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第35話 交渉と再会

 読唇魔法により、従者による戦況報告が完了したのがはっきりしたところで……俺は転移用魔道具を起動し、王宮の玉座の間に転移した。


 今回転移したのはシシル、メルシャ、そして俺の三人。

 交渉の主な部分はシシルが担当し、メルシャは必要に応じて補佐に入るといった感じだ。


 名誉魔王は基本、政務には関わらないものだが……特定の政務において現魔王が関与を許可した場合は、このように携わることが可能となる。

 今回はむしろシシルの方から、せっかくまだこの世界にいる以上、姉にも見届けてほしいと申し出た流れだった。


 ちなみに俺は戦争当日と同じく、変装により幹部クラスの魔族を装っている。

 俺の役割は、交渉中必要に応じて「サテライト」で押さえた証拠資料を提示することなどだ。

 そして変装の方は、女神が現れる等何か必要な事情があった場合のみ解くつもりだ。



 さて、玉座の間に転移すると……早速シシルは、交渉開始を宣告した。

 国王の方はというと、俺たちの突然の登場に腰を抜かし、椅子から転げ落ちてしまったようだ。


 ……って、ちょっと待て。

 国王のやつ、なんで未だに首を治療していないんだ?

 しかも、右手首は謎の?離骨折を数か所起こしてるし。

 いったいどんな威力で机を叩きつけたらああなるんだ。

 思わず俺は、常時発動の探知魔法に映った情報に、心の中で怒涛のツッコミをかましてしまった。


 ……まあ、交渉に支障をきたすようなものではないからどうだっていいのだが。

 そんなことを考えている中、シシルは床に座り込む国王にこう命じた。


「いつまでもへたり込んでないで早く椅子に座りなされ。交渉はそれからだ」


「……ひゃい!」


 震えながら、国王はなんとか立ち上がって席に戻る。

 シシルは机に条約文を広げると、こう語りだした。


「私からの要求は三点。治外法権や人族領内人権不付与を始めとする不平等条約の全撤廃、人族領内における魔族の奴隷の全解放、そして賠償金1兆パイだ。具体的にどの条項を撤廃してもらうかは、全てそこの条約文に書いてある」


 そう言ってシシルは、自分で広げた条約文を指差す。

 国王は途端に顔面蒼白になりつつ……シシルを上目遣いで見て、こんなことを言い出した。


「ま……待ってくれ! そもそも人族領では、魔族を奴隷として使用したりはしていない!」

 なんと……国王の対応は、すぐバレる嘘をつくという、何とも幼稚なものだった。


「白々しい嘘をつくな!」


 シシルは語気を強め、国王の机を(もちろん自身の手を傷めない範囲で)叩く。


「ひっ……! いや、本当じゃってば!」


 ……これは埒が明かないな。

 俺は証拠を突きつけるため、「サテライト」の監視対象にしていたとある施設の様子を、ホログラム投影魔道具で映し出した。


「警棒を持つ人族の管理人のもと、何百人もの魔族が長時間の単純作業を強いられているようだが……これはどう説明するつもりだ?」


「……そんな!?」


 開いた口が塞がらないまま、映像を見つめる国王。


「このような施設が、全国に約100箇所。これで『奴隷などいない』は無理があるだろう」


「……はい……」


 国王はとうとう観念し、項垂れた。

 かと思うと……往生際の悪いことに、国王は今度はこんなことを言い出した。


「ただ……賠償金だけはご勘弁を! せめて提案額の100分の1くらいにはしてもらわんと、我が国の財政が立ち行かん!」


 またもや、白々しい嘘だ。

 そもそも俺たちは、「サテライト」で国庫の中身を確認した上で賠償金額を決定している。

 1兆パイは、国庫に格納されている現金のほぼ全てに該当する額だ。

 大打撃なのは間違いないだろうが、宝物庫など現金以外の資産には手をつけず払える金額だし、王族や貴族が節制に励めば民衆への負担はさほど大きくならずに済むだろう。

 つまり、財政が立ち行かんというのは確実に言いすぎだ。


 ……これもまた、見せる必要があるか。


「この金庫の中身を以てしても足りんというつもりか?」


 ホログラム投影する対象を国庫の内部に切り替えつつ、俺はそう言った。


「……ばかな! あの厳重な万能結界の内部を、一体どうやって……」


 またもや唖然として、国王はそう口をすべらす。


 しかし……直後になって。

 国王は一瞬遅れて、その発言が墓穴を掘る行為だと気づいたようだった。


「あ、いや、その、あんな国庫は……無い!」


「そんなデタラメがまかり通ると思うか!」


「いやぁ……」


 ようやく、国王はこれにも観念したようだった。


「では……全部読んだら、末尾にある契約魔法陣に親指を押しつけて魔力を流せ」


「……はい……」


 渋々といった様子で、国王は条約文を読み始めた。

 あとはもう、国王の行動を見守るだけだな。

 一応、契約魔法の時に変な細工をしようとしないかだけ見張っておくか。




 ——と、思っていたのだが。

 国王が条約文を読み終わるか終わらないかというタイミングで……どこからともなく、懐かしい声が聞こえてきた。


「早まるな! まだそれに調印するでない!」


 直後……部屋の天井付近の空間が少し歪んだかと思うと、その空間の歪みから一人の女が姿を現した。

 ……精神操作魔法が完成するまでもなく、お出ましになったか。

 俺にとっての本番は、ここからになりそうだな。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「あ、いや、その、あんな国庫は……無い!」 無いなら全部パクった上で賠償金とっても問題ないよね!
[気になる点] 介入のタイミングがここなら女神は戦闘力高くなさそう 異世界転移もなんらかの条件とか段階を踏まないとできないのかな? 問答無用でできるなら合成勇者はもっと強化されてそうだし
[一言] 口調変わったな女神 猫被ってたか
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