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第45話 脱獄者の楽園

 二分くらい待っていると、受付嬢は一人でカウンターに戻ってきた。


「あれ、ギルド長を連れてきたんじゃないのか?」


「ギルド長なら、応接室にてお待ちしております。極秘特任騎士団のミリタリーコインをお持ちの方を、立ち話させるわけには参りませんので。……私についてきてください」


 間違えてコインを出してしまったせいで、無駄に丁重な扱いになってしまったようだ。

 俺としては立ち話で十分だったのだが、まあどちらでもいいか。

 受付嬢に案内されるがままに、俺とメルシャは応接室までついていった。


「こちらになります」


 ドアを開けて中に入ると、そこには初老の男が一人立って待っていた。


「ようこそおいでくださいました。私がギルド長のエルヴィスです。」


 その男——エルヴィスと名乗った——はそう言って、深くお辞儀をする。


「あの極秘特任騎士団に認められたお方と話せる日が人生で一度でも来るなど、願ってもおりませんでした。ささ、こちらにお座りください」


 続けてエルヴィスは、そう言って部屋にある一番豪華なソファーを指した。



 ……「あの」極秘特任騎士団って言われても、正直ピンとこないな。

 何せ俺、今までに騎士団や特殊部隊から貰ったミリタリーコインの数はゆうに100枚を超えているのだ。


 ミリタリーコインとは、軍隊同士の合同訓練の後「お互いを認め合う証」として互いのを交換したり、軍隊への戦技指導の後「お礼の証」として指導者が貰ったりするものなのだが……かつて俺は、世界中の数多の特殊部隊に戦技指導をしたことがあった。

「軍の特殊部隊とかなら、ヘッドハンティングするに値するいい人材が見つかるんじゃないか」という考えから、仲間集め目的でそのような行動に出たのだ。


 だが……結果はといえば、どの特殊部隊の隊員も、十段階用意した訓練カリキュラムのうちの五段階目以前で音を上げてしまった。

 そこで諦めるような奴など仲間にしても、狂乱一族相手に共闘するなど夢物語もいいとこなので、結局誰も仲間にはせずミリタリーコインだけ頂いて帰ったのである。


 そんなわけで、どの部隊が見どころがあったかなんて、今では全く覚えていない。

 極秘特任騎士団が凄い組織かのように言われても、有象無象の中のどれだったっけという感じでしかないというのが本音だ。

 たまたま取り出したミリタリーコインが、かなり権威のある特殊部隊のものだった——のは、正直ただ運が良かっただけと言えるだろう。



 ……ま、そんなのはどうでもいいことだ。

 俺が何者かという話はさておき、こちらの本題に入らせてもらおう。


「今回俺は、一つ許可を貰いたいことがあってここに来た。が……その話の前に、一個聞きたいことがある。……この街の有様はいったいなんなんだ?」


 単刀直入に、俺はそう質問した。

 すると……エルヴィスは途端に暗い表情になり、こう語りだした。


「実は……今現在、この街のダンジョンは犯罪組織によって占拠されてしまっているのです」


「犯罪組織?」


「ええ。『脱獄者の楽園』という組織に、聞き覚えはありませんか?」


「……あるな」


 なんか懐かしい名前が出てきたな。

 エルヴィスの話を聞きながら、俺はそう思った。


「脱獄者の楽園」というのは、名前の通り脱獄者だけで構成される犯罪組織。

 Sランク冒険者や上位騎士の中にも、時折犯罪を犯してしまう者がいるのだが……「脱獄者の楽園」はそんな犯罪者の脱獄を手助けし、組織の一因に加えてデカくなっていく集団なのだ。

 そんな成り立ち故に、彼らはまともな職にはつけないため、組織の資金調達手段は自ずと犯罪に絞られることとなる。

 脱獄補助で人材を確保し、そいつらに盗賊行為や権力者との裏取引をさせて資金調達し、生計を立てる。

「脱獄者の楽園」とは、そうやって成り立っている犯罪組織だ。


 脱獄補助の対象が対象ゆえに、この組織の構成員は皆極めて高い戦闘能力を有している。

 なのでこの組織に大勢でダンジョンを占拠されてしまえば、確かに一般の冒険者はほぼ立ち入ることができなくなってしまうだろう。

 そして今回の件に関しては……まず間違いなく、この土地を衰退させたいとこかの権力者が、裏で手を引いているはず。

「脱獄者の楽園」は普段はコソコソ隠れて犯罪を犯すだけで、こういった大々的な行動には権力者の後ろ盾がある時のみ出てくるからな。


 ちなみになぜ俺がそこまで動態に詳しいかというと、かつて俺はこの組織をほぼ崩壊させたことがあるからだ。

「脱獄者の楽園」にいるのは犯罪者ばかりだが、だからといって全員が全員元悪人かといえばそんなことはない。

 中には「圧政が敷かれていた国でクーデターを起こそうとして投獄されたが、『脱獄者の楽園』の手引きで処刑寸前に脱獄した」といったような、とても悪人とは言えない経緯で入った"犯罪者"も存在するからだ。

 この組織の構成員が粒ぞろいの戦闘者であることもあって、俺はそういった「悪人ではない構成員」を、自分の仲間に引き入れられないか試みたことがあった。


 しかし「脱獄者の楽園」は脱退が恐ろしいほど厳しく禁じられており、俺が引き抜こうとした構成員は、刺客が放たれて殺されてしまったのだ。

 腹いせに俺は刺客を尾行して、組織をほぼ壊滅状態にまで追い込んだ。

 流石に世界各地に出張していた少数の残党までは、面倒くさくなって追いかけなかったがな。

 それも遥か昔の話なので……生き残った構成員を起点にまた脱獄補助で人数を増やし、再度力をつけて今に至るのだろう。


 こんなことになるなら、あの時もう少し本腰を入れて、文字通り全滅させておけばよかったな。


「要は……そいつらさえ殲滅すれば、また自由にダンジョンを使えるようになるんだな?」


「ええ、まあ。もしそれが可能なのであれば、是非そうして頂きたいくらいです。が……忌々しいことに、奴らの戦闘能力はどうしようもないほど高い。この間も事態の解決のために国から騎士団を派遣して頂きましたが、それすら全員返り討ちにされてしまったくらいなので……いくら極秘特任騎士団のミリタリーコインを持つ貴方でも、二人で奴らの殲滅は厳しいでしょう」


 ダンジョンを再び使えるようにしてやれば、対価として「第二の狂乱」の討伐許可をもらえるかもしれないだろう。

 そう思い、俺は「脱獄者の楽園」の殲滅を提案したのだが……エルヴィスはそれを聞くと、諦めがちにそう返してきた。


「それこそかつて奴らを壊滅に追い込んだという伝説を持つ、ライゼル様とかであればそんなことも可能なのでしょうが……」


 かと思うと……思わぬタイミングで俺の名が出てきて、思わず俺は吹き出しそうになってしまった。


「……あー、伝説なんて言われた手前言いづらいんだが、俺がそのライゼルだ」


「な……そうでしたか! これは大変失礼いたしました!」


 言いにくい雰囲気の中名を名乗ると、エルヴィスは目を白黒させつつなんども頭を下げた。


「でしたら是非、お願いいたします! 確かライゼル様、『一つ許可を取りたい』と仰っていたはずですが……奴らを退治していただけるなら、どんな頼みでも受け入れますから!」


 そしてついでに、許可の言質まで取れてしまった。

 じゃあ早速、許可を取らせてもらうとしよう。


「俺の頼みはただ一つ、ここのダンジョンのボスである『第二の狂乱』の討伐許可を出してほしいというものだ。できるか?」


「な……き、狂乱一族に挑まれるのですか!?」


 内容を言うと、エルヴィスは目をひん?いて椅子から転げ落ちてしまった。


「こ……これは失敬。いやはや、まさかそのような頼みだとは……」


「もしかして、難しいのか? 必要であれば、ダンジョンの機能停止期間分の資源などは可能な範囲で手配しようと思うが」


 過去に倒したことのある魔物なら、死者蘇生からのリスキルでいくらでも量産できるからな。

 そのくらいのことならほとんど労力をかけずにできるので、俺はそう条件を追加した。


「いえいえ、一度頼みを聞くと決めた以上は、予想外のものであってももちろん聞き入れますとも。ただ……確かにここのところダンジョンが使えなかったことで、この街の資源が枯渇状態にあるのは事実。もし資源をお貸しいただけるのであれば、私どもとしては非常に幸いです」


 するとエルヴィスは、そう言って快諾してくれた。

 どうやら単に驚きすぎただけで、難色を示すつもりはなかったようだ。


「資源って、どんなのがいるんだ?」


「特に緊急性の高いものでいえば……ライフライン用の魔石と食料をいただけると非常に助かります。特にライフラインに関しては、あと三日で供給停止せざるを得ないところでしたので」


 具体的に今すぐ補充が必要なものを聞いてみると、エルヴィスはそう答えた。


 ライフライン、あと三日で止まるところだったのか。

 ライフラインといえば、各家庭の生活用魔道具の動力となる魔力を地域全体に供給する重要なエネルギーインフラだ。

 その供給源には、魔物から取れる魔石が使われている。

 このインフラがダウンすると家庭用魔道具のほとんどは動かせなくなってしまうので、この街はもう生活がほぼ不可能になるところだったわけだ。

 結構とんでもないピンチだったんだな。

 だが……魔石と食料程度であれば、この場で量産することなど容易だ。


「分かった。それなら今すぐ用意しよう。大量の素材を置けるスペース、どこかにあるか?」


「それならギルド所有の倉庫があります。長らく素材が集められなかったせいで、今はがら空きなんですよ……」


 スペースも確保できるとのことだったので、俺たちは倉庫へと移動した。


「一瞬姿を消すが、すぐ戻る」


 倉庫に到着すると、俺はエルヴィスにそう言い残し、メルシャと共に神界に行くことにした。

 神界に転移すると、俺はメルシャにこう指示する。


「メルシャ、眠れる古の竜を50体ほど蘇生してくれ。俺はそいつらを殺して解体していく」


 流石にさっきの倉庫、竜そのものが何体も入るほどのサイズではなかったからな。

 神界であらかじめ解体し、魔石と可食部だけを渡そうと考えたのだ。

 50体分の眠れる古の竜の解体が終わると、それらを全て収納し、神界からギルドの倉庫に戻った。


「これくらいあれば十分か?」


 そう言いつつ、魔石と可食部だけを収納魔法で取り出し、倉庫の中に置く。


「やけに巨大な魔石……それも全く同じ形のが大量にありますが、これは一体?」


「眠れる古の竜というドラゴンの魔石だ。ちなみに肉もだぞ。ドラゴン肉というと食用のイメージは無いかもしれないが、10000年以上の睡眠に対し起きてる期間は数十年とかのタイプだから、いい感じに霜降りで美味なんだ」


「……な!?」


 肉と魔石の正体を言うと、エルヴィスは目を回して絶句した。


「そんな特殊な生態のドラゴンをこんな数……一体何をどうやったら……」


「ちょっと事情があって、自分が過去に殺した者にかぎり死者蘇生をする能力を手に入れてな。同一の魔物の素材は、今ならこうしてリスキルで大量生産できるんだ」


「あまりに何もかもが意味不明すぎて頭が……。分かりました。とりあえず、ライゼル様はなんでもアリの存在になられた、ということですね」


 エルヴィスは思考を放棄してしまったが、まあ死者蘇生取得の経緯なんかは話していると長くなってしまうので、深くツッコまれなかっただけ良かったと思うことにしよう。


「これだけあれば足りるか?」


「足りるも何も、ここ数年で最も豊作だった年の10倍はゆうに超える資源量ですよ。こんなにいただいてしまって、逆に申し訳ございません」


 どうやら量は十分なようだ。

 これで心置きなく、第二の狂乱を倒しに行けるな。


「じゃあ早速俺たちは行ってくる」


「わ……分かりました! ご武運を祈ります」


 こうして俺たちは、ギルドを後にすることとなった。


 さて、これからダンジョンに赴き、「第二の狂乱」の討伐と「脱獄者の楽園」の掃討を行うこととなるわけだが……最下層直接転移もできることだし、どうせなら先に狂乱の方をやっつけてしまうか。

 第二の狂乱から得た能力で「脱獄者の楽園」と戦えば、能力の試し打ちと任務が同時にできて一石二鳥だしな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ドラゴン肉や死者蘇生の説明等の過去にあった件りは、簡略化した方が良いかと愚考します。
[一言] 気長に更新お待ちしてます!主人公の渋さが好きで次も楽しみです
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