第33話 みんな強くなった
「お祖父……様……?」
蘇った人物を見て、メルシャが最初に発した一言はそれだった。
どうやら、目的の人物を蘇生させられたようだ。
「もしかして……メルシャ、なのか?」
それに対し、蘇った人物は、何とも確信が無さそうにそう口にする。
……自分の孫の見分けがつかないのか?
不思議に思っていると、蘇った人物はこう続けた。
「いやしかし……確かに瓜二つなのじゃが……竜族じゃしのう……」
変身魔法のせいだった。
「あー、それは、魔法で『人化の術を使ったドラゴン』に変身しておるからの……。ライゼルどの、もうこの魔法解いてよいか?」
「ああ」
変身魔法の解除を許可すると、メルシャは元の魔族に戻った。
「おお……? 確かに魔族に戻ったぞ……。間違いない、我が孫娘のメルシャじゃ!」
蘇った人物もそれに伴い、ようやく目の前にいるのがメルシャだと確信できたようだ。
「また会えるなんて思っていなかったよ、お祖父様……」
「儂もじゃよ、メルシャ。見ないうちに、儂には想像もつかぬほど強くなったようじゃのう……」
「ああ。つい先日には、合成勇者を討伐して仇を取ることもできたよ」
「ほほう……それは!」
しばらく感動をかみしめながら会話していた二人であったが……合成勇者という単語が出たところで。
メルシャの祖父は、ふと我に帰ってこう口にした。
「そういえば……儂はなぜ生きておるのじゃ……? 合成勇者に殺されたはずが……」
「それはな、結構話すと長くなるんだが……」
祖父の疑問に答えるべく、メルシャは全てを時系列を追って説明した。
「な、なるほど……」
メルシャの説明を聞き、祖父は合点がいったようだ。
「ちょっと途中いまいちよう分からんかったが、一つだけよく分かったわい。……そこのメルシャのお師匠様は、とてつもなく異次元な存在なのじゃな」
——訂正。さっきの「なるほど」は、理解を放棄した証だったようだ。
「それで……今メルシャは、合成勇者討伐の功績から名誉魔王となり、今はシシルが魔王をやっておると。儂が生きておった頃にはまだ赤ん坊じゃったのに、大したもんじゃのう……」
……勇者の合成が行われたの、シシルの誕生とほぼ同時期だったのか。
だとすると……シシルの場合、祖父が蘇ったと聞いて実感が湧くかどうかは微妙なところっぽいな。
まあ何にせよ、そろそろ魔王城に帰るとするか。
——しかし。収納魔法で本日三つ目の転移用魔道具を取り出した時のことだった。
「……あ!」
メルシャの祖父は……何かマズいことを思い出したかのように、慌てた表情になった。
「……どうした?」
「そういえば……儂とシシルって、現時点でどっちが強いのじゃ? 若い者に国の行く末は任せたいところじゃが、もし儂の方が強い場合には規則的に……」
……そうか。規則上、祖父の方が強い場合、シシルは魔王位を祖父に譲らなくてはならなくなるのか。
残念ながら、俺の体感だと、10回戦えば7回は勝つ程度に祖父の方が強く感じられるな。
などと分析していると、メルシャの祖父はこんなことを頼んできた。
「お師匠様。例えば……悪玉ウントカステロールとかいうものの比率を、逆に高める毒とか持っておったりせんかのう?」
どうやら自ら魔力脈硬化を患うことで、不本意な即位を避けようとしているようだ。
確かに魔力脈硬化は、戦闘不能になる意外には特に生きるのに支障をきたさない病だし……このようなケースでは、有効な手と言えなくもないだろう。
そして悪玉マナステロール比率を高める毒だが、手持ちには無いものの、善玉を増やす薬に作用機序反転魔法をかければ一瞬で作ることができる。
が……もっと建設的な解決方法はないものだろうか。
たとえば例の魔剣の使用権限を「メルシャの血族」から「シシルのみ」に変更する、とかでは、魔族の掟上シシルが最強扱いにはできないものだろうか。
などと思っていると……メルシャから、思いがけない提案が出た。
「ふと思ったのだが……シシルが合成勇者を吸収することで、その問題は解決しないのか? ついでに我も吸収しておこう」
「……それでいいのか?」
シシルの提案に、思わず俺はそう返した。
実は俺、限定蘇生能力を得た際、「蘇生した合成勇者をメルシャに吸収させてその魔力量を得てもらう」という案は思いついていたのだが……あえて俺は、それを提案しなかった。
吸収という形とはいえ、自分が最も恨んでいた者が自分の一部となることに、抵抗があるのではと思ったからだ。
仮に本心では嫌だったとしても……俺が提案すれば、メルシャはそれを受け入れた可能性もゼロではなかっただろう。
しかし、そのような「本心に嘘をつかせること」をさせ続けていれば、いつか仲間割れの原因になってしまいかねない。
短期的には良い強化手段なのだが、長期的に見るとリスクがあると思い、あえて避けていたのだ。
しかし……似たような提案が、まさかメルシャの方から出てくるとはな。
「恨んでいた相手の力を吸収するのを嫌がると思っておったのか? 確かに、今までの我らなら、そのような感情もあったであろうな。しかし……お祖父様が蘇った後になってまで、恨み続けていても仕方あるまい。合成勇者には、魔族に償ってもらう意味でも、力になってもらうとしよう」
……そういうことか。
まあそれで本人が心から納得できるなら、それはそれで俺としてはありがたいのだが。
「じゃあ一旦帰るか」
「「そうじゃの」」
俺たちは魔王城に帰ると、早速シシルに事情を説明し、吸収作業を行うことになった。
次の日からは、残りの日数くらい家族団欒で過ごしたいかと思い、しばらく一人で鍛錬していようかと思ったが……祖父が「稽古の様子を見たい」と言い出したので、結局メルシャと特訓することになった。
メルシャもすっかり変身魔法に慣れ、人族の軍が王都に到着する前日くらいには、杖無しで変身できるまでになった。
複雑な魔法陣は構築に慣れるまでが大変だが、一個できれば同難易度の他の魔法陣も次々と使えるようになるので、近いうちに「特異結界」なんかも使えるようになるだろうな。
そして——更にその翌日。
人族の軍が王宮に到着し、例の従者が国王に謁見を始めたので……俺たちはその様子を「サテライト」で観つつ、頃合いを見て転移用魔道具で突入することにした。




