第13話 魔王の頼み
「立体魔法陣……か」
ひとしきり説明を終えると……魔王はそう呟いて、深くため息をついた。
「考えつきもしなかったな、そんな発想で魔法陣の情報量を増やすなどとは」
「でも、これを使えるようになったら合成勇者をも超える力が身に着く。そんな未来は想像がついただろ?」
「ま……まあな。どうやったらあんな超次元の魔法陣が扱えるようになるのかは、皆目見当もつかないが」
立体魔法陣が「超次元」、か……。
その表現を聞いて、俺は軽くカルチャーショックを受けた。
「特異結界」レベルはともかく、「簡易結界」くらいなら、元の世界の上級魔法使いの間じゃ常識だったのだが。
だがまあ大事なのは、元の世界には、魔法を学ぶ意欲がある者で「簡易結界」を扱えるようにならなかった者は誰一人いないということだ。
「俺だって生まれつきあんな魔法陣が組めたわけじゃないからな。そのためのトレーニング方法なら、確立してあるぞ?」
「それは頼もしいな」
そう言うと魔王は、初めて微かに笑顔を見せた。
だが……直後、彼女は何かに違和感を覚えたかのように眉をひそめた。
「しかし……よく考えれば、なぜわざわざ我を鍛えてくれるのだ? 別にお主の目的が元の世界への帰還であるなら、自分で合成勇者を脅して女神に話をつければいい気もするが……」
……そういえば、一つ説明し忘れていたことがあったな。
俺はあわよくば魔王をパーティーメンバーとして連れ帰りたいと思っているが、そのことについての交渉をまだ一切していない。
せっかくだし、このタイミングで正式に勧誘しておくとするか。
「理由は二つ。一つ目は、シンプルに情報の対価としてだ。真実を教えてもらったお礼に何かしたい、といったところだな。そしてもう一つは……君さえもし良ければ、強くなった君をパーティーメンバーとして俺の元の世界に連れていきたいという理由だ」
というわけで、俺はそう切り出した。
「お主の……元来た世界に?」
「ああ。俺の元の世界には『狂乱一族』という、俺一人じゃどうしても倒せない強敵がいてな。元々俺はそいつを一緒に倒せる戦力が欲しくて、相応しい実力者をヘッドハンティングするために、この世界への召喚に応じたのだ」
実際の当初の目的はヘッドハンティングとはちょっと違うのだが、話がややこしくなるのでこのような説明に留めておく。
「お主が倒せないような存在が、お主の世界にはおるのか……。さぞやおぞましい世界のようだな。余計に我でいいのか不安になってきたぞ」
「俺はむしろ、さっきの模擬戦で君こそ最適だと確信できたがな」
またもや魔王は不安そうになったので、俺はフォローを入れた。
「もちろん、立場とかこの世界でやりたいこととか色々あるだろうし、無理にとは言わないが。俺についてくるのが嫌なら、俺は今すぐにでも合成勇者を人質に取り、女神との交渉に乗り出す。……どっちがいい?」
そして俺は、そう続けて魔王の返事を待った。
正直……簡単に決められることではないだろうしな。
魔王が望むなら、何日くらいかは考える猶予を与えてもいいか。
そんな選択も視野に入れつつ、魔王の次の言葉を待つ。
「そうだな……我としては、自ら合成勇者を葬らせてもらえるなら、お主について行くことは厭わない。それが一生の願いを叶えてくれる者への礼儀だと思うからな」
しかし……ありがたいことに、魔王はそう即決してくれた。
「本当にいいのか?」
「ああ、もちろんだ。……ただし」
と思いきや、何か条件があるようだ。
「ただし、何だ?」
「実は……我には妹がいてな。本来は我と同じくらいの戦闘能力があるのだが、謎の持病で弱体化してしもうたのだ。我がこの世界を去るのであれば、一応後継者候補として政治を学んでいた妹に魔王を継がせたい。が、今のままだと『最も強き者が魔王となる』という魔族の掟上、それは不可能だ。お主ならもしや……その持病を治療できるのではと思うてな。一度試してみてもらえないか?」
どんな条件だろうと思いながら聞いてみると、内政事情というか家族事情というかといったような内容だった。
正直、医療は専門外なので、これとばかりは魔王の期待に沿える自信はないな。
とはいえ、首が飛んだだけの者が死亡扱いになるような世界だ。
そのレベルの世界での「難病」なら、もしかしたら俺でも治療できる可能性はある。
「やるだけやってみよう。が、期待はしないでくれ」
一応俺はそう言って、引き受けることにした。
「……ありがたい。もし無理だったとしても、『やっぱり行かない』とかは言わないから安心してほしい」
「妹はどこにいるんだ?」
「我がいた塔の、二個下の階だ」
善は急げというし、今やってしまうとするか。
場所も聞いたので、早速俺は魔王と共に塔の当該階に転移することにした。
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