第24話 送信完了
だが……俺が偽装死体のことを提案すると。
「な……なんでそうなるんすか!」
「ほ、本当に……この通りだ!」
なぜか召喚勇者たちは、今までにないくらい地面に頭をこすりつけ始めた。
……あれ。どうしてだ。
不思議に思っていると、メルシャが俺に耳打ちした。
「お主よ……今のだと、彼らを殺すと言っているようにしか聞こえんぞ」
そこで俺は、ようやく彼らの行動の要因に思い至った。
「ああ……すまない。別に俺は、お前らを殺すと言っているわけじゃなくてな。お前らの偽装死体を作って、それを王宮に送りつけようと言ったつもりなんだ」
「「「偽装……死体……?」」」
すると……三人とも、今度はキョトンとした表情でこちらを見る。
……そうだよな。多機能幹細胞の存在を知らなければ、死体の偽装の話をしているなんて発想には至れないよな。
まずはそっちを実演すべきだった。
などと思いつつ、俺は収納魔法で多機能幹細胞を三つ取り出した。
そして三人の召喚勇者に遺伝子抽出魔法をかけ、抽出した遺伝情報を三つの細胞それぞれに注入する。
細胞に分化魔法をかけつつ、俺はこう続けた。
「このようにしてな、お前らのクローンを作るんだ。王宮に送るのは、こっちのクローンの方さ」
「な、なるほど……。しかしなぜ、わざわざ俺たちの偽装死体を王宮に?」
「実は俺、ここに来る前に一度、国王から暗殺者を放たれていてな。同じ方法で、自分の死を偽装したんだ。お前らだって、こちら側についたとバレれば追っ手を送られかねない。殉職したということにしておけば、その心配はなくなるわけだ」
話している間にも……多機能幹細胞はみるみる成長し、あっという間に人間の姿になった。
あとはこれを絶命させて、王宮に送りつけるのみだ。
「メルシャ、この三体の首を風刃魔法で飛ばしてくれ」
戦死した人間の身体には、ごく僅かに戦った相手の魔力の残滓が残る。
特に死後間もなければ、その魔力の残滓から、誰に殺されたかを特定するような魔法だって存在するのだ。
それを考慮すれば……このクローンを殺すのは、魔王本人がやったほうがいい。
そう思い、俺はその役目をメルシャに任せた。
……もっとも、あの国王に「召喚勇者と魔王が組んだかもしれないから、死体におかしなところがないか鑑定しよう」などと考える能があるとも考えにくいが。
念には念を入れておいて、損はないだろう。
「分かった」
メルシャがそう答えるとほぼ同時に、クローン三体の首が飛ぶ。
「な……なんだ今の魔法!?」
「ノーモーションだと……?」
「仮に正当な勇者召喚だったとしても……そもそもこんなのと戦えとか、ブラックとかそういう次元じゃないだろ……」
意識の無いただのクローンの首を飛ばすくらいなら、立体魔法陣を構築して攻撃魔法を放つ必要などない。
それを分かってか、メルシャが今放ったのはたった三層の多層魔法陣で組む魔法だった。
その程度の魔法陣なら、今のメルシャなら0.01秒以内で余裕で組める。
それ故に……召喚勇者たちには、ノーモーションで魔法を放ったかのように見えたのだろう。
彼らは口をあんぐりと開け、首が飛んだクローンに目が釘付けになっていた。
「メルシャにはこの六か月間、つきっきりで稽古をつけていたからな。見違えるほどに魔法制御力が上がっているんだ。その前だったら……お前ら三人がかりなら、ある程度戦いになるくらいのレベル差だったぞ」
「え……この魔王に……稽古をつけた?」
「この化け物より、更に上を行くってのかよ……」
「ていうかこの方、じゃあなんであの時戦闘力0なんて判定になったんだ……?」
そういえば……なんでだろうな。
あの時は魔道具の解析などと言っていられない状況だったので、真相が分からずにいたが……「サテライト」の高度解析にかければ分かるだろうし、ちょっとやってみるか。
ちょっと王宮内のいろんな部屋を探すと某魔道具が見つかったので、俺は解析にかけてみることにした。
……戦闘力100000以上を検知するとエラーを起こし、0表示をするようになっているだけだったか。
なぜそんなに上限を低く設計しているのかは疑問だが、まあそのおかげで王宮を出ることとなり、メルシャと出会えたと思えば結果オーライといえよう。
などと考えつつ、俺は通告文と死体三体をまとめ、転送用魔道具にセットした。
「じゃあ、今から本当に転送するぞ。……メルシャ、何か書き忘れていることとかもうないよな?」
「もちろんだ。何か月も内容を考えたし、その通告文だって五回目の清書だからな」
「……今日の出来事を踏まえて追加しておきたいこととかも無いんだな? 例えば、『眠れる古の竜』も討伐済みであることを書いたり、証拠品の一部を送るとか……」
「それはこの時点では書いておかんでもよかろう。あの竜の存在を盾にいちゃもんを付けてきたとしたら、その時に見せるので問題ない」
「……そうか」
メルシャも送信準備万端な様子なので、俺は送信先に決定に入ることにした。
まずは「サテライト」の子機と転送用魔道具を繋ぎ、王宮内の指定の場所と転送用魔道具との距離・方位を誤差3ミリ以内で表示するようにする。
そして「サテライト」の照準決定機能を使って、転送先を細かく調整していった。
国王にはなるべく早く通告文を読んでもらいたいし……国王の頭上30センチのところに転移するようにしておくか。
それなら気づかれず無視されることにはまずならないだろう。
「このボタンを押せば実際に転送が完了する。……押すか?」
送信は自分の手でやりたいかと思い、メルシャにそう言って目くばせをする。
「ああ」
メルシャは頷くと、俺が言ったボタンに手を伸ばした。
メルシャがボタンを押すと……目の前から死体と通告文、そして転送用魔道具本体が消えた。
同時に「サテライト」のホログラム投影には、急に頭上に物体が落ちてきて慌てふためく国王が映し出される。
転送用魔道具には、返送の仕方を書いた説明書もセットしてあるし。
送り返し方が分からないとはならないだろうから、後は返事を待つのみだな。
【作者からのお願い】
「面白い!」「続きが読みたい!」と思ってくださった方は、是非ブックマークと「☆☆☆☆☆」での応援よろしくお願いします!
既にしたよって方はありがとうございます。励みになります。
 





