第2話 召喚先で追放された
「ようこそおいでくださいました」
宮殿にて……宝石が散りばめられた派手な衣装を着た小太りの中年の男が、俺に頭を下げた。
いや……正確には「俺たちに」と言うべきだろうか。
改めて周囲を確認すると、俺以外にも三人、明らかに宮廷のTPOに合わない服装をした者がいる。
「今回の召喚勇者は、これで全員揃っておるのだな?」
「左様でございます。女神様からは、今回四人の勇者様を召喚して頂くと承っております故」
などと思っていると、俺の勘は当たっていたようだった。
派手な衣装の男(おそらく国王だろう)と従者らしき男のやり取りを聞くに、やはりこの三人も”異世界から召喚された勇者”のようだ。
勇者というには、彼らの魔力から感じ取れる戦闘力は、あまりにも貧相なもののように感じられるが。
自称女神は、様々な異世界から最強の男をヘッドハンティングしてるかのような口ぶりだったのだが……これでも他の異世界では精鋭だった人たちを集めた、という設定のつもりなのだろうか。
「ではまず、軽く状況を説明させていただきます」
状況を分析していると、先ほどの従者が前に出てきて、説明を開始した。
「まず……この世界には大きく分けて、三つの種族が存在します。人族、魔族、そして亜人族です。亜人族については、数が少なく、脅威度もさほど高くないことから、この場では説明を割愛させていただきます」
従者曰く、この世界の種族構成は、俺の世界とさほど変わりはないようだ。
俺の世界には、稽古相手として俺が実験的に作った液体金属人造人間なんかもいたりしたが、天然の種族に関しては全く一緒と言ってもいいだろう。
「問題は魔族です。人族と魔族は、長い歴史の中ずっと戦い続けてきたのですが……ここ最近になって、魔族側の勢力は急激に拡大し始めまして。このままでは均衡が崩れ、人族は魔族に支配されてしまうと考え、女神様に祈りを捧げて勇者様を召喚していただくことにいたしました。そうして呼ばれたのが貴方達です」
……なんか既視感のある話の流れだな。
というか、俺が若かりし頃魔族を狩って回った以前の世界の状況にそっくりな気がずる。
俺は別に世界を守るため魔族を狩ったわけではなく、ただちょうどいい鍛錬相手として倒して回っていたのだが……一時期は世界各国から感謝状を貰ったりしたっけか。
まあもう俺の魔法能力は限界に達してしまっているので、この世界で魔族を倒して更なる力を得ることには、あまり期待ができないのだが。
「私共は貴方達が魔族に対して有効な戦力となるよう、全力でサポートして参りますので、どうか魔族の討伐にご協力願えればと思います。魔王を倒してくださった暁には、一生遊んで暮らせる報酬をご用意いたしますので」
従者の男はそう言って、最後に一礼をした。
遊んで暮らせる報酬などには興味がないが……この自称女神のお遊戯のミッションの達成が、親睦を深める一手となり得るわけだからな。
誠心誠意、魔族討伐とやらに注力するとしよう。
「……少しお待ちください」
男はそう言うと、従者の男は押し入れから水晶玉のような物を運び出す。
「失礼ですが……まずは一旦、貴方達の現在の戦闘能力を測定させていただきたく存じます。この場にお越しいただいた順に、この水晶玉に手をかざしてください」
男が運び出した水晶玉は、戦闘能力を測定する用途のものとのことだった。
言われてみれば確かに、魔力量を測るような設計になっているような気がする。
召喚された順ということは……俺は最後か。
まずは一人目、俺の左隣にいた奴が前に出て、水晶に手をかざした。
「せ、戦闘力……4097」
従者の男が、戦闘能力を数値化したものを読み上げると……国王や侍女たちが一斉に「おおっ」と声を上げ、目を見開いた。
「素晴らしい数値です。次の方……」
魔力の様子から察するに、明らかに強くない部類に思えるのだが、あれが「素晴らしい数値」なのか……。
いや召喚初日だし、たとえどんな数値でもお世辞で「素晴らしい」と言うようにしている、という説の方が有力か。
今度は俺の右隣の男が前に出て、水晶に手をかざす。
「戦闘力3664。おおお……次の方」
そして次は、さっきの男の更に右隣の男だ。
「戦闘力3776。皆様流石ですな」
従者の男は数値を読み上げつつ、満足そうに頷いた。
「では、次の方」
そして、俺の番。
呼ばれた俺は前に出て、水晶に手をかざしたのだが……その時。
俺は、一つの違和感を覚えた。
水晶玉が、俺の魔力を全く感知しないのだ。
故障というよりは、砂糖水を塩分測定装置にかけているかのような、異質のものに感応しない感覚。
この水晶玉からは、そんな感覚が伝わってくる。
「せ……誤植か?」
そして案の定測定は上手くいっていないようで、従者の男は水晶玉を再調整してから、俺にこう言った。
「すみません。もう一度手をかざしてみてください」
言われた通りにしてみるも、やはり今度も同じような感覚を受ける。
「せ……戦闘力……ぜ……0」
最終的に男は、おそるおそるそう口にしたのだった。
「何、ゼロだと?」
「左様です。水晶の故障でないことは確かめたのですが……」
国王の問いに、従者の男が答えると……途端に国王は、鬼のような剣幕を見せる。
「出ていけ。どうやって貴様が女神様を騙したのかは知らんが、魔力ゼロの落ちこぼれなど召喚勇者とは認めん!」
からの、なんと俺は追放される流れとなってしまった。
……何がどうなったらこうなるんだ。
あの自称女神は一体、何がしたかったんだ!?
一瞬動揺したが、俺とて修羅場を潜り抜けたのは一度や二度ではない。
こういう時こそ落ち着いて対処すべきだと思い、俺は冷静さを取り戻した。
——まずやるべきなのは、実際に魔法を使ってみせ、魔力ゼロが誤判定と示すことか。
「お待ちください。魔力ゼロは誤判定です。魔法なら使えます!」
そう言いつつ、俺はここで実演する魔法をどれにするか考える。
勇者として使える人材だと示すには、そこそこ強い魔法を披露した方がいいだろう。
かといって、宮殿の中で強力な攻撃魔法を展開するわけにはいかない。
ある程度魔力と魔法制御力を示せるものは——。
「これをご覧ください」
そう言って俺は、部屋の隅に置かれていた暖炉用の木炭を一個手に取り、それをダイヤモンドに変換した。
木炭とダイヤモンドは、共に炭素でできている。
木炭かダイヤモンドかの差を決めるのは、炭素分子の配列だけだ。
その配列を、俺は分子配列変換魔法で変換し、木炭をダイヤモンドに変えたわけだ。
ある程度の質量を持った物に分子配列変換魔法をかけるには、そこそこの魔力と魔法制御力を必要とする。
それこそ最初の男の魔力量が4097とするなら、この魔法は7000くらいの数値を持つものでないと発動不可なものだ。
攻撃魔法でない魔法の中でなら、割と実演に適したものと言えるだろう。
だが——。
「ふん、手品を見せて有能アピールのつもりか? 木炭が宝石に変わる魔法なんてあるはずがないだろう」
なぜか国王には、今の魔法を手品扱いされてしまった。
木炭が宝石に変わる魔法が存在しないとは、どういう事だ。
そこそこ上級者向けとはいえ、ある程度力を持つ魔法使いの中では常識扱いの魔法のはずなのだが。
「いやこれはれっきとした魔法で……」
「うるさい! もういい、お前のような無能——いやペテン師は今すぐ出ていけ。その宝石は餞別だ」
しまいには、俺はペテン師扱いされ、弁解の余地なく宮殿を退去させられることとなってしまった。
あっけに取られすぎて、「餞別って、そのダイヤは俺が作ったのだが……」と反論することさえままならなくなってしまっている。
他の三人も俺をみてクスクスと笑うだけで、全く手助けしてくれる様子は無い。
そうこうするうちにも、俺は部屋の外で待機していた宮殿の護衛に引きずられ、宮殿から強制的につまみ出された。
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