第40話 ダンジョン入り口にて
※前話の微修正に関して
「狂乱一族のいるダンジョンのある街に転移した」としてましたが、今後の話の都合上僻地としました。
ご了承ください。
転移用魔道具の効果が発動すると……周囲の景色が、砂漠から草木の生い茂る森へと変わった。
「ここが……ダンジョンの入り口か?」
「ああ、そうだ」
「……こんな人里離れた僻地にか?」
メルシャはこの景色を見て、不思議そうに辺りをキョロキョロしながらそんなことを聞いてくる。
ダンジョンは天然の産物であり、決して人口物ではない。
それでもメルシャがそんな質問をしたのは、メルシャの中に「ダンジョンの周囲には人が集まり、街ができるはずだ」という固定観念があるからだろう。
実際多くの場合において、その論理は正しい。
ダンジョンは魔物から取れる素材や地面・壁から取れる魔法金属など、資源の宝庫だからだ。
油田があれば石油産業が発展しそこに街ができるように、ダンジョン周辺にも冒険者や技術者が移り住み、都市開発がなされる。
この世界でもそのようなロジックから、世界のほとんどのダンジョンの近辺では、数百年前からとうに都市開発が済んでいる。
それはメルシャの世界でも同じことだったので……メルシャが今の疑問を持ったのは、ごく自然なことなのだ。
——などと考えていると。
「我の世界より発展した文明がある世の中で、未発見のダンジョンを知っているとは、流石はお主だな」
メルシャはそう言って、うんうんと頷きだした。
どうやらメルシャは、ここを前人未到の隠しダンジョンか何かだと考えたようだ。
だが……ことここに関して言えば、実情はちと違うんだよな。
「ここのダンジョンが未開なの、多分メルシャが思ってるような理由じゃないぞ」
このダンジョン——未発見なわけではなく、単に需要のないダンジョンなのだ。
「このダンジョンは全部で100階層だが、うち80階層はホーンラビットしか出てこない。80〜99階層についても、出てくる魔物は一番強いのでレッサーウルフだ」
……そう。
ここのダンジョン、出てくる魔物があまりにも弱すぎて、ろくな資源が取れないのである。
更に言えば壁や地面についても、精錬費用の半分も売上が立たない濃度のミスリルしか含有しないので、鉱物資源の産出地としても使い物にならないのだ。
狂乱一族を倒せない人にとっては、あらゆる意味でただのゴミなのである。
「な、なるほど……確かにそれは、僻地として放置されるだろうな」
メルシャも説明を聞き、絶句しつつも納得したようだ。
ま、ある意味俺にとっては、この状況は好都合でもあるのだがな。
というのもダンジョンというのは、最下層のボスを倒すと、一定期間ダンジョンとしての機能を失い、魔物が一切出てこなくなる。
そのため、ボスを倒すには通常、ダンジョンがある地域の許可を取る必要があるのだ。
倒された前例こそ無いが、狂乱一族がボスとなっているダンジョンも実は、同じ仕組みとなっている。
何の気兼ねもなくボスである狂乱一族を倒しに行けるので、逆に俺としては、ここがゴミダンジョンでありがたいというわけなのである。
「それなら、攻略しても仕方がないな。我が竜化を終えたら早速最下層に転移か」
俺の話を聞き、そのような結論に至るメルシャ。
「転移か……」
その単語を耳にし、しばし俺は頭を掻いた。
実は狂乱一族がボスとなっているダンジョン、転移魔法や魔道具が使えなくなっているんだよな。
狂乱一族がいるダンジョンには天然転移阻害が張られていて、それをすり抜けたり破壊したりする魔法は、俺含め誰も開発できずにいたのだ。
とはいえ……メルシャが「人化の術を使った竜族」に変身するには、まだ一時間以上の時間を要する。
それだけの時間があれば、量子魔法陣を用いる転移阻害すり抜け魔法を、開発することも不可能ではないかもしれない。
何の旨味もないダンジョンを律義に攻略するのも怠いことこの上ないので、今は魔法の開発に専念して時間を有効活用するべきかもしれないな。
「そうだな。考えておこ——」
しかし。そう思い、返事をしかけた時のことだった。
俺は、更なる名案を思いついてしまった。
別に新たな魔法を開発せずとも……女神の異世界転移能力で「一回神界を経由して」この世界に転移し直せば、ダンジョン最下層に直接転移することも可能なのではないか?
冷静に考えれば、女神は俺を招待しに来た際、「私の出現位置は、その世界における最強の人間の近くとなっているはずです」と言っていた。
つまり女神の転移位置はあてずっぽうではなく、調整されていたはずなのだ。
この世界に帰還する際は、転移先を「192.168.233.24」に選ぶと自動で元いた場所に帰還することとなったが、実際はこの能力を使いこなせば「この世界のどこに転移するか」まで微調整可能なはず。
そして女神の力は、この世界の天然転移阻害には干渉されないはずだ。
これは、試してみるよりほかないな。
「メルシャ、試したいことがあるからやっぱり神界に行こう。竜族への変身はそこでやってくれ」
俺はそう言って、計画を変更した。
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