第11話 模擬戦の準備
ちょっと短いですが、この後普通に19時台の更新もしますので……!
翻訳魔法を発動しながら周囲を見渡すと……魔族の言語で「受付」と書かれた、窓口のような場所が見つかった。
行き当たりばったりではあったものの、運よくロビーに転移できたようだ。
受付には、いかにも事務員っぽい服装の男が一人いたが……その男は魔王に気づくなり、椅子から転げ落ちそうになった。
「へ……陛下!? 一体どうしてこちらに……?」
「ちょっと用事があってな。今日、貸し切りにしてもらえる時間帯ってあるか?」
上ずった声で質問する事務員に、魔王はそう返す。
「時間帯も何も……本日は休館日ですので、他に利用者はございません。もちろん陛下の要望でしたら、本日もご自由にお使いいただいてかまいません」
運のいいことに、今日闘技場には他の利用者がいないようだ。
まあ「サテライト」の反応に二〜三人しか映っていなかったことから、薄々そんな気はしていたのだが。
そのうち一人がこの事務員で、他は清掃員とでもいったところだろうな。
「……だそうだ。もちろん、今すぐ始めるのだろう?」
「ああ、そうしない理由はないな」
魔王の案内のもと、俺たちは闘技場のステージまで歩いていった。
闘技場は石造りで、ステージと観客席の間には申し訳程度に永続結界が張られていた。
「さて……と」
そんな様子を確認しつつ……俺は収納魔法で一つの魔道具を取り出す。
多少ツマミをいじってから起動すると、闘技場に設置されている永続結界の内側に、新たな結界が一枚展開された。
「それは何だ? また何か、とんでもなく高性能な魔道具なのだろうが……」
「幻影結界だ」
——幻影結界。それが、今俺が展開した結界の名称だ。
この結界はそこそこ優秀な耐物理・耐魔法性能があるだけでなく、もう一つ重要な機能を持っている。
それは、結界の外にいる人から、結界内部の様子が全く分からなくするという機能だ。
この結界が張られていると……例えば観客席にいる人からは、たとえ内部でどんな激しい戦いが起こっていようと、俺たちがラジオ体操をしているようにしか見えなくなる。
……ステージに着いてから周囲を見渡したところ、観客席には二人の清掃員がいるのが見えたからな。
友好な模擬戦とはいえ……魔王が人間に負ける姿が一般魔族の目に映るのは、政治的に好ましくはないだろう。
そこへの配慮から、張る結界の種類をこれに決めたというわけだ。
「この結界には、観客席の清掃員からは俺たちが健康体操をしているようにしか見えなくなる効果がある。どんな負け方をしてもそれが一般の魔族の目に映ることはないから、安心して挑んで欲しい」
「なんだその出鱈目な効果は……。しかし、その配慮自体はありがたい」
などと会話しつつ、俺たちは開始位置に立った。
収納魔法で爆竹を一つ取り出し、声を張ってこう口にする。
「3……2……1……始め!」
爆竹を地面に投げつけると、すぐさま俺は身体強化魔法を発動し、魔王の周囲を縦横無尽に跳びまわり始めた。




