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第36話 帰還のための手段

 女神が空間の歪みから出きって地面に降り立ったところで……俺は部屋全体に「異空間逃避阻害」という魔法をかけた。

 この魔法は転移阻害の亜種であり……主には「収納退避」という、収納魔法空間を安全地帯扱いして逃げ込む魔法を使わせなくするために用いられるものだ。

 一応、理論上あらゆる異空間への移動を禁じれるため、女神が神界(普段の居場所の名称が分からないので暫定的にそう呼ぶ)に逃げるのを阻止できることだろう。


 更に俺は、勇者合成用魔道具に残っていた脆弱性を、魔道具修繕魔法で解消しておいた。

 女神が目の前に現れた以上、もう脆弱性を通じた精神操作をする必要はなくなったからな。


 そんな作業をしていると……女神は国王に向かって、こんなことを言い出した。


「まだ打開策はある。この部屋には、お前の味方になる人物がまだいるんだ。そいつを引き込め!」


 ……一体誰のことを言っているのだろうか。

 不思議に思いつつ、俺は部屋全体に改めて探知魔法を放った。

 が……隠れている人物などは、やはり見当たらない。


「だ……誰じゃ?」


「この部屋に勇者が一人いるだろう! 気づいてなかったのか!」


 女神は語気を強めながらそう言うと……俺に向かって、一つの魔法を放ってきた。

 ——幻影解除魔法だ。

 防ぐのは簡単だが、俺もそろそろ本性を現すタイミングだと思っていたので、あえて防がないでおく。


「……な! 貴様は!」


 俺の幻影魔法が解けると……国王は俺を指差し、そう叫んだ。


「久しぶりだな。元気か?」


「な……なぜ貴様が生きている!?」


 まあ、そうなるよな。

 一応この国では、俺は死んだことになっているんだし。


「暗殺の件なら、死を偽装させてもらったぞ。暗殺部隊の程度が低かったので、偽装も楽で助かった」


「そ……そんなことが貴様にできるわけ——」


 国王は憤って俺を怒鳴りつけようとしたが、その言葉は最後まで続かなかった。


「いつまでそんな事をほざいている! この節穴が!」


 女神が激昂し、国王を張り倒したのだ。


「痛あっ! く、首が……」


「自業自得だろうが! 元はといえば、お前がこの勇者を追放などするからこんな羽目に……!」


 女神はギリギリと歯を噛み締めたあと……一旦深呼吸して、こう続けた。


「魔王を合成勇者を倒せるレベルまで育てたのは……他でもない、この勇者だ。この勇者からすれば、この世界の森羅万象は全て稚拙なおままごと。そんな逸材を、お前は逃してしまったのだ。……だが」


「だが……何じゃ?」


「分からんのか! お前が今すぐやるべきことが!」


 そう言われ……数秒後、国王はハッとして手を叩いた。

 そして俺の方を向くなり、こう言って頭を下げてきた。


「頼む! 勇者としてもう一度、余の味方についてくれ! 魔王を説得し、賠償金の条件を帳消しにしてくれたら……賠償金の七割、7000億パイはお主にやろう!」


 国王は、土下座までしだす始末だ。


 ……いや、別にそんなの興味ないんだよな。

 俺がなりたいのは世界最強であって、資産家ではないのだから。

 個人が国家予算クラスのお金を受け取ったって、ただただ持て余すだけだ。


「対価になってないな」


 俺は一言、ただそう返した。


「そんなぁ……」


 国王は絶望のあまり、その場で気絶してしまった。


 ……おい、条約に調印する前に気を失うなよ。

 仕方なく国王に回復魔法を放っていると……女神はため息をつきながら、こう吐き捨てる。


「……チッ、使えない奴だ」


 そして女神は……俺の方に向き直ると、こんなことを言い出した。


「おい、そこの召喚勇者。お前……元の世界に帰りたいんだろう?」


 おっと、今度は俺に直接交渉ときたか。


「そうだが」


「なら……その願い、叶えてやろう。ただし一つ、条件がある」


 ……話が早いな。

 条件とは何だろうか。


「そこの魔王姉妹を、お前自身の手で殺せ。そうすれば……今回は見逃して、元の世界に返してやろう」


 なんと……話が早いかと思いきや、突き付けてきた交換条件の方が強烈だった。


 ……なるほど、この世界の情勢のリセットが条件というわけか。

 確かに俺には限定死者蘇生の能力があるし、千歩譲って女神の条件を呑んだとしても、俺にとってデメリットはない。


 だが……女神が約束通り元の世界に返してくれるかどうかは、疑問なところだ。

 平たく言えば、第三者の世界——例えば俺以外の召喚勇者の世界などに放り込まれてしまう恐れも、ゼロではないわけだ。


 その交換条件、フェアじゃないな。


 第一俺は、この場に女神が現れた時点で、もっといい帰還方法を既に思いついてあるのだ。

 別に女神に元の世界に帰してもらわずとも——俺自身の力で、もとの世界に帰還すればいい。

 その力は今の俺には無いが、入手方法は目の前にあるのだ。

 この方法を使えば、女神の交換条件を呑むよりも、遥かに安全で確実だ。


「そんな条件、呑むわけがないだろう」


 そう言いつつ……俺は、勇者合成用魔道具を起動した。

 もちろん、「吸収」側は俺、「被吸収」側は女神でだ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 色々と滅茶苦茶だけどチートアイテムがギャグ的要素になってるの草
[良い点]  ○○○○、吸引力の変わらない魔道具です。
[一言] うぐぁぁぁあ おもしろすぎるぅぅうあぁぁあ
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