第47話 最初の敵
最下層を出ると、ダンジョン全体に対し探知魔法をかける。
すると、「脱獄者の楽園」っぽい反応のうち一番深い階層にあるのは、15階層だということが判明した。
随分と浅いな。
今は資源調達部隊がいなくて、見張り用に常駐している構成員しかいないから……とかだろうか。
まあ何にせよ、虱潰しに殲滅するまでの話だが。
というわけで、俺たちは15階層に転移した。
ちなみに今回は通常の転移を阻害する要因は何もないので、神界は経由せず転移魔法での移動だ。
15階層に着くと……早速敵の二人組が俺たちを感知した。
「うおっ、何だてめえら!」
「なんでよそモンがこんなところに……!」
地元の人からすればお前らの方がよっぽどよそモンだろ。
そんなツッコミが喉元までこみ上げて来たが、こんな奴らに言ってもしょうがないので飲み込んだ。
「お前らが『脱獄者の楽園』の構成員か」
「当たりめえだろ! つうか部外者がなんでいんだよ!」
とりあえず……倒す前に、聞きたいことだけ聞き出しておくか。
「一つ聞きたいことがある。お前らの組織……第一の狂乱がいるダンジョンに細工したな?」
「知らねえよ。ンなことより……てめえらが現れるちょっと前に、魔物の反応がピタッとなくなったんだがよう。てめえらの方こそ、何か企んでやがんだろぉ!?」
質問に質問で返されてしまった。
それだけでなく、二人組のうち片方が、俺に向けて魔法を放ってくる。
「答えろぉ!」
その魔法を、妨害・解析並行魔法で打ち消しつつ解析したところ……拷問用の魔法の一種であることが判明した。
具体的には、全身の感覚神経に魔法で生成したカプサイシンを転送し、激痛を与えるといったものだ。
やれやれ。質問したいのはこちらだというのに、相手はすっかり尋問する側の気分ときたか。
にしても……お粗末なやり方だ。
確かに、この魔法は全身の傷口は内臓に唐辛子をぶちまけられたような激痛を発生させる。
与えられる苦痛の量は、最大級と言っても過言ではないだろう。
だが……自白を促す時には、強烈な苦痛を与えればいいというわけではない。
苦痛と共に、「このままだと時間と共に状況がどんどん悪化する」という絶望を与えてこそ、切迫感から口を割ってしまうというものなのだ。
「な……なんで平気なんだ!? 最上級の拷問魔法だぞ……」
二人組のうち魔法を放った奴は、全く平気な俺の様子を見て狼狽える。
魔法が妨害されたことに気づいていなかったり、さっきの魔法を最上級などと言っているあたり、こいつらが構成員の中でもかなり低レベルな部類であるのは明白だ。
正直、仮に「脱獄者の楽園」が第一の狂乱に関する犯人だったとして、コイツらが関連の重要情報を持っている確率はかなり低いだろう。
しかし、まだ「知っているが隠しているだけ」という線が完全に消えたわけでもない。
もし何か知っていれば、この程度の相手なら脳を直接覗くような魔法など使わずとも、軽い拷問で吐く可能性は高いだろう。
先にやられたんだし、意趣返し程度にちょっとだけやってみるか。
俺は二人組に対し、立て続けに一人一個ずつ別々の魔法をかけた。
それにより……片方は魔力操作が全く行えなくなる効果を持った糸でグルグル巻きに縛られ、もう片方は背中が90度に折れ曲がるくらい勢いよくのけ反りだす。
「ぎああぁぁぁぁぁ……ぁ!」
背中がのけ反った方は、苦悶の表情を浮かべて叫びだした。
「な……何をしやがった!?」
「テタノスパスミンの次元投与だ」
縛られた方の質問に、俺はそう答える。
テタノスパスミン。
中枢神経を遡りながら神経の伝達を阻害し、強烈な痙攣を引き起こす神経毒だ。
自然毒の中では2番目に強力な毒素で、代表的な症状は後弓反張と呼ばれる、痙攣で背筋が弓なりになるものだ。
後弓反張は背骨にとんでもない負荷がかかり……最悪の場合、自らの筋力で背骨を骨折してしまうこともある。
強烈な苦痛が走るだけでなく、自分の意思に反して自力で自分をダメにしてしまうのだからな。
こういう状態が、単なる強烈な苦痛よりももっと恐怖と絶望を生み出すのだ。
当然、毒素の量は死なないが背骨は折れる程度に調整してある。
「答えろ。お前らは第一の狂乱のダンジョンへの細工と関係があるのか無いのか。でないといずれ背骨が折れるぞ」
「ひぎいぃぃぃ!?」
この毒は、通常だと開口障害で喋るのも難しくなってしまうのだが……それだと本末転倒なので、一応喋る筋肉だけは阻害しないよう治癒魔法で調整している。
が、縛られている方は、そんなこと知る由もないだろう。
相方は喋れない状態で苦痛を与えられている、と思い込んでいるはずだ。
「お前に聞いているんだぞ。こんな姿の仲間を見て何とも思わないのか?」
そんな思い込みも利用すべく、俺は縛られている方に視線を向けつつそう尋ねる。
「がはっ……」
すると……縛られている方は、口から血を吐いて倒れてしまった。
……歯に自決用の毒カプセルでも仕込んでやがったか。
自分が死人になれば、少なくとも相方が喋れない苦痛からは解放されるはず。
おそらくは、そういう考えからの行動だろうな。
よし、回復させよう。
俺は服毒した奴に、回復魔法をかけた。
「……んな!? なぜ俺は生きて……」
「自殺くらいで死ねると思ったか、詰めの甘い奴め」
「あ……悪魔だぁ……」
作戦失敗を悟り、回復した奴の顔が一気に青ざめる。
そんな時……ダンジョン中に、ボキッという鈍い音が鳴り響いた。
「仮に上層部にそんな思惑があったとしても、俺らみたいな下っ端の構成員が知る由もねえよ!」
「頼むから幹部とかを拷問してくれぇ!」
立て続けに、そんな風に懇願する二人。
これは本格的に見込みナシだな。
もうなんか脱獄者の楽園への忠誠心とか完全にゼロで、自分たちだけ見逃してもらおうとしてるし。
まだ嘘をついている可能性もゼロではないが、これ以上続けるより、コイツらの言う通り幹部でも狙った方がよっぽど効率的だろう。
「そうするしかないようだな……」
ため息をつきつつ、俺は背骨が折れた奴を解毒する。
「クソッ……やってられるか……」
ソイツは風刃魔法を飛ばし、自分と縛られた奴の首を飛ばす。
「えげつない魔法だな……」
全てが終わってから、メルシャはポツリそう呟いた。
「しかし……コイツら相手に消滅の力を試用するのではなかったのか?」
「それならもっと強い奴相手に行う。少なくとも回復魔法分野において俺と同等の戦闘力がある奴相手じゃないと、消滅の力がどこまで戦いを楽にするか実感しにくいからな」
というわけで、次の敵の居場所に行こう。
俺たちは転移魔法で14階層に転移した。
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