第42話 ダンジョンの異変──①
ダンジョンの最下層に移ると、そこでは一体の生物が佇んでいた。
鎖鎌を持つ骸骨のような外見は、これまでの独自調査で得ていた「第一の狂乱」のものとピッタリ一致する。
この場にこの外見の生物がいるとなれば、コイツが「第一の狂乱」と見て間違いないだろう。
と、頭では思うのだが……同時に俺は、なぜか目の前の存在に対し若干の違和感を覚えた。
具体的に何が変かと言われると説明しづらいのだが、何というか暴走のルナムートから感じたような「超常能力持ち特有の雰囲気」が、この生物からは感じられないような気がするのだ。
……ま、思い過ごしだろうがな。
強い者ほど気配の絶ち方も上手なものなので、おおかたコイツも、暴走のルナムートより上手く気配を殺しているというだけのことだろう。
というかいくら俺たちが強くなったとはいえ、狂乱一族は油断しながら戦っていいような相手ではないので、余計なことは考えず倒すことに専念した方がいい。
余計な考えを払いのけると、俺は目の前の相手がどう動いても対応できる構えを取った。
最悪人違いだったとしても、俺にしろメルシャにしろ倒した方が蘇生させれば済む話だし。
「こいつを倒せばいいんだな!」
などと考えているうちにも……メルシャはそう言って、骸骨に対して収束度を上げた「滅びの咆哮」を放った。
すると……その一撃で、骸骨は「キィーン」と劈くような悲鳴を上げ、そのまま地面に倒れ伏してた。
……罠だな。いつぞやのクラーケンとは違って、流石に狂乱一族は最弱のものでさえ「滅びの咆哮」一撃で死ぬようなヤワさではないので、おそらく死んだふりで何か大技を準備しようとしているのだろう。
だがそういう奇策は、上手いこと対策すれば逆に相手を嵌めることができるものだ。
経験則からの戦況判断や各種解析魔法を駆使し、俺は相手の次の動きを読もうとした。
しかし、何の兆候も得られなかったので……とりあえず一旦相手の策を利用するのは諦め、防御に転じて「特異結界」を展開する。
「……まさか、今の一撃で死んだのか?」
「いや、そんなはずは……」
だいいち、俺たちが狂乱一族の「死んだふり」にひっかかるなど、万が一にもあり得ないのだ。
俺たちに力が流れ込んでくるかどうかで、本当に死んだかどうかは判別できるのだからな。
何か攻撃を仕掛けてくるはずと思い、更に20秒ほど待ち続けた。
だが……一向に相手が動く気配はない。
これはおかしい。
このまま待ち続けるのもあまり良くないかもしれないぞ。
「メルシャ、一旦退避だ。神界に戻るぞ」
今俺たちが対峙しているのは、俺たちの理解の範疇すら超えた超常能力の持ち主。
考えつきもしないような即死攻撃の手段を相手が持っていないとも限らないので、相手が理解不能な行動に出た場合は撤退も視野に入れつつ戦うことにしているのだ。
そして今がそのタイミングだと思ったので、俺はメルシャにそう声をかけ、異世界転移能力を発動した。
「一体何がどうなっておる?」
「さあな……」
瞑想に入り、転移先座標設定能力でダンジョンの最下層の様子を観察するも……骸骨の方は、未だに微動だにしない。
敵がいなくなったにも拘らず、依然として死の擬態を続ける理由は何だ。
……まさか。
「メルシャ。ちょっとさっきの骸骨、蘇生してみてくれ」
最初にダンジョンの最下層に入った時感じた違和感と今の状況から一つの仮説が思い浮かび、俺はその検証のためメルシャにそう頼んだ。
「蘇生……? ライゼルどのはアレはまだ死んでないと判断しているのでは……?」
「その検証がしたいということだ。万が一、蘇生が成功した場合は……全く別の可能性を考慮しないといけなくなる」
「……分かった」
メルシャは暴走のルナムートから得た能力で、先ほどの骸骨の蘇生を試みた。
すると……俺たちの目の前に、得体の知れない球体が出現した。
球体は地面に落ちるなり、水風船を地面に叩きつけた時のごとくベシャッと飛び散ったが……しばらくして液体は一か所に集中し、モゴモゴ動きながら形を形成していった。
最終的には、先ほど戦った相手とそっくりな鎖鎌を持つ骸骨が完成し、変形が止まった。
「……そういうことだったか」
一連の流れを見て……今まで起きた不思議な現象全ての謎が、完全に解けた。
……誰がこんなことをしたのかは分からないが、完全に騙されたな。
ちょっとキリが悪いですが、1話にすると長かった文量を分割したせいなので、明日続きを投稿します。




