第32話 力の使い道
力の流入が完了すると……「暴走のルナムート」から得た力の正体がハッキリした。
「メルシャ、これ何の力だか分かるか?」
自力で力の正体を把握するのも、観察力の訓練になるからな。
いい機会だと思い、俺はメルシャにそう質問した。
「これは……死者蘇生?」
「惜しいな」
メルシャの予測は、良い線を行った。
だが……「死者蘇生」だけでは、半分正解、半分不正解だ。
残念ながら暴走のルナムートから得られる力は、そこまで便利ではない。
「正確には、『自分が過去に殺した者に限り蘇生させられる能力』だな」
そう。暴走のルナムートから得た力には、そのような制限がかかっているのだ。
「例えば……こんなことなら可能だ」
そう言って俺は、手始めに暴走のルナムートを蘇生させた。
なんとなく、俺にはそれが暴走のルナムートを倒した者の義務のような気がしたからだ。
「俺たちと戦って死ねて本望」とは言ってくれたものの……その言葉には、「自分を倒せるほどの奴なら必ず自分を復活させてくれる」という意味が含まれているような気がしないでもないような。
そんな俺の勘は当たっていたようで、暴走のルナムートは蘇るなり、俺たちにこう言ってきた。
『……無事生き返れたか。お前らならそうしてくれると信じていた』
竜の表情にはあまり詳しくはないが……俺にはなんとなく、暴走のルナムートが笑顔を見せたような気がした。
「やっぱりそうか。じゃあな」
『ああ、益々の活躍を祈っておこう』
用事も済んだし、残りの考察は帰ってからやるか。
案の定、ここに来るのに使った転移用魔道具は壊れていたので、俺は収納魔法で新しいのを出し、月を後にした。
◇
月から帰還すると……俺は説明の続きを始めた。
「今のように、自分が殺した相手なら蘇生することができるわけだ。暴走のルナムートはメルシャと一緒に倒したから、正確には『自分が殺害に携わっていれば』だな。だが……例えば、俺には『眠れる古の竜』を復活させることとかはできない」
「なるほど……。眠れる古の竜に関しては、我にならできるということか?」
「そういうことになるな。せっかくだし、試してみるといい」
メルシャが力の試用をしてみたそうだったので、やってみてもらうと……確かに目の前には、かつてあっけなく倒してしまった例のドラゴンが姿を現した。
「……なるほど、力の使い方はこんな感じか」
力の操作感が分かったところで、メルシャはドラゴンに収束度を上げた「滅びの咆哮」を放ち、絶命させた。
「これは……素材の確保には事欠かなそうだな」
倒した新たな「眠れる古の竜」を収納しつつ、メルシャはそんな感想を口にした。
「まあな」
それに対し……俺は特に喜ぶでもなく、ただただそう返す。
確かにメルシャの言う通り、俺たちはもう、魔道具の素材不足で困ることはないだろう。
「眠れる古の竜」をリスキルできるのはメルシャだけだが……俺だって元の世界で、同等かそれ以上に素材として優秀な魔物を狩り尽くしてきたからな。
だが……それ以上でもそれ以下でもないのだ。
正直、既に俺は自分で必要だと思った魔道具を各種量産してあるので、そもそも素材不足に直面する恐れがほぼない。
この能力、使い道がありそうでないのだ。
今の俺はもう上限まで鍛えてあるので、魔物のリスキルで経験値を得るという方法では強くなれないし。
……まあもともと手に入れる予定の能力ではない以上、悲観的になるようなことでもないのだがな。
——などと思っていると。
今度はメルシャが、こんな提案を出した。
「あとは……合成勇者を蘇生即吸収しまくるというのはどうだ?」
……なるほど、そう来たか。
確かにそれが実行可能だったら、際限なく繰り返して魔法出力を爆増させるというのも手だっただろう。
だが……それもおそらく不可能だ。
「それは多分無理だな。あの魔道具では、かつて自分が吸収したことのある者を再度吸収することはできない」
なぜそれを俺が知っているかというと、似たようなことを試そうとしたことがあったからだ。
多機能幹細胞で合成勇者のクローンを作り、吸収しようと実験してみたのである。
結果は失敗に終わったのだが、その原因を探っていると……今言ったような仕様に気づくこととなったわけだ。
やはり今回の能力は、「魔道具の使い捨てに躊躇しなくてよくなった」程度に考えておくのが吉だろう。
——と、そこまで考えたところで。
俺は一つ、新たな可能性を思いついた。
もしかしたら俺……メルシャの祖父を蘇生できるのではないだろうか?
今回得た能力でできることは、あくまで「自分が過去に殺したことのある者」の蘇生だ。
だが、合成勇者を吸収した今となっては、合成勇者は俺の一部であるとも考えられる。
であれば……合成勇者が殺した先々代の魔王、つまりメルシャの祖父を、復活させることも可能なのではないか?
思いついたらとりあえず実行してみよう。
そう思い、力を使おうとしてみると……俺の脳裏に、見覚えのない一人の魔族が鮮明に浮かんだ。
面識は無いにもかかわらず、なぜか俺にはそれがメルシャの祖父だと確信できた。
ここまで行ったってことは……仮説通りの可能性が高いな。
そのまま俺は、脳裏に浮かんだ人物を蘇生すべく、力を込めた。
すると……目の前に、その人物が蘇った。




