第29話 吸収の結果
魔道具の設定が終わると……次第に合成勇者の身体が輝き始めた。
その輝きが増し、完全に光の塊にしか見えなくなると……今度は合成勇者の身体から、光の粒が飛んできだす。
光の粒は俺の身体に触れると、俺に吸収されていった。
光の粒が一粒吸収されるごとに、俺は自身の魔力が増幅されていくのを感じた。
……なるほど、吸収とはこんな感覚なのか。
あの光の塊が全部吸収される頃には、とんでもない量に魔力が増えていそうだな。
などと思いつつ、しばらく待っていると……下から微かに、震えるような呟き声が聞こえてきた。
「馬鹿な……一体いつあの魔道具が盗まれたというのだ! というかアイツ、なぜ死体を吸収できている!?」
見てみると、そこには例の国王の従者がいた。
……わざわざ様子を見に来たのか。
なぜ吸収できているかというと、まあ簡単に言えば、この魔道具から見ての生死の基準が「吸収」側の人間の回復魔法能力に依存するからなのだが……まあ説明してやる必要もないか。
俺は従者の疑問を無視し、そのまま待ち続けた。
約十分が経つと……ようやく、光の塊の完全吸収が完了した。
それにより、俺の能力はだいたい次のような感じになった。
まず総魔力量だが……これは従来の50倍にまで伸びた。
流石は何十人もの勇者の合成体を吸収しただけあるって感じだ。
魔力量だけで言えば、召喚勇者たちだって俺の8割くらいはあったからな。
かつての召喚勇者たちも同じような魔力量だったと仮定すれば、合成勇者は62〜63体の召喚勇者の合成体だったということだろう。
そして魔法出力——1秒あたりに出力できる魔力量だが、こちらは5倍に伸びた感じだ。
魔法出力は限界まで鍛えても総魔力量の十分の一が限界だからな。
まあ、妥当な結果だと言えるだろう。
「肝心の魔法制御力の方は……」
万一があってはマズいと思い、一応試してみると……理論通り魔法制御力には影響皆無のようで、俺はいつもの構築速度で特異結界を組むことができた。
人格にも変化は無いし、本当にデメリットは一切無く、ただただ魔力関係のメリットだけ享受できたというわけだ。
それらを踏まえての結論だが……ついに俺は、魔力量が理由で断念していた対狂乱一族用魔法が一つ、使えるようになった。
試しにやってみたことの収穫としては、十分すぎるくらいだ。
使えるようになったとは言ってもまだ「理論上は」なので、これから試運転してみる必要があるがな。
色々やりたいことが増えたので、そろそろ戦争を終わらせるとしよう。
幸いにも……軍のリーダーであるはずの国王の従者は、吸収の見物のために間近に来てくれている。
彼に降伏要求の最終宣言を渡し、撤退を開始してもらえれば、今日のタスクは全て終了だな。
「メルシャ、宣言持ってるか?」
「ああ。……そこの男に渡せばいいんだな?」
話しかけると、メルシャは返事をしつつ、収納魔法で宣言を取り出した。
そして従者のいる場所に降り立ち、降伏を勧めた。
「合成勇者は我が殺したし、その合成勇者の力は今や、あそこの彼のものとなった。お前らの負けが明白なのは分かっているだろう?」
「……はぃ……」
「これが降伏要求の最終宣言だ。持ち帰れ」
「で……でもそんなことをしたら国王がぶち切れちゃう……。処刑されちゃう……!」
「処刑が怖いなら、我がお主の首を飛ばして王宮に送り付けてやってもいいのだぞ。……召喚勇者のようにな」
「……それだけはご勘弁をぉ!」
最初は渋った従者だったが、すこし脅すとすぐに宣言を受け取り、胸の内にしまった。
「まあ心配するな。我も条約改正を急ぎたいからな……お主が王宮に着く頃を見計らって、我も王宮に乗り込むとしよう。国王がお主の処刑を言い渡すより早いタイミングで着くから安心しろ、な?」
「あはぁ……ありがたき幸せぇ!」
そして従者は、すたこらさっさと自軍のもとへ帰っていった。
「撤退だ! 何も疑問に思うな!」
従者が自軍の待機場所に着いた頃、遠くからはさっきと打って変わってリーダーらしい凛々しい声が響いてくる。
……別に、大集団転移用魔道具で瞬時に送り返してやってもいいんだがな。
あの魔道具の起動は多少手間がかかるし、そうして改正交渉を早めたからって女神が出てくる保証は無いし、どうせ今帰ってもまずは新しい力に慣れる訓練に時間を割くことになるんだし……そこまでして急ぐ必要もないか。
というわけで、俺たちはただ人族の軍が引き返すのを見送った。
また20日くらいかかるだろうが……帰ったらすぐにでも狂乱一族と戦えるよう、今の魔力量を活かした戦術練習に励んでいるとしよう。
まずは、対狂乱一族の魔法の試運転からだな。
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