第54話 知人の友人だった
「まるでライゼルも何も、俺がそのライゼルなのだが……」
「……って、ご、ご本人!?!?」
俺が名乗ると、男の目が点になった。
そんなに驚くことだろうか。
「なぜ俺を知っている?」
「冒険者をやっていて、ライゼル様を知らない奴がいたらモグリですよ。まあ……私がライゼル様を知っている理由は、それだけじゃないですが」
「それだけじゃない、とは?」
「私のパーティーメンバーのうち一人が、かつてライゼル様と臨時パーティーを組んだことがあるんです。あいつ曰く、ライゼル様のレベルに全くついていけずすぐに脱退したとのことですが……事あるごとに、『ライゼル様はとんでもないお方なんだぞ』とその時のことを話題に出しましてね」
聞いてみると、意外な事実が発覚した。
まさかこの男のパーティーメンバーと臨時パーティーを組んだことがあったとは。
臨時パーティーなら、過去に何度か結成しようとしたことがあったのだが……どの時の人なんだろうか。
「それってどんな話題なんだ?」
「よく彼が話しているのは、『まずは軽く準備運動をしよう』というノリでフェンリルの群れの討伐に連れて行かされそうになったって話ですね。私個人としては、あいつが多少話を盛っていると考えているのですが。流石に本当にそんなカリキュラムだったら過酷すぎますからね」
ああ、あの時のメンバーの一人か。
「そいつ、多分話を盛ってはいないぞ。というか別に、過酷なカリキュラムじゃないだろ」
一応、過酷という部分だけは引っかかったので訂正しておく。
「準備運動でフェンリル討伐が過酷じゃないなら、何が過酷なんですか。……ねえ、そちらの方?」
「いや、我はライゼルどのが用意した鍛錬メニューを過酷と思ったことはないぞ。無論、簡単ではないがな」
「な、なんと……貴方もそちら側のお方でしたか……」
男はメルシャに同意を求めようとし……そして見事に撃沈していた。
そちら側ってなんだよ。
「ところで……このダンジョン、全く魔物の気配を感じないのですが。何があったのでしょう?」
「それなら俺達で第二の狂乱を討伐したのが原因だ。もちろん、この街のギルド長には許可を取った上でやっているぞ」
「だ、だだだだ第二の狂乱を討伐うぅ!?」
男は口をあんぐりと開けて固まってしまった。
「ライゼル様に関する伝説、あまりに非現実的すぎて、半分は脚色だと思っていたくらいだというのに。まさかその伝説すら超えてくるとは……」
彼はそう続け、頭を抱えてしまう。
なんかこの人、テンションの変化が激しいな。
などと思っていると、今度は彼は意を決したようにこう頼んできた。
「あの……もしよろしければ、身勝手を承知でお願いしたいのですが。私のパーティーメンバーも蘇らせてはいただけませんか?」
そう口にする彼の声からは、一縷の望みに賭ける思いが伝わってくる。
そうか。この男が生首として流れてきたということは、パーティーメンバーも生首でどこかに転がっている可能性があるのか。
「善処はする。が、保証はないぞ」
生首でも転がっていれば回復のさせようはあるが、死者蘇生させることは不可能だからな。
俺が殺したことがあるわけではない以上、暴走のルナムートの能力も適用できないし。
というわけで、俺はそんな答え方をしておくことにした。
この街のギルドには第二の狂乱討伐を許可してくれた恩があるし、管轄の冒険者の救済くらいはしてやりたいので、協力すること自体は問題ない。
どうせ「脱獄者の楽園」の増援が到着するまでは暇だしな。
「あ……ありがとうございます! 一応、襲われた時には散開して逃げたんですがね。敵の盗賊がとんでもない手練れだったので、おそらく誰一人として助かっていなくて……」
「盗賊というか、『脱獄者の楽園』による組織的犯行だぞ。ダンジョンそのものの不法占拠が狙いの、な」
「だ、『脱獄者の楽園』……。なんでよりにもよってそんな奴らに……!」
「ま、奴らのことは任せろ。アジトも既に押さえていて、根絶やしにする準備はできている」
そんな会話をしつつ、俺はどうやってこの男のパーティーメンバーを探すか思案した。
まず探りを入れるべきは……「最終気象兵器【ゲリラ豪雨】」で生成された水の中か。
この男の生首も水流に乗って流れてきたんだし、あの水の中を探せば他の犠牲者の体のパーツも見つかるかもしれない。
ダンジョン下層を軽く探知し、現在冠水している階層を特定すると、俺はその階層の下につながる階段を対物理結界で封鎖した。
とりあえず、水を抜いて残ったものから痕跡を探していくとするか。




