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第39話 新たな魔法とともに

 懐かしいな。

 確かこの溶岩地帯は、俺が超高密度の剣を作る魔法の実験の際、失敗してできてしまったんだったか。

 それも、あの女神にメルシャたちの世界に召喚される直前に。


 今となってはあの魔法も、暴発させることなく成功させられるだろうな。

 それどころか、あの魔法の比じゃないほど高度な魔法陣も、今なら難なく組めるだろう。


「随分と殺風景な惑星だな……。ここはテラフォーミング中の月か何かか?」


 周囲の風景を見るや否や、メルシャはそんな感想を呟く。


「いや、殺風景なのはここだけだぞ。ちょっと場所を移せば普通に人が住んでいる」


「本当か? にしては火山でも何でもない平地が溶岩地帯になっているのが変な気がするが……」


「それは俺が実験がてらそうしてしまっただけだ。もっとも、これは失敗の結果なんだけどな」


「実k……」


 この土地の実情を説明すると、メルシャは絶句してしまった。


 別に人が住む土地でもないし、このままにしていても特に問題は無いのだが……実験がてら、ここの土地をもとの砂漠に戻してみるとするか。

 そう思い、俺は分子配列変換魔法を発動し、見渡す限りの溶岩を砂漠に戻した。

 ……うん。理論上は思いついていたものの魔法制御力の限界的に実用できなかった魔法陣を用いてみたところ、単位体積あたりの消費魔力量は格段に少なく抑えられたな。


 などと思っていると、メルシャが不思議そうにこう聞いてきた。


「今の魔法陣は……なんだったのだ? えらく不安定に見えたが、魔法はちゃんと発動したような……」


 さすがメルシャ、今俺が使った魔法陣の、従来の魔法との差に気がついたようだ。


「今のは量子魔法陣といってな。立体魔法陣より多くの情報量を詰め込んで効率を上げられる優れものなんだ」


「量子……魔法陣……?」


 聞きなれない単語に首を傾げるメルシャ。

 ……流石に説明が雑過ぎたか。


「複数の立体魔法陣を確率的に重ね合わせることで、立体魔法陣ではできなかった高度な魔力の扱いが可能となるんだ。それによって、同じ魔力量あたりの効果は立体魔法陣と比べても莫大となるから……この面積の溶岩を砂漠に戻しても、使った魔力はごく僅かで済んだって話だな。ちなみに魔法陣が不安定に見えたのは、確率的に重ね合わせるという事象が、視覚的にはそう見えただけの話だろう」


「……」


 顎に手を当てたり、頭を掻いたりしながら、メルシャは何とか話を理解しようとする。


「……だめだ。今の我では、立体魔法陣より凄いもの、ということしか頭に入ってこん。……それもいつか、我も扱えるようになるものなのか?」


「うーむ……それとばかりは、俺にも何とも言えないな」


 女神を吸収する前の俺では、決して量子魔法陣を扱うことはできなかった。

 一番簡単なものでさえ、だ。

 当時の俺にできなかったということは、量子魔法陣を扱うには生物の理を超えた魔法制御力を得る必要があるということ。

 仮に女神を死者蘇生し、メルシャに吸収させたとしても、今の俺の域に辿り着くかは魔族の魔力と女神の力の親和性次第だしな。

 狂乱一族の中に、魔法制御力を限界突破させる種がいればあるいは……くらいに思っておく必要は、あるかもしれないな。


「希望はなくはない、というところか。ところで……その量子魔法陣とやらがあれば、単なる威力の効率化の他にも何か、新しい魔法とかも使えたりするのか?」


「ああ、あるぞ」


 せっかくだし、ついでに何か一つ、量子魔法陣でのみ発動できる魔法を試してみるとするか。

 そう考え、俺は実験に適してそうな魔法をいくつか思い浮かべた。


 ……あの二つの魔法陣を使えば、安全に実験できるな。


「……どうした、またどこか別の世界に転移でもするのか?」


「いや、これはただのワームホールだ」


 一つ目の魔法により空間の一部が歪み出すと、メルシャが既視感から推測を立てたが……これは女神由来の異世界転移能力ではなく、この世界の宇宙の遠方と繋がるワームホールだ。

 ワームホールの先には、一つの青く光る恒星が輝いている。


「あの星をよく見ておけ」


 俺はメルシャにそう言いつつ、青い恒星に向けて一つの魔法を放った。

 次の瞬間……青い恒星は、真っ黒の空間の歪みと化した。


「……は!?」


「……とまあ、量子魔法陣があれば、恒星一つをブラックホールに変えるくらい何のことはないわけだ」


「それもう世界を一瞬で殲滅できるってことじゃ……」


 口をあんぐりと開けたまま、そんなことを呟くメルシャ。

 可能だが、やる意味がないからそんなことはやらないな。

 だいいち、それをしてしまっては俺の住む場所がなくなっちゃうし。


 というかこの惑星系に影響が出ないよう、あえて俺は数億光年離れたどうでもいい星をブラックホールに変えたのだ。

 ワームホール越しに魔法を放ったのは、安全を考慮してというわけだ。


「楽しそうだろ?」


「ちょっとまだ我の理解は追いつかないな……」


 ……まあとにもかくにも、とりあえず今からやるのは狂乱一族の討伐だ。

 今の俺たちなら三番目に弱い狂乱一族くらいまでは余裕で勝てるだろうが、超常的な力をコンプリートする目的もあるので、最弱から順に攻略していく方針は変えなくていいだろう。


「じゃ……行くか」


「そ、そうだな。考えても頭が蒸発するだけになりそうだしな」


 などと離しつつ、俺は収納魔法で新たな転移用魔道具を取り出した。

 そして、最弱の狂乱一族が棲むダンジョンの近くに転移した。


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― 新着の感想 ―
[一言] >俺はメルシャにそう言いつつ、青い恒星に向けて >一つの魔法を放った。 >あえて俺は数億光年離れたどうでもいい星を >ブラックホールに変えたのだ。 コミック版を購入したので、読み返してい…
[一言] 数億光年離れた星を一瞬で消しても、それが反映されるのは数億年後になるわけで。 この世界の光の速さは無限なのだろうか?
[良い点] 更新まってまーす!
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