第22話 お別れ会と奴らの襲来
シシルの部屋のドアの前に転移すると、俺はドアを二、三回ノックした。
「どうぞー」
中からそんな声がしたので、ドアを開けて入る。
「あれ、お姉ちゃん。それにライゼルさん、どうしたんですか?」
「大事な話があってな。ちょっと今時間いいか?」
「大事な話……は、はい!」
大事な話と聞いて、シシルは身構えた。
……そんなに堅苦しい雰囲気にしなくて大丈夫なのだが。
「まあまあ、そう緊張するな。良い食材を手に入れたから、食べながらぼちぼち話そう」
少しは気軽な雰囲気にしようと思い、俺はそう提案した。
ちなみに良い食材とは、もちろん先ほどのドラゴンのことだ。
「良い食材……ですか?」
「ああ、そうだ」
「……じゃあせっかくなので!」
やはり食べ物好きなのは魔族も変わらないのか、シシルはそう言って目を輝かせる。
というわけで、俺たちは魔王城付属の宴会場に転移した。
宴会場にて……俺は鉄板付きのテーブルを見つけると、そのテーブルの鉄板加熱用魔道具を起動した。
そして収納魔法で、両手で抱えるくらいのサイズの肉塊を取り出すと、切断魔法で分厚めにスライスした。
「わあ、美味しそうな肉ですね!」
シシルはそう言って、肉に目が釘付けになる。
……それもそのはず。この肉、めちゃくちゃ良い感じに霜降りが入っているのだ。
ドラゴンは基本筋肉質な個体が多いので、その肉も赤身肉である場合が多い。
赤身肉と言えばそれはそれで美味しそうに聞こえるかもしれないが、ドラゴンの筋肉の硬さは牛の比ではないので、基本食べられたものではないことが多いのだ。
だが……そんなドラゴン肉にも、例外はある。
それは起きている期間に対し、睡眠時間の比率が異様に高いドラゴンの場合だ。
そんなドラゴンは、寝ている時の栄養備蓄のため脂肪分がそこそこあり、肉が霜降りになっていることがある。
起きている時間10年に対し睡眠時間11000年のこのドラゴンもその類ではないかと思い、解体してみたところ、見事そのパターンだったというわけだ。
こういうドラゴンの肉の美味さは、ブランド牛にも匹敵する。
とりわけ今取り出した部位はリブロースにあたる部分なので、これで美味しくないはずはないだろう。
まずはスライスした肉を三切れ鉄板の上に置くと、ジュワーっという音と共に香ばしい匂いが辺りに漂った。
「これ、何の肉なんですか?」
興味津々な様子で、シシルはそう尋ねる。
「眠れる古の竜とかいうらしいな」
「……へ?」
しかし肉の正体を明かすと……シシルの表情が固まった。
「……え、ええええええ!?!?」
一瞬遅れて、シシルはそう叫んで俺とメルシャを交互に見やった。
「ライゼルさん、物凄く強いのは知ってましたがあれ倒しちゃったんですか……」
「これを倒したのはメルシャだぞ」
「お、おおお姉ちゃんが!?」
そして倒した人物も明かすと、シシルはより一層驚く。
「お姉ちゃん、特訓してるとは聞いてたけど……そこまで強くなってたんだ……」
……なんか良い感じに今日の活動の話題に移ったし。
この辺で、本題に入っていくとしよう。
「実は……大事な話というのも、そのことに関連してるんだ」
「あ、はい」
話しを切り出すと、シシルが真顔になる。
「メルシャは今までの鍛錬で……『眠れる古の竜』はもちろんのこと、合成勇者にも十分勝てる実力を身に着けた。その確認のため、今日は別の大陸に転移して模擬戦をしていたんだ。『眠れる古の竜』を倒してきたのは、そのついででな」
「……ということは!」
途中まで話すと、シシルは察しがついたようだ。
「……ついにやるんですね。合成勇者と」
「ああ、その通りだ」
そこまで伝わったところで……俺は収納魔法で、先ほど作った剣を取り出した。
「ということで……シシルには、これを受け取って欲しい」
「……何ですか、この剣は?」
「『眠れる古の竜』を素材にして作った魔剣だ。魔力を流すと、通常の600倍くらいの効果がある『身体強化』と、敵を遠隔で斬れる『次元切断』が発動する」
剣の効能を説明すると……シシルの目が点になった。
「い……いただけませんよそんな大層なもの! 第一、私だとそんな強力な代物、持て余しちゃいます!」
それに対しては、メルシャが補足を入れた。
「シシルよ、別にこれは普段から使う必要はないのだぞ。ライゼルどのが『非常事態を切り抜ける用に』と作ってくださったのだ。……我が合成勇者を倒しても、人族が第二第三の合成勇者を作り出さないとは限らないからな。そういうのが現れたら、ソイツが強くなり過ぎないうちにこれで成敗しておくれ」
「……な、なるほど! そういうことでしたら……ありがたく頂きます」
シシルは納得し、魔剣を受け取った。
シシルが魔剣を収納すると……一呼吸置いて、メルシャはシシルの目を見据え、こう言い出した。
「合成勇者を倒せば……あとは召喚女神とやらが現れれば、我はライゼルどのの世界に移ることとなる。そのタイミングによっては、講和条約を結ぶのをシシルに任せることになるかもしれん。そうなった暁には……くれぐれも妥協するでないぞ」
「任せてください! どう人族の王室を問い詰めるかはバッチリ頭に入ってます!」
「うむ。条約改正まで見届けられないかもしれんのは心惜しいが……シシルのことは信じておるぞ」
「はい、お姉ちゃん!」
などと会話した後、二人はしばしの間抱き合った。
これで挨拶もばっちりだな。
……さて、と。
じゃああとは、どうやって合成勇者との戦いに持っていくかだ。
焼けた肉をそれぞれの皿に取り分けつつ、俺はこう切り出した。
「これで俺たちは、いつでも合成勇者を倒しに行けるわけだが……どうする? 合成勇者の居場所に直接転移することもできるが……」
と言いつつも、俺はメルシャがこの選択をするとは思っていない。
なぜならメルシャとしては、講和条約を結ぶため、合成勇者戦をきちんと”戦争”という形式でやりたいはずだからだ。
などと思っていると……案の定。
「いや、まずは人族の王に宣戦布告をする。そうすれば、向こうから合成勇者を出動してくるはずだからな。そこできっちりと決着をつけてやるつもりだ」
俺の予想は当たっていた。
やはり、そうだよな。
思った通りの答えが返ってきたところで、俺は魔道具を一つ取り出す。
「なら、通告文ができたら言ってくれ。これは転送用の魔道具。これで直接、王の部屋に通告文を届けてやればいい」
普通にやり取りしていたら、戦争開始までにまた何十日かかかってしまうだろうからな。
時短のため、この魔道具を使おうというわけだ。
この転送用魔道具には、ボタン一つで元の場所に転移する返信用機能もついているので、人族の王からの返信もすぐ受け取れる。
すると……メルシャもまた、自身の収納魔法で巻物を一つ取り出した。
「それなら既に書いてあるぞ」
……用意がいいな。
「なら、早速送るか」
そう言って俺は、巻物に転送用魔道具をセットした。
あとは、送信ボタンを押してっと。
——しかし、その時だった。
不意に俺は、どこかで会ったことのある魔力反応が漂ってきたような感触を受けた。
記憶にある魔力反応なのは確かだが、具体的に誰だったかがパッとでてこない。
「サテライト」の反応を見てみると……正体が判明した。
召喚勇者三人が、門の前まで来ていたのだ。
「……ちょっと待てよ」
「どうしたのだ?」
「門の外に……召喚勇者が三人来ているようだ」
「……何? 召喚勇者だと?」
相手の出方によっては、通告文と一緒に転送するものが三つほど増えるかもしれないな。
「……様子を見に行こう」
メルシャがそう言ったので、俺たちは門の前へ転移した。
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