第34話 敗戦の報告
[side: 王宮]
合成勇者たちが出陣してから、40日目の朝。
「おーいてててて……」
国王は首をさすりながら、ベッドから起き上がった。
この世界にも、頸椎の捻挫を治療できる回復魔法やポーションは存在する。
しかしあえて国王は、治療を先延ばしにしていた。
——今後戦勝に伴い行われるであろう賠償金などの条件交渉の際、一ミリも甘い考えが出てこないようにするためだ。
苦痛を感じ続けておくことで、仮に魔王が「勘弁してください」と頭を下げてきても、毅然として突っぱねる気でいられる。
情をかけてしまわないための手段として、治療を先延ばしにしているわけだ。
そんな調子なので当然、負けた時のことなどこれっぽっちも考えていない。
「さあてと、それでは普段の業務を始めるとするか」
そして……国王は、まだまだ合成勇者たちは帰ってこないと思っていた。
魔王を殺した後、ある程度魔族領を荒らしてから帰ってくることを計算に入れると、あと倍の時間くらいかかるだろうと思っていたからだ。
だが……玉座の間に入り、最初の書類に目を通そうとした時のことだった。
「陛下。レジアス様がお戻りになりました」
彼は、軍の帰還を耳にすることとなるのだった。
「ほう!」
それを聞いて……しかし。
国王は、顔を綻ばせた。
「まさか半分の日程で済ましてきおるとはのう。レジアスも相当気合が入っておったのじゃな。持つべきものは有能な部下、とはこのことじゃのう……」
お花畑なことに、国王はレジアスが気合で行軍を早め、勝って来たと確信したのだ。
「通せ!」
国王はそう言って、従者にレジアスを中に入れるよう伝えさせる。
しばらくすると……レジアスがドアを開け、中に入ってきた。
その顔は……この世の終わりの象徴かのように沈みきっていた。
「どうした、レジアス。無理な行軍で体調でも崩したか?」
そんなレジアスを見ても尚……その表情の原因が敗戦だとは、一ミリも思わない国王。
国王の期待はレジアスの心に更に重くのしかかり……レジアスは、大人になってからは初めての涙目になりながら報告を始めた。
「申し訳ございませんでした。合成勇者は……」
「合成勇者がどうした。まさか……魔王に奇跡的に一撃入れられて、顔に傷がついた、とかか?」
あまりのレジアスの悲痛な様子に違和感を覚えながらも、国王は以前として楽観的な推測を続ける。
その言葉はレジアスの心を更に締め付けると共に……レジアスの中に、反抗的な感情を生み出した。
こんな自分を見て尚そんな推測しかできないとは、いったいこの間抜けはどこまで頭お花畑なのか。
怒りは瞬時に増幅し、レジアスの中で何かが吹っ切れた。
「違います! 合成勇者は、魔王にあっさり殺されてしまったんですよ!」
「……へぇ……!?」
「だ・か・ら、我々の軍は負けてしまったということです!」
「……えぁ……!?」
あまりのレジアスの権幕に、一瞬狼狽える国王。
しかしその言葉の意味が理解できた瞬間……国王の怒りもまた、沸点に到達した。
「何じゃとぉ! ……ぃっ……」
机を思いっきり叩きつけたことで、国王の手首には無数のヒビが入り……国王は小さく悲鳴を上げてしまう。
その悲鳴を無かったことにせんとばかりに、彼はこう続けた。
「何が『魔王にあっさり殺されてしまったんですよ』じゃこのたわけが! そんなんで余の前におめおめと面を見せおって! どんな手段を用いてもいい、早く合成勇者を復活させんかい!」
完全に冷静さを失った国王は、とうとう狂ったような無理難題を押しつけ始める。
だが……そんな国王を待ち受けていたのは、更なる絶望的な報告だった。
「それがその……合成勇者は吸収されてしまいました。おそらく四天王の一人と思われる魔族に……!」
「……は?」
吸収。
その単語を聞き、国王の視線は自然と横を向いた。
——本来であれば勇者合成用魔道具が置かれているはずの、部屋のある方角だ。
「吸収ってまさか……」
「ええ。四天王の一人が、なぜが勇者合成用魔道具を所持しておりました。いったいどうやってあの厳重な警備を突破されたのか、皆目見当がつきません」
「ふざけるな! ……あっ……」
勇者合成用魔道具を奪われたという報告を聞き、国王は再び机を思いっきり殴りつけた。
そしてそれは、先ほどできた手首の骨のヒビをさらに悪化させた。
「貴様という奴は……ええい! 職務怠慢で処刑じゃ!」
魔道具管理の杜撰さ(実際にはどうしようもなかったのだが)という大義名分を得て、満を持して重すぎる懲戒処分を言い渡す国王。
その発言を聞き、部屋の外にいた門番二人は部屋に入ってきて、レジアスを引きずり出そうとした。
——が、そんな時だった。
「待たれよ」
聞きなれない声が響いたかと思うと……部屋の中には、気づいたら見慣れない魔族が数人いた。
「はぎゃぁ!」
想定外の光景に、国王は驚いて椅子から転げ落ちる。
「敗戦の報告は聞き終えたようだな。それでは……和平交渉といこうではないか」
「ひいぃ……!」
「和平交渉」という単語とは裏腹に……鋭い眼光で国王を突き刺す魔族たち。
その様子に、国王は身を震わせるしかなかった。
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