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第5話 暗殺完了したつもりにさせてみた

 次の日。

 朝起きると、部屋に置いてあった衛星魔道具の子機が魔王の拠点までの地図をプリントアウトしていたので、俺はそれをもとに魔王の拠点に向かうことにした。

 宿をチェックアウトし、外に出る。


「さてと、転移用魔道具を起動し——ん?」


 しかし、移動の準備をしていた時のこと。

 不意に俺は、周囲の気配に違和感を覚えたので……移動の前に、少し精度の高めな探知魔法で探ってみることにした。

 すると……悪い予感が的中していたことが判明した。

 周囲の建物の屋根に、気配を殺しながらも静かに俺に敵意を向けているものがちらほらいるのだ。

 魔力の様子や探知魔法に映る体つきなどから察するに、暗殺者と見て間違いないだろう。

 探知魔法によると、そいつらは全員通信魔法を繋いでいる様子なので、魔法で干渉して傍受してみる。


「おい、あの宿から出てきた奴」


「ああ、間違いない。昨日衛兵に連れ出されていた元召喚勇者だ」


 会話の内容から、この刺客を放ったのが国王であることが明らかとなった。

 たかだか無能と判断して追放しただけの奴に、なぜわざわざ刺客など送るのだろうか。

 まさか、実際は分子配列変換魔法の真価に気づいていて、その上で危険分子かなんかと見なされ、無能という程で追放されていたとか?

 真相は分からないが、ただ一つ、俺は今国王を完全に敵に回してしまっているというのだけは確かなようだ。


 となると……ここは、一芝居打っといた方がいいか。

 俺はあえて人のいない路地に入り、彼らの暗殺をお膳立てすることにした。

「謎の方法で逃げられました」と報告されるよりは、暗殺が成功したということにさせといた方がいい気がしたからだ。

 これから魔王に会いに行く以上、警戒され、監視対象なんかにされてしまうのは避けておきたいからな。


 とはいえもちろん、実際に死ぬつもりはない。

 これからやるのは死の偽装だ。


「手はずは……覚えているな?」


「ああ。対象を暗殺し、証拠として生首を持ち帰る。それでいいんだろう?」


 などと考えていると、図らずも彼らから偽装のヒントをもらうことができてしまった。

 生首なんかで証拠は十分なのか。

 この偽装、楽勝だな。


「対象の周囲に人はいません。暗殺を執行します」


「ああ」


 そして次の瞬間……左後ろの建物の屋根から、吹き矢が一本飛んできた。

 俺が常時展開している反魔法のうち、体にフィットする対物理結界のみを解除し、矢が刺さるようにする。

 矢が刺さると……解除しなかった反魔法のうち、汎用解毒魔法と危険物解析魔法が作動し、吹き矢の毒に対処し始めた。

 ふむふむ……何も対策しない場合、「数秒のタイムラグの後昏睡状態となり、その場に倒れ込む」という流れになる感じの毒か。

 汎用解毒魔法は、毒を消去しきったみたいだな。


「痛っ……何だ?」


 俺はわざとらしく首をさすりつつ困惑の表情を浮かべた後、3つ数えてその場に倒れ込んだ。


「対象の暗殺に成功しました。これより、証拠部位の切除に入りましょう」


「「「了解」」」


 すると案の定、三人は俺が死んだと思いこんだらしく、生首獲得のために俺の方へ走り寄ってきた。

 暗殺者たちが、半径5メートル以内まで近づいてくると——。


「縮地」


 俺は縮地魔法を発動して、その場から姿を消した。

 そして「俺が目の前から消えた」という視覚情報が暗殺者たちの脳内に到達するより前に、俺は全員の首元に小規模な雷撃魔法を放ち、全員を気絶させた。

 これで準備は完璧だ。

 今のうちに、証拠を捏造しよう。


「ええとあれ……確か収納魔法に在庫あったよな……」


 収納魔法の中身を探り……俺はこの場で使えそうなアイテムを一つ取り出した。

 ——多機能幹細胞。クローンの素となる細胞だ。

 もともと俺は、戦闘訓練のために自分のクローンを作る目的でこの細胞を開発したのだが……結局戦闘能力の高いクローンの作成に失敗しまくったので、その路線での鍛錬は諦め、この細胞を死蔵させていたのだ。

 当初の目的に合うものは作れなかったこの細胞だが、偽装用の俺の死体くらいなら、この細胞で十分作れるだろう。

 無能判定で追放されてることを思えば、むしろ戦闘能力までコピーしきれていないこの偽装死体の方が、リアリティがあると言えるかもしれない。


「分化」


 俺は多機能幹細胞に成長魔法をかけ、現在の自分と全く同じ外見の人体を錬成した。

 ついでに自分の衣服も全て複製して着せ、吹き矢の針も毒を復元してから移植し、俺がさっき倒れ伏した場所に設置する。

 ……うん。完璧な偽装だな。

 これで暗殺者たちを起こせば、彼らはクローンの生首を証拠として刈り取り、持って帰ってくれることだろう。

 そして国王も、それを微塵も疑いはしないだろう。


 ……さてと。偽装も済んだことだし、当初の目的だった魔王の拠点への移動を始めるか。

 どうせ彼らが起きるまでには、本物の俺はこの場を離れていないといけないしな。


「エリアタイムヒール」


 俺は範囲時限回復魔法をセットしてから、転移用魔道具を起動した。

 転移用魔道具の転移先は、東に4464キロメートル——魔王の拠点の城の門の手前だ。

 魔道具が発動すると、俺の周囲の景色は一変した。

 範囲時限回復魔法が効果を発揮したのは、その0.1秒後のことだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] あーあ、ストレス続くなぁ・・・・・
[一言] 暗殺者が無能って訳ではなく主人公の力が桁違いなんだよな
[気になる点] 円(マドカ)は似て非なる物でもキロメートルの単位は名称同じなんやな
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