの魔法技術があるケースはほぼ皆無なのだが。

 俺以外にこの魔法を扱える人もほぼいないので、「ライゼルってデスプロテクトの人でしょ?」みたいな認識の人さえいる始末なのである。

 そんな魔法だからこそ、使用現場を撮らせれば確固たる証拠になる。

 この魔法を選択した一番の理由はそこだ。


「よし、もういいだろ!」


「やってらんねえ、逃げるぞ!」


 俺の正体がわかるや否や、「脱獄者の楽園」の構成員たちは一目散に逃げだす。

 俺はそいつらの九割くらいを適当にデスプロテクトで追撃した。

 それからふとメルシャの方を見ると……無事メルシャも自分の担当範囲の敵を全滅させていた。

 まあ、これだけ力量差が開いていれば当然だ。

 メルシャの方は消滅の力もバンバン使ったようだな。


 これで「脱獄者の楽園」はほぼ全滅。

 証拠確保係が逃げていったら、この街から「脱獄者の楽園」の構成員は一人もいなくなるな。

 一応、ギルド長に頼まれたことはこれで達成だ。


 念のため、気体型諜報魔道具で証拠確保係の様子を探ってみると、「何とか逃げ切れた……!」などと言って安堵している様子だった。

 逃げれていることを罠だなどと疑われてはいないようで何よりだ。


「メルシャ、お疲れさん」


「疲れるどころか準備運動にすらならなかったな……」


「まあ、そんなもんさ」


 などと話しながら、転移魔法を発動する。

 俺たちはギルド長室に転移した。


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― 新着の感想 ―
[一言] 書籍化おめでとうございます。 近所の書店で見かけました。とても面白かったです。
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