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第44話 街の様子がおかしい

 神界を経由して再び元の世界に戻ってくると、俺たちは街のど真ん中に到着した。

 交差点の向かい側には、この街の冒険者ギルドがある。

 ギルドの外観は「第二の狂乱」がいるダンジョンがある街のものそっくりだし、俺たちは正しい場所に転移できたはずだ。


 にも拘わらず……俺は周囲を見渡す中で、一個違和感を覚えた。

 ——道行く人に、やけに活気が無いのだ。

 その表情は絶望であふれている上に、なんというか全員やせ細っているようにも見える。


 ダンジョンは産業の中心となるほど、重要な資源の宝庫だ。

 その資源をもとに発展してきた街が、こんなにも景気が悪くなることがあるだろうか。


 などと不思議がっていると……背後の裏路地から、こんなやり取りが聞こえてきた。


「やいてめえ! その果物こっちによこしやがれ!」


「や、やめてください!」


 声が聞こえてきた方を向くと、果物を籠に入れた女の子がガラの悪い男三人に絡まれていた。


「どうした?」


 その様子に、メルシャが反射的に声をかけてしまう。

 声に気付き、四人ともがこちらを向いた。


「助けてください!」


「なんだてめえら。この子を助けてほしてりゃ食いもんを出せ!」


 女の子はこちらに助けを求め、ガラの悪い連中の方はあろうことか俺たちに喧嘩をふっかけてきた。

 思わず俺はメルシャと顔を見合わせる。


「お前らに食い物など渡す義理はないが」


「うるせえ! あるんなら出せ! さもなくばこいつがどうなっても知らねえぞ!」


 呆れながら応答すると、ガラの悪い奴らのうちの一人が女の子をナイフで指しながらそうどやしてきた。


 収納に何かしら食い物はあるだろうが……こんな態度の奴らにあげるのはなんか癪だな。

 というかメルシャ、なんでこれに首をツッコもうとした。

 元為政者ゆえに見過ごせなかったのかもしれないが……。


 思わずため息が出そうになったが、そんな時。

 俺は一つ名案を思いついた。

 ——そうだな。ある意味とても新鮮な食べ物を恵んでやるとしよう。


「食べ物か。これでどうだ?」


 俺はそう言って全長2メートルほどの蛇型の魔物——フルオロパイソンを死者蘇生した。

 この魔物は動きが早けりゃ力も強く、おまけに数々の毒魔法を使ってくる厄介な奴ではある。

 しかし、牙からフッ化水素酸を分泌しているのを除けば他の部位は無毒で、その肉はジューシーな高級食材なのだ。


「倒せば新鮮な肉が手に入るぞ。その子の果物なんかよりよっぽど栄養価が高い。これでもまだ不満か?」


「ば……化け物だ! ひいぃぃぃ!」


 しかし……せっかく食材を提供してやったというのに、ガラの悪い連中は一目散に逃げていってしまった。

 といっても、こうなるのは予測済みであったが。

 フルオロパイソンは俺と会う前のメルシャでも倒せるような雑魚魔物ではあるが、流石にさっきの連中には荷が重い相手なのだ。


 ちなみにそんなわけで放っておくと女の子の命も危ないので、俺は軽い風刃魔法で蛇の首を飛ばした。


 女の子はといえば、あまりの恐怖で身動きが取れない様子。


「ライゼルどの。気持ちは分かるがそれでは女の子にもトラウマになるだろう……」


「わ、悪い悪い」


 メルシャに半ば呆れ気味にそう言われてしまったので、とりあえず俺は女の子にセロトニン増大魔法をかけて落ち着かせることにした。


 ……お詫びにこの肉もあげるか。


「怖かったなら申し訳ない。ま、せっかくなのでこれでも持ち帰って、家族みんなで食べてくれ」


 蛇の死体に解体魔法をかけて可食部を取り出すと、その部位を女の子に手渡す。


「あ、ありがとうございます!」


 セロトニン増大魔法で落ち着きを取り戻したからか、女の子は先ほどの怯えを一切感じさせない所作で丁寧にお辞儀をし、帰っていった。


「無事で良かったな、あの子」


 女の子の姿が見えなくなったところで、メルシャはそう呟く。

 だが俺は、そもそもさっきのような事件がこの街で起きること自体に、違和感しか感じられなかった。


「それはそうなんだが……おかしいんだよな」


「何がだ?」


「ダンジョンがある街がこんなに治安が悪いはずがないんだ。何か異変が起きているに違いない」


 これではまるで、この街が過疎地域のスラム街かのような有様だ。

 それこそ「ダンジョンから資源が取れなくなった」とかでもない限りこうはならないはずなのに、一体何があったというのか。

 まさか……ダンジョンが機能停止しているわけじゃないだろうな。

 さっき第一の狂乱のダンジョンのことがあったばかりだし、なんか幸先悪い気がするぞ。


 とりあえず俺は最重要事項だけ確認すべく、転移先座標設定能力を用い、ダンジョン内部を観察してみた。

 すると……普通に至るところに魔物がいるのが確認できた。


 よかった。

 少なくとも、第二の狂乱が討伐されたことによるダンジョンの機能停止がこの街の有様の原因、というわけではないようだ。

 第一の狂乱の討伐者に先回りされている心配はないと言えるだろう。


 だが……そうなると尚更、この街の異変の原因が分からないな。

 まあどうせ、第二の狂乱討伐許可をもらいにダンジョンを管轄している冒険者ギルドに行くつもりだったんだし、詳しい事情はギルド長にでも聞いてみるとするか。


「とりあえずギルド入るぞ」


「ああ、分かった」


 というわけで俺たちは、交差点の向かい側にある冒険者ギルドの施設へと入っていった。



 ◇


 ギルドの受付にて。


「ここのギルド長と話がしたいんだが」


「ギルド長……ですか? 失礼ですが、ギルド長に冒険者側からアポを取れるのはAランク以上の方からとなっておりまして……。冒険者証はお持ちでしょうか?」


 ギルド長を呼ぼうとすると、その資格を証明するものを求められてしまった。


 そういえば、そんなルールあったような気がするな。

 ええっと俺、ランクなんてどこまで上げたっけ。

 なんか一応、何らかの機会にSランクまで上げてもらったような記憶があるような気がしないでもないが……そういう形式的な称号は個人的にどうでもいい要素なので、記憶が曖昧なんだよな。


 まあとりあえず出してみるか。

 収納魔法で貴重品入れのバッグを取り出すと、俺はその中を探って、手に当たったものを一個取り出した。


 出てきたのは一枚のコインだった。

 冒険者証ってこんなに丸っこかったっけな。

 ……あっ、違う。正確な名前がパッと出てこないけど、これうんたら騎士団のミリタリーコインだ。


「あっこれじゃなくて……」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


 目当てのものじゃなかったので貴重品入れに戻そうとした俺だったが、受付嬢はコインを見るなり血相を変えてそう口にした。


「それ、極秘特任騎士団のミリタリーコインじゃないですか! あの騎士団に認められるなんて、一体何者……じゃない、ギルド長ですね! すぐ呼んできます!」


 そして受付嬢はそう言ったきり、どこかへと走り去ってしまった。

 冒険者証ではなかったが、立場を示す物としてはなんか十分だったようだ。

 ま、結果オーライか。


 そんなことを思いつつ、俺はギルド長がやってくるのを待つことにした。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 極秘特任騎士団のミリタリーコインなんで、そこら辺の受付嬢が一目見ただけで分かるんだろう。。。
[良い点] セロトニンってすごい、改めてそう思った
[一言] あの女の子、けっこう図太いな
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