第28話 勇者合成用魔道具の解析結果
いやはや、見事な戦いだった。
ただ力任せに勝ったわけではなく、相手の動きに合わせて最適な戦略を立てることで、合成勇者の動きを完封できていたからな。
ただ一つ計算外なことがあったとすれば……合成勇者の戦い方が、想定以上に稚拙だったことか。
あの場であんなに代償が強烈な魔法を使うなど、自殺願望でもあるのかとツッコみたくなるくらいだったな。
まあ……合成されてからは同格以上の相手と戦う経験が皆無だった故に、テンパっただけというのが実情だろうが。
などと考えつつ、俺は詳細解析用魔道具に表示された解析結果の方に目をやった。
すると……いくつかの新事実が判明していた。
まず一つ目は、この魔道具は「勇者合成用」と名がついているものの……その実態は、吸収-被吸収の関係がハッキリしていることだ。
どういうことかというと、二人の勇者AとBがいたとして、「AがBを吸収する」という魔法陣を組めば、Aの人格はそのままにBの魔力がAに追加される形となるのだ。
この時、魔法制御力はAとBのうち高い方に合わせることとなる。
ただし、例えば「Aは生産系の魔法が得意でBは戦闘用の魔法が得意」といったような場合には、合成後はAの生産系魔法技術とBの戦闘系魔法技術を併せ持つ形となる感じだ。
そして二つ目だが、二つ目の特徴は、この魔道具には謎の脆弱性があるということだ。
どのような脆弱性かというと……この魔道具は召喚女神と永続的に魔力が繋がっていて、その魔法的繋がりを通してこちらから女神に介入できるのだ。
これが何を意味するかというと……俺は特殊な専用魔法陣を組むことで、この魔道具を通じて女神に精神操作をかけたりすることができる。
もっとも、魔道具を通じた精神操作魔法の術式は、魔道具の種類に応じてオーダーメイドする必要があるため、今すぐに精神操作をかけるという風にはいかないが。
今得た解析結果を、詳細解析用魔道具に組み込んであるアルゴリズムの一つに通せば、二か月もすれば専用魔法陣が算出されることだろう。
女神に精神操作をかければ、思い通りに能力を使わせることができるからな。
俺がメルシャと共に元の世界に戻るのはもちろん、召喚勇者たちをそれぞれの元の世界に返すよう命令することだって、できるようになるだろう。
要は、二か月後くらいには確実に帰還ができると、保証されたようなものというわけだ。
もっとも……そういう保証がなされたというだけで、もっと早く帰れるならそれに越したことはないのだが。
というわけで、ここからはちょっと女神に脅しをかけていくとしよう。
まずは下準備として、俺は浮遊式撮影魔道具に映像編集魔法を転送し、受像用魔道具に「魔王メルシャ、合成勇者討伐完了。これにより、中継放送を終了します」というテロップを流した。
ここから先のことを見せると、最悪の場合民衆にとってメルシャより俺が記憶に残ってしまう恐れがあるからだ。
それから俺は、自分やメルシャ、そして近衛騎士たちの耳に特異結界を張り、80デシベル以上の音が聞こえないようにした。
その上で俺は勇者合成用魔道具を天高く掲げつつ、かなり出力を高めた拡声魔法を通じてこう叫ぶ。
「おい召喚神、聞いてるか?」
あまりの大声により、至る所で砂嵐が巻き起こった。
……ちょっと視界不良が過ぎるな。
重力魔法で砂嵐を多少落ち着かせると、俺はこう続けた。
「聞こえるなら出てこい。さもなくば、合成勇者を完全に復活不能にするぞ」
「常世ノ闇」により、『絶命』した合成勇者だが……実はまだ、俺が本気で治療すれば回復させることは不可能ではない。
後遺症ゼロとはできないまでも、リハビリすれば先ほどと同じくらい戦えるくらいまでには治療することが可能なのだ。
そして……その治療が可能なのは、この世界では俺だけだ。
つまり今、女神が合成勇者を復活させたいと思えば、俺に頼る以外方法は無いのである。
もちろん、せっかくメルシャがケジメをつけた合成勇者を復活させる気など無いし、あの読心術がつかえる女神ならそんなことは見抜いていることだろう。
だがそれでも、この場に出てきて交渉を始めなければ女神にとって未来は無いというのも、また事実だ。
そこに「俺でも回復不能な状態にする」までのタイムリミットが加われば……焦って姿を表さないとも限らない。
それが狙いで、俺は先ほどの脅し文句を口にしたのだ。
女神に認知させる方法として「大声で叫ぶ」が適切なのかは不明だが……他に方法を知らないので、そこはもうどうしようもない。
認知してくれれば幸いだと思いつつ、俺は数分間待った。
が……いつまで経っても、女神が姿を現す様子はなかった。
……となると、仕方ないな。
俺は女神の呼び出しは諦め、次の手に出ることにした。
すなわち……合成勇者を、「俺ですら復活不可能な状態にする」ことだ。
これをやれば女神に「コイツらやるときはガチで徹底的にやるぞ」という印象を植えつけられるだろうし、そしたらもしかしたら条約改正中とかに現れるかもしれない。
それを狙う……というのが、第一の理由だ。
だが……正直言えば、俺の一番の関心は合成勇者を俺の定義で「殺す」ことではなく、むしろその過程だ。
せっかくこんな魔道具を手に入れたんだし……実験として、合成勇者を吸収してやろうじゃないか。
俺がこの考えに至ったのは、実は詳細解析結果を見た瞬間だ。
人格や魔法制御力が今の俺のままなら、魔法制御も戦闘も稚拙な合成勇者を吸収するデメリットは皆無。
ただただその「膨大な魔力量を自分のものにできる」というメリットだけが手に入るわけだ。
そして女神に対して魔法的に強硬手段に出られることが分かった以上……人族が対策を立て始めたとしても、もう遅い。
数キロ先にいる国王の従者に、俺の手元に勇者合成用魔道具があることがバレたとて、もう何も問題にはならないのだ。
合成勇者の魔力量が手に入れば、かつて俺が魔力を理由に発動を諦めた大魔法のいくつかが、発動可能になることだろう。
このチャンス、逃す手はない。
俺は勇者合成用魔道具を起動し、自分が「吸収」側、合成勇者が「被吸収」側になるよう、魔法陣を設定し始めた。
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