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第49話 消滅結界

「……ほう」


 13階層にて。

 目の前には、「脱獄者の楽園」の構成員と思しき者が3人いたのだが……うち一人を見て、思わず俺は少しニヤけてしまった。


「……っ! あれは……」


 対照的にメルシャは、そいつを見て息を呑む。


 ソイツの異様さは……容姿の時点ですでにアリアリと伝わってきた。

 というのも……なんとソイツ。

 一瞬蕁麻疹かと見間違えるほど、全身に無数の魔石が埋まっているのである。


 もちろん、異様なのは外見だけではない。

 埋まっている魔石は……見る限り全てが、少なくとも「眠れる古の竜」より上位の魔物から取れるものばかりだ。


 ――身体魔石接続。

 奴が自分に施していうのは、そう呼ばれるタイプの人体の強化方法だ。


 メリットは、人間とは思えないほどの高出力な魔法を簡単に使えるようになること。

 だがこの手の強化は……一般的な戦闘者には、全くといっていいほど普及していない。


 理由は一つ。あまりにもデメリットが大きすぎて割に合わないからだ。

 どんなデメリットかというと、身体魔石接続をすると魔法が極端に暴走しやすくなる上に、魔法が暴走すると大爆発を起こしてしまうのだ。


「眠れる古の竜」クラスの魔物の魔石だと、一個接続しているだけでも、暴走時には山を吹き飛ばす威力になる。

 あんなに極端な接続の仕方をしているケースだと、何か一歩間違うと大陸一つ消し飛んでしまうことだろう。


 そしてもう一個、致命的なことが一つあって……魔法が大規模に暴走した者は、魔力回路がズタズタになることで、魔法がほとんど使えなくなってしまう。

 それにより、本来設定していたはずの自動回復魔法が発動しなくなってしまうので、魔法の暴走で木っ端微塵になった者は基本的にそのまま死んでしまうのだ。

 まあ、仮に死ななかったとしても、後遺症で全く戦闘のできない余生を過ごす羽目になるので、それはそれである意味死んだも同然なのだが。


 とまあ主観的にも客観的にもデメリットがデカすぎるが故に、身体魔石接続は国際法により完全に禁止されている。

 施術した医師もその患者も、家族もろとも死刑になるくらいの徹底ぶりと言えば、どれほどこの術式が社会から恐れられているかが分かるだろう。

 まあ相手が相手なので、死刑にするのも一苦労なんだがな。

 俺も過去に一度だけ、施術を受けた者の死刑を安全に執り行うため、特異結界のによる包囲に協力したことがある。

 ソイツもここまで異常な接続数ではなかったがな。


 そんなわけで……まあこんな奴は、このレベルの不法集団でもないとお目にかかれないというわけだ。


 ちなみにこの方法で強くなることは、メルシャの世界に転移する前の俺でも可能だったことだが……それに手をつけなかったのは、倫理観を差し置いてももう一つ理由がある。

 それは、狂乱一族から力を得て以降のことを考えてというものだ。


 俺レベルの魔法制御力があれば、たとえ身体魔石接続で不安定な状態になっても、98%くらいの確率で暴発を起こさず生涯を終えられるだろうが……あくまでそれは、魔法しか使わなかった場合の話だ。

 例えばさっき得た消滅の力などを、身体魔石接続をした状態で行使していたら……流石に魔法ほど完璧には制御できていないので、結構な高確率で暴発をおこしてしまっていたことだろう。

 その場合、おそらくこの惑星は消えてなくなっている。


 それじゃ本末転倒だからな。

 俺がこの方法に手を出さなかった一番の理由はそこだ。


 それはさておき、コイツを倒す方法だが……ハッキリ言って、別に全く難しいことではない。

 ただ倒すだけなら、適当の挑発して無理に魔法を使わせ、暴走したところを特異結界で囲えば十分だ。

 ぶっちゃけメルシャの世界に転移する前の俺でも、それくらいはできた。

 単純な高エネルギーに対しては、特異結界はほぼ無敵だからだ。


 もう少し魔法の熟練度が高い奴なら、暴走時の魔力に抗転送性を付与し、特異結界を破壊しつつ心中とかもしてきたかもしれないが。

 まあ、コイツには無理だ。


 しかし……せっかく消滅の力を手に入れたんだしな。

 一つ実験したいことがあるので、コイツはその方法で始末させてもらうとしよう。


「ライゼルどの、もちろんアレを処理することは可能……なのだよな?」


「ああ。とりあえず、起爆するぞ」


「分かっ……え?」


 キョトンとするメルシャを尻目に、俺は身体魔石接続野郎に一つの魔法をかける。

 最初の構成員の遭遇した時にもやった、テタノスパスミンの次元投与だ。


「グアァァァ!」


「え……ええええ!?」


 身体魔石接続野郎が悶絶しだすと……その両隣にいた二人の「脱獄者の楽園」の構成員が、目玉が飛び出さんばかりに驚愕した。


「な……なに考えてんだあのバカ!」


「自分が何してるか分かってんのか! 自殺行為だぞ!」


「に……逃げるか?」


「逃げても無駄だろこんなん!」


「分かっててもここにはいたくねえんだよ!」


 両隣の二人は口々にそんなことを言いながら、一目散に逃げていった。

 心外だな。あいつの暴走を止められないと思われたか。


 でもまあ……逃げるのは放っておこう。

 泳がせとけば、増援とか呼んできてくれて敵を一網打尽にできるかもしれないし。


 そんなことより、目の前の事態の対処だ。

 苦しみから逃れるため、様々な回復魔法や治癒魔法を乱用する身体魔石接続野郎を、俺は二重の結界で囲んだ。


 外側の結界は、何の変哲もない特異結界だ。

 これはあくまで、予備というか保険だな。

 本命は内側の結界――消滅の力だけで張った、消滅結界だ。

 これで敵の爆発を完全に相殺できるか、それが今回の実験内容というわけである。


 これだけの特大のエネルギーを完全に消すことができれば……もはやあらゆる魔法攻撃をこれ一つで防げるということになる。

 抗転送性エネルギーだろうが関係なく防御できるので、特異結界の完全上位互換の完成というわけだ。

 上手くいってくれるといいのだが。


 などと思っていると、敵が使おうとした解毒魔法の制御のアラをきっかけに、暴走が起こり始めた。


「これ……我は見守っているだけでいいのか?」


「とりあえずは、な。消滅の力を使った新技の実験だから、成功したらメルシャにも教えよう」


 そんな会話をしているうちにも、ついに爆発が始まる。

 が……その爆発は、全く以て内側の結界から出てくることはなかった。

 一応外側の特異結界には、エネルギーの転送量を計測する魔法を重ねがけしていたのだが……その測定値も、見事に0だ。


 これは大成功だな。


「よし。実用的な新結界の完成だ」


 そう言ってガッツポーズをしていると……メルシャがよこからこんな質問をしてくる。


「にしても……この実験、いきなりあんな奴相手にする必要があったのか?」


「中途半端な敵を相手にやっても、結界が凄いのか敵が雑魚故に通用してしまっただけなのか分からないだろう」


「それはそうかもしれないが……。今ライゼルどのがやったことって、動物実験をすっ飛ばしていきなり人体相手に治験をするようなことのような……」


 ま、いいだろそこは。

 どうせダメでも特異結界で何とかなったんだし。


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