第31話 劣化版狂乱一族
諸事情あって遅くなってすいません
メルシャが変身魔法の練習をしている間のこと。
俺はふと、一つ思いついたことがあったので……少しこの近辺の調査に乗り出すことにした。
どんな疑問かというと……それは「この世界には、狂乱一族的な存在はいないのか」という疑問だ。
そもそも狂乱一族とは、倒すと超常的な力を継承できる固有生物の総称に過ぎず、そういう血の繋がった一族が存在するわけではない。
である以上、この世界にも、似たようなやつがいても不思議ではないのだ。
もしそんなのがいて、俺たちに倒せるレベルだとしたら……せっかく手に入る超常的な力は、全部回収したいからな。
帰還する前に倒しておかない手はないというわけだ。
ただ……この惑星上にそのような存在がいないことは、実はもう「サテライト」による全域探索で調査済みだ。
しかし。俺たちが行き来可能な範囲で、まだ未探索な領域がわずかに存在する。
——この世界のこの惑星にある、月だ。
可能性は低いが、一応そこも調べておこうと思ったのである。
「サテライト」でデータを取り始めてしばらくすると……子機から、集まった情報が印刷された。
それを見ていくと……意外な事実が浮かび上がる。
なんと月には、「狂乱一族」と同じような超常的な力を継承できる固有生物が、一匹棲んでいることが明らかになったのだ。
もっとも……その戦闘能力は「眠れる古の竜」とトントンレベルな低さらしいので、手に入る超常的な力が凄いものであることには全く期待ができないのだが。
試しに倒しに行ってみる価値くらいは、なくはないだろう。
数時間待って、何度目かの挑戦でメルシャが人化したドラゴンへの変身に成功すると……俺はこう提案した。
「なあメルシャ。実は月に、狂乱一族の劣化版みたいなのがいるっぽくてな。せっかく変身に成功したんだし……一緒に倒しに行ってみないか?」
するとメルシャは……なぜかキョトンとしてこう聞き返す。
「構わぬが……一体どうやって月に行くのだ?」
……ん? どういうことだ?
「転移用魔道具の最長転移距離は二万キロメートルなのだろう?」
メルシャがそう続けるのを聞き……俺はメルシャがどこに疑問を抱いているのかがピンと来た。
……なるほど、最長転移距離二万キロメートルに対し、月までは約四十万キロメートルあるから、行けないと思いこんでいるのか。
そういえば、転移用魔道具に関する説明、ざっくりとしかしていなかったな。
「転移用魔道具の最長転移距離は、俺の世界の魔道具規格で『千回の繰り返し使用に耐え得る最長の転移距離』と定義されているんだ。魔道具の安全許容値を無視してもっとたくさんの魔力をつぎ込めば、更に遠くまで転移できるぞ?」
実は……最長転移距離には、そういうカラクリがあるのだ。
しかも最長転移距離は、「多少乱暴に扱われた場合を想定して」定義されているからな。
魔道具のことをしっかり理解して丁寧に魔力を注ぎ込む場合は、もっと長い距離で千回以上使っても、壊れないこともザラにあるくらいなのだ。
とはいえ……四十万キロメートルともなると、流石に魔道具を使い捨てる覚悟が必要になるが。
予備の転移用魔道具はいくつか持っているので、その点も問題にはならないだろう。
「そ、そういう意味だったのか……。なら……行けるのだな」
説明を聞き、メルシャは納得して何度か頷いた。
「で、行くか?」
「お主がそう言うなら行かん理由は無い」
というわけで、俺は転移用魔道具の安全装置を解除してから、膨大な魔力をねじ込んだ。
◇
次の瞬間……俺たちの視界は、辺り一面がクレーターとなっていた。
目の前には……空中でホバリングする、全長2メートルくらいのスタイリッシュなドラゴンが。
『帰りな。俺は俺より強い奴にしか会いたくねえ』
ドラゴンは、俺たちの脳内に直接話しかけてきたかと思うと……興味なさげにそっぽを向いてしまった。
……「俺より強い奴にしか会いたくねえ」とか言い出す割には、彼我の実力差は理解できないのか。
「なら、お望み通りの者が来たぞ」
『フン。人間風情が、この暴走のルナムート様に勝てるだと?』
……そして今度は、外見だけで種族を見誤るときたか。
今の俺たちは、どちらも竜族だというのに。
『命が惜しくないようだなぁ!』
心の中でツッコミを入れていると……「暴走のルナムート」と名乗るそのドラゴンは、どこからともなく瘴気を纏うメリケンサックを召喚し、両手(というか前足?)にはめた。
——まあ、いいか。
知能がある生物に会う中で言えば、今回はまだマシな方だ。
好戦的な奴なら気兼ねなく倒せるが、命乞いとかされたらやりにくかったからな。
「いくぞ」
「ああ」
お互い合図しあうと……まずはメルシャが、「ホーミングボルト」を発動した。
『ンなのが効くかよぉ!』
それに対し、暴走のルナムートは無数の残像ができる超高速のジャブを繰り出し、衝撃波で稲妻を吹き飛ばそうとする。
それに対し……俺は「マグネティックカウンター」を使い、稲妻が衝撃波をかいくぐれるよう進路を調節した。
「ガアァ!」
稲妻はすべて暴走のルナムートに命中し……一瞬、暴走のルナムートが麻痺状態になった。
その隙を逃さず、俺とメルシャは同時に暴走のルナムートに肉迫する。
メルシャは頭を、俺は心臓を同時に狙った。
メルシャが暴走のルナムートの頭を蹴り飛ばすと同時に、俺はその心臓を抉り出す。
暴走のルナムートは、蹴りの衝撃で首から上が外れて飛んでいった。
『俺が……見誤ってた……』
胴体もぐったりと月面に崩れる中……微かに、そんな声が頭に響く。
『見事だ……お前らにやられるなら……むしろ本望……』
それが暴走のルナムートの遺言となった。
同時に、俺は自身の身体に新たな力が流れ込んでくるのを感じた。
……さて、これはどんな超常現象を起こすのに使えるのだろうか。
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