第27話 対合成勇者戦
転移用魔道具で西メナリス砂漠に到着すると……遠目に人族の軍勢が見えた。
どう見ても合成勇者だけでなく、一般の軍人もそれなりにいる数だが……まあ結局合成勇者を倒せば終戦になるのは間違い無いだろうし、仮に有象無象が玉砕覚悟の突っ込んできても仕方なく殲滅するまでなので関係ないか。
一方俺たちは、メルシャと俺、そして(中継する関係で多少戦争らしさを出すためだけに連れてきた)近衛騎士二人の計四人だけだ。
それはさておき……開戦前から俺の正体がバレるといろいろ話がこじれそうなので、また変装しておかないとな。
そう思い、俺は召喚勇者と再会した時と同じく、幻影魔法で自分の外見を魔族っぽくした。
そのまま30分くらい待っていると、一人一人の顔が分かるくらいには軍勢が近づいてくる。
そろそろだと思った俺は、浮遊式撮影魔道具の映像送信機能をオンにした。
それから俺は、合成勇者の隣にいる、相手の軍勢の隊長っぽい人に目をやったのだが。
俺はその人に、見覚えがあることに気がついた。
「あいつは……」
おそらく隊長と思われるその人物、俺が召喚された際王宮で説明をしていた国王の従者だったのだ。
そいつがここにいるのを見て、俺はある作戦を思いついた。
——勇者合成用魔道具、どさくさに紛れて盗んできて解析しよう。
普段、勇者合成用魔道具が置かれている部屋はあの従者が定期的に見回っていたので、俺は魔道具を奪うことができずにいた。
強引に奪うことならできなくはないのだが、魔道具が奪われたことに人族側が気づけば、俺が生きていることや俺の真の目的に気づかれ、対策される恐れがあったからだ。
だから俺は、あの魔道具を奪うとしたら、全てバレても大丈夫なタイミングでと考えていた。
だが……今、人族側であの部屋にアクセスできる者は誰一人としていない。
この世界基準だと最高クラスの転移阻害と、例の従者の魔力が鍵となるロックシステムがかけられているからだ。
つまり転移阻害を無視して転移できる俺以外は現在、何人たりとも入れないのである。
「サテライト」でも、ある程度どんな魔道具かは解析できたのだが……あくまで「サテライト」は遠方解析や鑑定妨害系魔法の貫通に特化させているので、詳細はまだ解析できていない部分がある。
今のうちに魔道具を奪って、詳細解析に特化した魔道具で調べれば、未だ分かっていなかったことが分かってくるだろう。
どうせメルシャが戦っている間俺はすることがないんだし、そっちで時間を潰すか。
俺は転移用魔道具で砂漠ー部屋間を往復し、勇者合成用魔道具を奪ってきた。
そして、詳細解析用魔道具と勇者合成用魔道具を接続できた頃……メルシャと合成勇者の一騎打ちが幕を開けた。
[side:メルシャ]
人族の軍勢は、ある程度まで近づいてきたところで動きを止め……そこから先は、合成勇者が一人だけで近づいてきた。
「やれやれ、手こずらせやがって……」
合成勇者は、会話ができる距離まで近づいてくると……さも面倒くさそうにそう呟いた。
「いいのか? その距離じゃ、大事な配下たちが巻き添えくらうかもだぜ?」
合成勇者の言い分から察するに……どうやら彼は、戦いの余波でも巻き込みを恐れて自分だけで近づいてきたようだった。
対して、ライゼルさん達は我の数十メートル後ろにいるが……まあこれは、全く問題ないだろう。
というのもライゼルさん、自身やジークとサリナに、身体にフィットする形状の特異結界を張ってくれているのだ。
なので戦いの余波は、彼らの所に到達した時点で消滅する。
我は巻き込みなど一切恐れずに戦えばいいのである。
「「今日がお前の命日だ」」
これから殺す相手とハモるの絶妙に嫌だな……。
それは合成勇者も同じことを感じたらしく、彼は額に青筋を浮かべていた。
そのまま彼は、「まずはご挨拶」と言わんばかりに、攻撃魔法を一つ構築し始める。
その術式と構築速度を見て……我もその対応に相応しい魔法を構築し始めた。
「喰らえ!」
合成勇者はそう叫ぶと、我に向かって黒紫色の雷を放ってきた。
それに対し——我は「マグネティックカウンター」の簡易版の魔法で、雷の起動を捻じ曲げる。
……いや。実際には、こちらが元祖の「マグネティックカウンター」だ。
ライゼルさんはもともとあったこの魔法を、「ホーミングボルト」のような追尾力に特化した雷に対応できるよう、自力で改良したらしい。
ライゼルさんが20日前の模擬戦で使った「マグネティックカウンター」はまだ我には扱えないし、合成勇者の雷魔法が相手だとその必要もないので、元祖版を使ったわけだ。
それにより……雷は我手前で180度Uターンし、合成勇者を襲う。
「……は!?」
避けるのも若干間に合わず……雷は合成勇者の左腕に直撃し、合成勇者の左腕を蒸発させた。
それなりの魔力量を消費し、常時展開している「身体強化」を纏った左腕をだ。
なるほど、上手く対処すればどうということはないとはいえ、威力そのものは脅威になるようだな。
集中を切らさないかどうかが、勝負の分かれ目になりそうだ。
もっとも我は今朝一時間ほど瞑想してきたし、集中力という意味ではここ数年で最高潮なので、切れる心配とは無縁だが。
合成勇者は動揺している様子なので、一気に畳みかけよう。
我は「爆音光弾」と「魔槍」という二つの魔法を、同時に構築し始めた。
「爆音光弾」とは任意の場所で爆音を伴う閃光を発することができる、300層の多層魔法陣を用いる魔法だ。
多層魔法陣を用いるため、立体魔法陣を用いる「魔槍」に比べ、「爆音光弾」の術式は0.1秒ほど早く完成した。
それにより合成勇者の頭上で、どデカい爆音と閃光が劈く。
「なっ……」
合成勇者が驚いている間に、今度は「魔槍」の術式構築が完了し、魔力でできた槍が合成勇者に向かって飛んでいった。
「チッ……ただのこけおどっ……! しっ……」
ミスディレクションが上手く効いたおかげで、槍は合成勇者の正中線にバッチリ突き刺さる。
「クソッタレが……!」
致命傷を受けたことで、合成勇者は自身の回復に専念せざるを得なくなった。
合成勇者が使おうとしている魔法は……「絶対全快」か。
その術式を見て、我は今が大技を決めるタイミングだと確信した。
「絶対全快」は四肢欠損をも完治させられる回復魔法で、かつ回復中は核爆発レベルまでの攻撃を無効化できる効果までついている。
と、言えば聞こえが良いのだが……実はこの魔法には、「効果時間終了後0.5秒経つまで身体が硬直し、他の魔法の同時発動もできない状態になる」という圧倒的デメリットが存在するのだ。
虫の息になりながらも辛勝し、敵がいなくなった場面でなら使える魔法だが、戦闘中に使うのは「的にしてください」と言っているようなものでしかない。
平面の魔法陣で発動する割に効果が絶大な魔法は、得てしてこのような致命的なデメリットを抱えたものばかりなのである。
そして今、合成勇者がその魔法を発動したということは……相手の回復中に大技を準備し、回復終了直後の硬直残存時間に満を持してブチ当てればいいというわけなのである。
使う魔法は……「常世ノ闇」でいいか。
「常世ノ闇」は、魔素でできたブラックホールを作る魔法。
これを生物の体内に入れると、その生物は身体機能の維持に最低限必要な魔力まで全て吸われてしまい、即死することになる。
「2……1……今だ!」
「絶対全快」終了直後に、我は「常世ノ闇」を投げつけ、合成勇者の体内に吸収させる。
「さっきはy……」
合成勇者は何か言おうとして、そのままの体制で微動だにしなくなった。
……実に倒しやすい相手だった。
戦ってみて分かったことだが……コイツ、戦闘経験があまりにも浅すぎる。
ハッキリ言って、膨大な魔力量が宝の持ち腐れにしかなっていなかったのだ。
ここ20日くらいはライゼルさんとのスパーリングばかりやっていて、戦闘の巧みな人と戦うのがデフォになっていたが、そのせいもあって今回の戦いはかなり拍子抜けだった。
「終わったぞ」
後ろを振り向き、我はライゼルさんにそう報告した。
「ああ、満点の戦略だったな。そしてちょうど俺も、終わったところだ」
するとライゼルさんからは、そんな返事が。
——満点の戦略、か。悲願の合成勇者討伐が叶ったのと同じくらい……師匠に認められるというのは、嬉しいものだな。
……って、ちょっと待て。
「ちょうど俺も、終わったところだ」って、一体何をしていたのだ!?




