第10話 魔王を弟子に迎え入れた
さて。
一体何をすれば、女神は一番困るだろうか。
合成勇者を捕らえ、いつでも殺せる状況に置いて「解放してほしければ俺を元の世界に送還しろ」と脅せば交渉に応じるだろうか。
いやしかし、それでは俺の問題は解決しても、せっかく情報提供してくれた魔王は救われないままとなってしまうな……。
どうせなら何か、俺だけでなく魔王も得するような、ウィンーウィンな解決策が存在すればいいのだが。
などと考えたところで、俺は一つ、名案を思いついた。
……何も、俺が直接女神を困らせなくてもいいのだ。
魔王に修行をつけ、合成勇者を超える戦闘能力を身に着けさせる。
そして魔王に先々代の仇を取らせ、条約改正の交渉をさせれば……女神にとって、一番面白くない状況が完成するだろう。
そうなれば、女神だって、どうにかして魔王をこの世界から放り出したいと考えるようになるはず。
そこを見計らって、「俺が魔王を元の世界に連れ帰る。そうすれば人族にとっての脅威もなくなるぞ」と提案するのだ。
乗らなければ、待っているのは魔族陣営が加速度的に有力になる未来のみ。
断るという選択肢は、女神からは存在しなくなるはずだ。
魔王の護衛たちは普通の召喚勇者よりは強いんだし……合成勇者さえいなくなれば、たとえ俺たちが元の世界に戻っても、残った魔族で不平等条約改正の交渉はできるだろう。
そしてそれは魔王にとっても悲願なはず。
正に、お互いにとってウィンーウィンな作戦だと言えるだろう。
もし魔王が、フェンリル狩りの時に逃走した元パーティーメンバーのような腰抜けでないならば、期間後は狂乱一族討伐のための戦友として迎え入れることだってできるし。
そうなれば、俺にとっても今回の勇者召喚、一応メリットはあったということになる。
というかこんな目に遭った以上、せめてその程度のお土産はあってほしいところなんだよな。
「合成勇者……もし自分の手で倒せるなら倒したいか?」
考えが固まったところで、俺は魔王にそう問いかけた。
「そんな実力があれば……当然だ。奴は先々代の魔王の仇であり、不平等条約の元凶でもあるからな。魔王として、そして先々代魔王の孫として、奴の殺害は願ってもないことだ」
すると魔王からは、一瞬の迷いもなくそう返ってきた。
なら……決定だな。
「じゃあ、こういうのはどうだ。俺が直々に、君に稽古をつける。途中で心が折れさえしなければ、君が合成勇者を超える実力を身に付けられることは、俺が保証しよう」
俺は単刀直入に、そんなプランを提示した。
それを聞いて、一瞬魔王は困惑の表情を浮かべる。
「……そこまでしてもらっていいのか?」
「俺だって、当初の目的がなくなった以上はもう元の世界に戻りたいんだ。そのためには、何とかして女神を困らせ、交渉の場に引きずり出す必要がある」
「な、なるほど、お主にもメリットがあっての話なのだな。しかしそれにしても一体、我が合成勇者を超えられる根拠はどこから……」
「調べて分かったが、現時点の合成勇者の戦闘能力は俺の五分の一程度しかない。これは才能とか関係なく、誰もが努力で辿り着ける境地だ」
「お主の五分の一……。あまりそうは聞こえんがのう……」
その表情は、自信なさげなものに変わった。
……言っていることは本当なんだがな。
特に魔王の場合、少なくとも一種族の中で最強と認められているわけだし……そこに強くなりたい強力な動機が揃うとなると、挫折する確率もかなり低いはずだ。
とはいえ……魔王が自分に自身を持てない気持ちも、理解できなくはないな。
魔王自身だって強くなるためにできることは何でも試してきたはずだし、それゆえに、今感じている壁を超えられるとは、なかなか思い難い節があるのだろう。
こういう場合は、体験レッスン的なことを一度やってみるのが効果的だ。
自分に何が足りなくて、具体的に何をすればそれを補えるかが分かるだけでも、合成勇者を超えるビジョンがだいぶ見えやすくなるだろうからな。
「まあまあ……とりあえず、これから闘技場にでも移動しないか? さっきは術式を消してばかりで、実力を測ることにまで意識が向いてなかったからな。一度模擬戦をして、現状の君の力を見てみたい」
というわけで、俺はそう提案した。
体験レッスンは、まず現在の生徒の実力を測るところから始めるのが鉄則だからな。
さっきは術式を消してばかりで、魔王の実力にまで意識が向いてなかったし。
「そこまで言ってくれるなら……頼む」
すると魔王は、そう言って頭を下げた。
「ここから一番近い闘技場って、どこにあるんだ?」
「西に4キロ、北に2キロの辺りだ」
地図を見てみると、確かに魔王の言う辺りに円柱形の建物が。
「分かった。連れてくぞ」
そう言って俺は、転移阻害すり抜け転移魔法を自身と魔王にかける。
直後、俺たちの周囲の景色が一変した。
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