第41話 転移先座標設定能力
さて、肝心の神界のアドレスだが……。
「……これっぽいな」
俺が目星をつけたのは、「122.103.155.136」というアドレス。
このアドレスに目をつけた理由は、これだけ出だしが「192.168〜」ではないからだ。
おそらくだが、「下界は192.168系列、神界はそうでない」のような法則性があるのではないか。
仮説を確かめるべく、俺は異世界転移能力を発動した。
転移が終わると……そこは一個の巨大な装置を除いて何もない、真っ白な世界だった。
「ここが神界なのか?」
「その可能性は高いな」
あの装置が女神の力に関連するものだったら、ほぼ確実にここが神界だと断定してOKだろう。
装置にはモニターとキーボードがついており、モニターには「世界検索」と書かれた検索ウィンドウが映っていたので、試しに俺は「192.168.233.24」と打ち込んでみた。
すると……俺が女神と出会った砂漠(旧溶岩地帯)がモニターに映し出された。
どうやら、異世界転移能力に関連する装置と見て間違いなさそうだな。
「ここが神界で間違いないようだ。俺はさっきのダンジョンの最下層に直接転移する方法を探るから、今のうちに変身を済ませておいてくれ」
「分かった」
指示すると、メルシャは竜族に変身するための魔法を構築し始めた。
問題は……この装置でどうすれば転移先を操作できるかだな。
とりあえず俺は、いろいろキーボードでの操作を試してみることにした。
どれどれ。まず十字キーを押すと……おっ、画面に移る景色が若干移動したな。
そして画面の端には、「転移先座標確定」という項目が出現した。
どうやら画面に映っている場所を、新たな転移先に設定できるみたいだな。
となると、あとは画面上でさっきのダンジョンの最下層を表示し、「転移先座標確定」をすればいいわけだが……今の十字キーでの画面遷移速度だと、途方もない時間がかかりそうだ。
ここは一つ、表示領域を拡大/縮小する機能で「ざっくり位置を合わせてから細かい調整に入る」ということができれば嬉しいのだが。
……「CTRL」と「−」を同時押しで縮小、「CTRL」と「+」を同時押しで拡大できるのか。
これなら設定も一瞬でできそうだな。
惑星全体がモニターに映るほど縮小してからザックリ位置を合わせ、それから徐々に拡大しつつ微調整を繰り返すと、画面にはダンジョンの最下層が移るようになった。
そしてそこで「転移先座標確定」を押すと……並みの熟練者なら瞑想中でないと気づかないくらいごく僅かに、体内の魔力の性質が変化するような感覚を覚えた。
この微弱な変化によって俺は、「192.168.233.24」への転移をするとダンジョンの最下層に移るようになったということだろう。
……こういうことだったんだな。
実は俺、ずっと不思議だったのだ。
異世界転移能力には、「転移先の世界のどこの座標に出現するか」を決める操作方法がなかったことに。
どういう原理でこうなったのかは知らないが、その能力はこのような装置で外部化されていたってわけだな。
「よし。いつでも転移できるようになったぞ」
「……早いな。流石に我の竜化、まだあと50分はかかるぞ……」
ま、そうなるよな。
暇だし、他に何かやれることがないか色々試してみるか。
といっても……何をしようか。
そうだ。どうせなら、この装置の能力、取り込めないか試してみるか。
いちいち転移先変更のためだけに神界に寄るの億劫だし。
全く有効かどうかの確証はないが、手始めに俺は勇者合成用魔道具の「被吸収」にこの装置を、「吸収」に俺を設定し、魔道具を起動してみた。
すると……俺の体内に、新たな力が取り込まれたような感覚があった。
と同時に、モニターには一瞬砂嵐が現れ、そして直後、モニターは真っ暗になった。
試しに「192.168.233.24」と念じながら、目を閉じ瞑想をして集中力を上げると……脳内にダンジョン最下層の情景が広がる。
移動や拡大・縮小を念じてみると自由に脳内の景色を移動することができたし、「転移先座標確定」と念じると再び魔力の質が微小に変化したのを感じ取れた。
どうやら、転移先操作能力の取り込みに成功したようだ。
……そんな気はしたんだよな。
そもそも転移自体は自力でできるのに、その座標操作だけ装置を用いなければいけないことが不思議でしかなかったのだ。
どうしてそうなっているのか考えた結果……俺は「女神は脳内で緻密な転移先設定をするのが苦手だったので、元々一つだった能力のうち転移先設定部分だけを装置という形で外部化し、自分と切り離した」という仮説に思い至った。
そして「元々女神の力だったなら、女神本体と同様勇者合成用魔道具で吸収できるはず」と考え実行してみたところ、今に至るわけである。
全く、面倒なことをしてくれたものだ。
こんな方法に頼るくらいなら、自身の力の制御能力を鍛えた方がよっぽど有意義だというのに。
きっと女神は、自身の稚拙さと向き合えない、向上心に欠ける奴だったのだろう。
とりあえず、実験のためにずらした転移先座標をダンジョンの最下層ピッタリに戻すと、今度こそいよいよやる事がなくなったので数十分待った。
「待たせたな。我の竜化、終わったぞ」
「よし。じゃあ行くか」
そしてメルシャの変身が終わると、自身も同じ魔法で「人化の術を用いた竜」となり、転移能力を発動した。




