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第26話 いよいよ戦闘開始へ

皆様のおかげで、月間総合トップテン入りを果たすことができました!

ありがとうございます。

これからも話を盛り上げて参りますので、よろしくお願いします。

 召喚勇者の偽装死体を転送してから、約二時間半後。

 メルシャの部屋で待っていると……部屋の外から、護衛の声が聞こえてきた。


「陛下、来客です」


「うむ、通せ」


 ドアが開くと……入ってきたのは、門番たちだった。


「陛下、転送用魔道具が返却されてきましたので、お届けに参りました」


「分かった。そこに置いていけ」


 門番たちは転送用魔道具を置くと、部屋を出ていった。

 ついているのは手紙がたった一枚だけのようだが……それにしては、随分と時間がかかったな。

 思惑通り、合成勇者が出動してくれることになっていればいいのだが。


 などと思いつつ、俺は転送用魔道具を手に取った。

 その瞬間……俺は、あることに気が付いた。


「あれ、誤プッシュ防止機能が働いているな……」


 そう。返信用の赤い三角のボタン以外を弄られないためにつけていた誤プッシュ防止機能に、作動した痕跡があったのである。

 親切に説明書までつけたというのに、操作方法が分からず手あたり次第ボタンを押した、とでもいうのだろうか。


「人族の国王は説明書も読めない馬鹿だったのか……?」


「いや。流石にそれはないだろう。おおかた報復で我の頭に魔道具を落とそうとでも思って、色んなボタンをいじったのではないか?」


「それはそれで馬鹿だな……」


 一体「サテライト」も無しに、どうやって転移先の指定場所がメルシャの頭上かどうかを判定するつもりだったのだろう。

 俺がやった頭上落としは、あくまで転送先の状況が詳細に分かるという前提のもとできた芸当だったのだが。


 ……国王の馬鹿さは一旦横に置いておいて、とりあえず返信内容を確認するか。


「メルシャ、これを」


 そう言って俺は転送用魔道具から手紙を外し、メルシャに渡す。


「何て書いてある?」


「ふっ……『条約違反なので合成勇者を出動し、魔王城を火の海に鎮める』だとな。……正式な国書で比喩は大概にしてほしいものだ」


 予定通り、事は順調に運んでいるようだった。


「開戦日は20日後、戦場は西メナリス砂漠だそうだ」


「西メナリス砂漠……この地図でいうとどの辺りだ?」


「ここらへんだな」


「サテライト」の子機でプリントアウトした地図を見せながら場所を聞くと、メルシャは王宮と魔王城のちょうど中間点あたりを指さした。


「20日後……あいつらの行軍ペースだとそれくらいかかるって意味か」


「だろうな」


「俺たちは当日転移すればいいな」


「ああ」


 人族側だって「合成勇者の力で正面から叩き潰すのが一番勝率が高い」と考えているだろうし、奇襲作戦を仕掛けてくる可能性は極めて低いが……一応、西メナリス砂漠付近は監視しておくか。

 などと思いつつ、俺は「サテライト」の子機を操作し、2カメで西メナリス砂漠付近の観測を開始した。


 ◇


 次の日。

 俺は一ついいことを思いついたので、西メナリス砂漠にやってきた。

 砂漠にて、俺は収納魔法で魔道具を10個くらい取り出す。

 これらは全て、通信機能付きの浮遊式撮影魔道具だ。


 メルシャと合成勇者の一騎打ち。

 この戦いはメルシャにとってだけでなく、魔族の歴史に刻まれる重要な戦いとなるだろう。

 となれば……国民たちも、一刻も早く、可能ならリアルタイムで戦況を知りたいはず。

 そう思い、俺は今回の戦争を魔族領に中継しようと考えたのである。


 ここに浮遊式撮影魔道具を浮かべておけば、受像用魔道具(テレビ)を用いてこの場の様子を映像として見られるようになる。

 つまり、あとは受像用魔道具(テレビ)を量産して魔族領全体に配れば、誰もがリアルタイムで戦争を観戦できるようになるというわけである。


 ここでの準備は済んだので、俺は転移用魔道具で魔王城に帰ってきた。

 そして俺は、召喚勇者たちが臨時で寝泊りしている宿に足を運んだ。


「あ、おはようございます、ライゼルさん」


「一つ聞きたいんだが……三人の中で誰か、魔石を大量に持っている人とかいないか?」


 受像用魔道具(テレビ)は魔道具の中で言えば対して高機能な部類に入らないので、召喚勇者たちが狩れるような魔物の魔石が材料でも十分作ることが可能だ。

 今は質より量を確保したいので、もしかしたらこの三人が今まで倒した魔物の魔石を貯め込んでいたりしたらラッキーだと思い、訪れることにしたのだ。


「それなら俺が持っている。この中では唯一俺だけが空間収納魔法を覚えているので、魔石の運搬を一手に引き受けていた」


 すると……三人の中の一人がそう言って、収納魔法で魔石を出してくれた。

 というか他の二人、収納魔法使えないのか……。


「何かに使いたいのか?」


「もし良かったら使わせてもらいたい」


「命の恩人の頼みだ。これくらい安い」


 そして俺は、魔石の使用許可もとることができた。

 じゃあさっそく、魔道具の大量生産といくか。


 俺は「同時刻印」という魔法で、山のようにある魔石全てに受像効果の魔法陣を刻んでいった。

 すると……作業中、三人からこんな反応が。


「な……何だこの技術!?」

「全ての魔石に……一斉に魔法陣を……?」

「どんな芸当だよこれ……」


 顔を上げると、三人とも口をあんぐりと開けていた。


「魔道具の大量生産をしたい時は普通、これを使うよな?」


「「「魔道具の大量生産って一体何!?」」」


 質問すると、三人のツッコミがハモった。

 ……あ。もしかしてそもそも大量生産という概念が無いパターンだったか。


 まあとにかく、いまの内に魔道具は完成した。

 うち一個を起動して西メナリス砂漠の様子を映し出しつつ、俺は三人にこう説明する。


「このように、この魔道具は戦場に設置した中継魔道具の映像を映し出せるんだ。これを使って、魔族領の人々が戦況を観戦できるようにしたくてな。お前たちさえよければ、今作った魔道具の配布に協力して欲しいんだが……頼めるか?」


「すげえ、なんだこれ……じゃなくてはい! 喜んで!」

「「俺たちも手伝います!」」


 頼んでみると、魔道具の配布まで手伝ってもらえることになった。

 なんでも言ってみるもんだな。



 さて……俺がここまで下準備をした理由だが、実はこれ、善意100%というわけではない。

 俺の真の目的はもう一つ——メルシャの「名誉魔王」化をスムーズに行うことだ。


 最強の魔族が魔王を務めるというのは、魔族の原則ではあるが……メルシャが言うに、実はこれには一つ例外があるとのこと。

 それは、魔王が歴史に名を刻むような業績を挙げた時だ。

 その場合魔王は、「名誉魔王」という形で現役の魔王を次席に譲り、自分は職務から解放されることができる。

 それが魔王が生きていながら円満退職する、唯一の方法なのだそうだ。


 だから俺は……「名誉魔王」に足る業績を可視化することで、そのサポートを行おうと思ったのである。

 メルシャには可能な限り心置きなく、俺の元いた世界に来てほしいからな。



 これからの残り19日間。

 打倒合成勇者という意味では十分な実力が身についてはいるが、俺たちの目標はその更に先、元の世界での「狂乱一族」全制覇だ。

 ボーっと過ごすのももったいないので、そこを見据えて更に鍛錬を積むとするか。

 などと思いつつ、俺はメルシャの部屋に転移した。




 そして……そんな19日を過ごし。

 俺たちは、戦争の当日を迎えた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 強すぎるなら仕方ない、みたいな感じなのかな?
[一言] オーバーキル間違いなし
[一言] せっかくだから召喚勇者たちも戦力化できないかなぁ
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