第4話 魔王は本当に悪なのか
工房を出た俺は、落ち着いて考えるスペースの確保のため、安宿を借りて部屋に入った。
そして俺は、とりあえず思いついた疑問を一個ずつ解消していくことにした。
まず解決するのは——「ここが本当に異世界なのか」という疑問だ。
俺は自称女神が本当に「異世界の神」だなんて信じていなかったし、ここに来たのだって、おおかた異世界召喚という程のただの空間転移魔法だろうと思っていた。
だがここが元の世界と同一だと考えるには、あまりに文明レベルが違いすぎる。
少なくとも元の世界には、いくら未開の地だって、工業用ダイヤモンドが普及していない地域なんてなかったはずだ。
とすると、一体ここは何なのか。
まさか本当に異世界だというのか。
その問いの答えを見つけるべく、俺は一つの術式を展開した。
俺が展開したのは、簡単な解析魔法の一つ。
「量子運動解析魔法」だ。
流石に物理法則が元の世界と違ったりすれば、ここが異世界だと認めざるを得ない。
とはいえ日常生活レベルでは明らかに差異がないので、ミクロの世界を観察してみることにしたのだ。
それを確かめるために使うのが、この魔法というわけだ。
「結果は……」
しばらく待つと、解析結果がホログラムとして空中に投影された。
それを見て……俺は言葉を失った。
「まさかとは思ったが本当にこんなことが……」
なんとミクロレベルでは、この世界の物理法則が元の世界と全く違うことが分かったのだ。
これはこの世界が確かに異世界であるという、確定的な証拠だ。
つまりあの自称女神は、本当に異世界の神だったということになる。
だとすれば……今までの出来事が「自称女神のお遊戯」でなかった以上、国王が俺を追放したのは女神も想定外だったと考えられるだろう。
ならば俺が今後すべきことは、女神の意図を深読みすることなどではなく、ただ単に勇者ムーヴをすることということになる。
国王の指示とかそう言う部分は無視して、単に魔王を殺害すれば女神は満足だろうか?
「……いや、待てよ」
だが……そこまで考えた時。
ふと俺は脳内に新たな疑問が浮かび、一旦考えを練り直すことにした。
「そもそも魔王って……何なんだ?」
俺が元いた世界には、「魔王」などというものは存在しなかった。
魔族とは、魔法が得意で人間を滅ぼすことしか考えていない邪悪な存在だったのだが……彼らはとにかく身勝手で、とても王政など敷ける性格ではなかったからだ。
ここが異世界だとはっきりするまでは、魔王なんて、どうせ特定の強力な魔族を指す隠語かなんかだろうとばかり思っていた。
だが……ここが本物の異世界である以上は、この世界の魔族が俺の知っている魔族とは違っていて、王政を敷けるような存在である可能性も十分考えられる。
だとすれば……極端な話、この世界の魔族は悪ですらなく、魔族を滅ぼすのは間違っているという説さえ浮上し得る。
「……魔王に会いに行くか」
そこまで考えたところで、俺が出した結論はそのようなものだった。
あまりにも、この世界の情勢について知る手がかりが少なすぎるからだ。
国王から追放されてしまった以上、人族陣営の有力人物から有用な情報を得るのは難しくなってしまったので、次にアテにできる情報源といえば魔族陣営だ。
それに俺としては、全くの未知の世界について知るうえで、できるだけニュートラルな視点を持ちたいという思いもある。
殺すとかは一旦置いておいて、まずは取材目的で魔王に会いに行ってみるのだ。
どうせ殺すのはいつでもできるだろうし、殺害は十分な証拠が集まって本当に魔王が敵だと判断できてからで遅くない。
……前の世界で収納魔法に入れていたものは、こちらでも取り出せるのだろうか。
「サテライト」
……無事できたな。
俺は収納魔法で取り出した探知用衛星魔道具を打ち上げ、魔王の拠点への経路のマップが完成するまでひと眠りすることにした。
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