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第23話 違和感に気づいていたらしかった

 門の前では、召喚勇者三人と門番が一触即発状態だった。


「おい、魔王はどこだ!」


「死んでもお前らなんか通しはしない!」


 彼らはお互い睨みあっていて、俺たちに気づいていない。


 ……ん? 待てよ。

 そういえば俺、人族たちの間では死んでることになってるはずだよな。

 このまま現れたら、色々と話がこじれそうだ。


 ……せっかく彼らもまだ気づいていないんだし、今のうちに変装しておくか。

 そう思い、俺は幻影魔法で他人から見た自分の外見をガラリと変えた。

 これでおそらく、俺は魔王の護衛か何かに見えることだろう。


「……行くか」


「ああ」


 お互いに合図すると、俺とメルシャは召喚勇者たちと門番たちの間に降り立った。

 すると……門番の一人がこう叫ぶ。


「おい、お前たちのシフトはまだ一時間後からだ! ここは俺たちが何とかするから下がってろ!」


 ……メルシャが魔王だと気づかれないようにしようとしてくれているのか。

 半年前、俺の挑発に乗って魔王の所在を明かしてしまった反省を活かしてか、そのあたりはかなり慎重に行動するようになっているようだ。

 見ない間に成長したな。


 だが……今メルシャは、魔王としてコイツらの応対に来ているのだ。

 というのも……メルシャが昔言っていたんだが、歴代の召喚勇者はかつて、こんな魔族領内部まで攻め込んで来た例が無いのだとか。

 問答無用で殺しにかかってくるなら返り討ちにし、宣戦布告の土産にするまでだが、何か事情があるなら興味本位で聞いておきたい。

 そのためにわざわざ出向いたのである。


「匿ってくれようとしているのはありがたいが、我もこやつらに用があるのじゃ。下がっておれ」


「は……はい! 失礼しました」


 メルシャの指示で、門番たちは姿を消す。

 それからメルシャは、召喚勇者たちにこう問いかけた。


「お主らの探しておる魔王はこの我だ。召喚勇者がここまで攻め込んでくるとは珍しいが……一体何用じゃ?」


 メルシャが問うと、召喚勇者のうち真ん中にいた者が一歩前に出る。

 おそらくその男がリーダーか。

 などと考えていると、その男が口を開いた。


 が——彼の口から出てきたのは、意外な言葉だった。


「もちろん、お前を倒すためだ。が……その前に一つ、聞きたいことがある」


 一呼吸おいて、彼はこう続ける。


「——勇者、合成。この言葉に、何か心当たりはないか?」


 それを聞いて……俺とメルシャは、顔を見合わせた。

 それから召喚勇者の方を向くと……どうやら今の発言は他の召喚勇者二人からしても意外だったようで、彼らは「何言ってんだコイツ」といわんばかりに真ん中の勇者を見ている。


 なぜ、そのことを知っているのか。

 明確に国王一派の裏切りに気づいてはいない上に、一人だけ知っているというあたり……「断片的にその二単語だけ聞いてしまった」とかだろうか。


『どうする?』


『……任せる』


 通信魔法でメルシャが俺の判断を仰いだので、俺はそう返した。


 正直、初めから俺が説明し、例えば「『サテライト』に映る合成勇者をホログラムで映し出しながら説明する」とかすれば、どんな馬鹿でも真実を悟るだろう。

 だが、メルシャが口頭で説明するだけなら……真ん中の奴はともかく、残り二人はメルシャの話をでっち上げだとか言い出してもおかしくは無い。

 正義に酔いしれ、見たいものしか見ない人間は往々にして、そういう態度を取るものなのだ。

 もしこの召喚勇者たちがそういう奴だとしたら……必死に説得するのも馬鹿馬鹿しいからな。

 返り討ちにして、国王の怒りに火を点ける養分にするまでだ。


 だがメルシャの言葉に耳を傾けるなら、救う価値も無くはないだろう。

 そんなことを考えている中、メルシャは静かにこう告げる。


「あるぞ。お前らは最終的に、過去何十回と召喚されてきた勇者と同様、一体に合成されるのだ」

 それを聞いて……召喚勇者たちは、全員目を見開いた。


「な……!」


「え、うそ……」


「俺たち……騙されてたってこと?」


 しばらくの間、召喚勇者たちはしゃがみ込み、ヒソヒソと相談し合う。

 程なくして、最初に質問してきた奴がメルシャにこう尋ねた。


「何かそのことを示す根拠は無いか? 国王の謀略だという確固たる証拠があるなら、この目で見てみたい」


 そう口にする彼は、極めて冷静だった。

 これは俺たちのことを疑っているというよりは……ただ慎重になっているだけだな。

 エビデンスを見せてくれた方につくという、フラットな姿勢が窺える。


 ……この様子ならまあ、俺から説明するとするか。


「その証拠ならこれだ」


 俺はそう言いつつ、変装用の幻影魔法を解いた。


「……お前は!」


「あの時の……」


「ひ……久しぶりだな」


 俺の正体に気づくと、三人ともばつが悪そうにもじもじする。

 そんな中、俺は「サテライト」の子機にホログラム投影用魔道具を設置し、王宮内の一室を映し出した。


「な……何だこれは!」


「王宮の中の様子が……どんな高度な技術使ったら、こんな魔道具ができるんだよ……」


 ホログラムの映像を見て、召喚勇者のうち二人が驚いて尻餅をつく。


 ……技術に関心している場合じゃないだろう。

 というかいちいち新機能を見せる度に驚かれてては、遅々として話が進まないな。

 そう思った俺は、説明を続ける前に合成勇者の戦闘力を表示することにした。


 普段は測定結果を「俺を1とした場合の相対値」で表すことにしているのだが……それだと分かりにくいだろうと思い、少し設定をいじって「三人の平均戦闘力を4000とした場合の相対値」を表示するようにする。

 これで、召喚直後のあの測定器で測った場合と、だいたい似た数値が表示されるはずだ。


 測定すると……ホログラムの画面には、新たに「39124」という数値が現れた。


「この39124という数値が、何だか分かるか?」


「まさか……コイツの戦闘力?」


 クイズ形式で出題してみると、召喚勇者のうち一人が、答えを予測する。

 一発で正答してくれたので、次は核心を突く質問を行ってみよう。


「その通りだ。じゃあ次の質問だが……なぜこんな奴がいるにもかかわらず、俺たちが召喚などされたと思う?」


「……歴代勇者が合成されていった結果が、コイツなのか。そして俺たちも……コイツの増強のために召喚された……」


 言いながら、自分たちの置かれている状況のマズさを実感しだしたのか……三人の顔面は、みるみる蒼白になっていく。


「そういうことだ。俺たちは、初めっからコイツらのエサとしかみなされていなかったというわけだ」


 そう言って俺は、説明を締めくくった。


「こ、こんなのってアリかよ……」


「そんな理由で召喚されたってことは……俺たち、帰還できないよな?」


「そ、そんな! もう二度と妻と子供に会えないなんて……!」


 泣きっ面で会議を始める三人。

 仮にこれが正当な勇者召喚だったとして、妻子持ちがそんなのに応じるなよ……。

 とツッコみかけたが、まあ家庭事情はそれぞれだろうしと思い、そこには口を挟まないでおく。

 しばらくすると、三人はこちらを向き、口々にこう言い出した。


「あの時は貴方を見捨てるような真似をして申し訳なかった。頼む、俺たちを救ってくれ!」


「「お願いします!」」


 三人とも、揃いも揃って土下座をする。

 救うといっても、この三人まで元の世界に帰せるかは分からないぞ……。

 俺は何としてでも帰還するつもりだが、それは俺自身に力ずくででも女神を従わせられる確信があるからであって、この三人も同じように帰れる保証はない。

 順番的に俺とメルシャが真っ先に送還されたら、もう後はこの世界での出来事に手出しのしようがないからな。

 残念だが、よほどいい策が思い浮かばない限り、そこは諦めてもらうしかないだろう。


 だが……この世界にいるのも、コイツらにとっては安全なことではない。

 無能と判定された俺ですら、刺客を放たれたのだ。

 コイツらが寝返ったと分かれば、あの国王どもが何をしでかすか分からない。


 となると……やるべき事は一つ。


「そうだな……。じゃあとりあえず、お前らの死体を王宮に送るか」


 同じように、偽装死体を作るのだ。

 これでとりあえず、コイツらは国王どもからの監視からは免れられる。

 余生を平穏に過ごす程度のことはできるようになるだろう。


 と同時に、俺やメルシャにとっても、国王を挑発するいい材料ができる。

 うん、ウィンーウィンな作戦だな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 妻子持ちが応じるなよで草生えた
[一言] 言い方ァ! きみほんま、そういうとこやぞ
[一言] 言い方ァ!(ノ∀`)
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