第1話 勇者召喚で異世界に誘われた
「うーん、失敗か」
辺り一面マグマ地帯かのように変貌した砂漠の中央で——俺ことライゼルは、落胆と共にそう呟いた。
今行っていたのは、更なる強力な魔法を開発するための実験。
上手く行けば、中性子星と同じ密度を持つ超重量の剣を創造できるはずであった。
だが実際に起きたのは、超新星爆発もどきと呼ぶのも恥ずかしいような小規模の爆発と、それに伴う砂漠の溶岩地帯化のみ。
——明らかに、失敗だった。
「これを使いこなすのは……不可能か」
蒸発し、もうもうと湯気を立てる溶岩を見ながら、俺はそう呟く。
はっきり言って、俺は途方に暮れていた。
こんな超新星爆発もどきでも……そんじょそこらのドラゴン程度なら、一瞬で蒸発させることができるだろう。
だが俺の目標は、そんなところにはない。
この世界には「狂乱一族」と呼ばれる、倒すとその超常的な力を継承できる9体の固有生物が存在する。
「狂乱一族」の持つ力はまさに桁違いで、たとえ地上最強のドラゴンが100匹集まろうとも、「狂乱一族」最弱の個体の寝息を浴びたら一瞬で灰塵と化してしまうだろう。
そして俺が目指すのは文字通り「世界最強」だ。
「狂乱一族」を全て倒し、討伐によって手に入る超常能力を全てコンプリートする。
そこまでやって初めて、「世界最強」を名乗ることが許されるというものなのだ。
だが、現実は残酷だった。
鍛錬や実験を重ね、魔力や魔法制御力を限界まで伸ばしても尚、「狂乱一族」と対等に渡り合える戦闘用魔法はどれ一つとして発動できなかった。
理論上「狂乱一族」にトドメを刺せる魔法はいくつか開発したのだが……そのどれもが、魔力不足あるいは魔法制御力不足で、不発か暴発に終わってしまうのだ。
さっき使っていた「中性子星の密度の剣を創造する魔法」も、そんな「理論上は『狂乱一族』に敵い得るが暴発に終わってしまった魔法」の一つになったわけである。
「こうなってしまったら……」
「狂乱一族」に勝てる方法が残されているとしたら、方法はただ一つ。
仲間を集め、共闘することだ。
ソロで挑む場合使えなければならない魔法は全て失敗に終わったが、複数人での共闘を前提とするのであれば、「狂乱一族」最弱の個体を撃破し得る魔法はいくつか完成してある。
パーティーメンバーを育て、それらの魔法を習得させれば、共に「狂乱一族」に挑むことは不可能ではないだろう。
だがこの方法には一つ問題がある。
誰一人として、俺についてこられる実力を持つ者が存在しないのだ。
どういうことかと言うと、何度パーティーメンバーを募集してみても、良くて一週間、悪くて半日で全員に逃げられてしまうのだ。
もちろん彼らには暴発魔法の実験など見せてはいないし、俺が組んだカリキュラムの最初の方なんて、「フェンリルの群れをみんなで殲滅する」レベルの平和なものだったのだが。
フェンリルという単語を出しただけで、「ほ、方向性の違いが……」などと言って全員に逃げだされたのは、今でも納得がいっていない。
とまあそんな調子なので、俺は今まで共闘ルートは完全に諦め、ソロで勝てる魔法の開発に没頭していたのである。
……まあ理論上有効な全ての魔法が使えないと分かった今では、それでもめげずに仲間を募集する方が上手くいく確率が高くなってしまったのだが。
気が向かないが、久しぶりにまた人口の多い都市にでも出向いてみるとしよう。
だが——そう思い、飛行魔法を発動しかけた時のことだった。
「……なんだ、あれ?」
突如として、俺の目の前に時空の歪みが発生し始めた。
まず真っ先に俺は、魔法の暴発の副作用を疑った。
だが何度頭で計算しても、俺がさっきの魔法で使った魔力は全て熱エネルギーに変換されたという結論にしかたどり着かない。
だとすれば、あの歪みは一体何なのだろう。
疑問が解消できず、ただただ俺はその不思議な現象を眺めることしかできなかった。
もしかして……結界か何か張った方がいいのだろうか。
あの時空の歪みが吸引力を持ち始め、俺が吸い込まれたら、どこに飛ばされるか分かったもんじゃないし。
そう思い、魔力を練り始めた矢先……今度は、もっと不可解な現象が目の前で起こった。
なんとその歪みの中から、人が一人出てきたのだ。
「……誰だ?」
「はじめまして。召喚神のレーシャと申します」
尋ねてみると……その女はそう自己紹介をした。
……頭が痛くなりそうだ。
よりによって訳の分からない方法で目の前に現れた人間が、神を名乗る痛い人物だとは。
「あー……召喚神? お前一体何を言っているんだ?」
呆れながらも、俺はそう応対してみる。
すると彼女は簡潔に、自分の身の上を説明した。
「失礼しました。私はこの世界とは別の世界——要は貴方から見れば異世界の、神に相当する者です。この度は神の仕事の一つである『勇者召喚』を行うため、この世界にお邪魔しました。私の出現位置は、その世界における最強の人間の近くとなっているはずですが……貴方で間違いないでしょうか?」
それを聞いて、余計に俺は訳が分からなくなる。
神の次は異世界か。さらには勇者召喚と。
……御伽噺のお遊戯かなんかのつもりか?
「御伽噺……じゃないですよ?」
「……は?」
だが次の瞬間……俺は自称女神が放った言葉を聞いて、耳を疑った。
それもそのはず。
この自称女神……俺の思考を読み取って発言してきたのだ。
他人の思考を抽出する魔法くらいいくらでも存在するが、俺の思考を抽出できる人間はそう多くないはずだ。
俺の脳には、特に厳重に何重ものオリジナル反魔法をかけているからな。
それらを全てかいくぐり、俺の思考を盗むには、少なくとも俺より圧倒的に上位の魔法制御力が必要なはずなのだ。
だが間違いなく彼女は、たった今それをやってのけた。
性格のイタさは一旦置いておいて……この女、見どころがあるのは確かなようだ。
もし仲間にできれば、「狂乱一族」討伐も夢ではなくなるかもしれない。
「……ああ、俺がその世界最強の男だ。あくまで人類の中ではの話だが。……俺は勇者としてお前についていけばいいのか?」
とりあえず俺は、自称女神の話に乗ってみることに決めた。
仲間に勧誘するとしたら、とりあえずある程度人となりを知っておきたいからだ。
それに「勇者召喚」が一体なんの隠語なのかは知らないが……とりあえずそれに応じれば、恩を売ることだってできるだろう。
「来てくださるんですか!? ありがとうございます!」
すると……彼女は目を輝かせ、何度も頭を下げた。
「……俺は何をすればいいんだ?」
「私の管轄の世界に到着したら……国王の指示に従い、魔王を倒してください。……本当に今から連れていきますが、いいですね?」
「ああ」
そう答えるや否や……俺は自分の体が空間の歪みに向かって吸い込まれるような力を感じた。
「実はこの歪み、ブラックホールでした」とかなると一巻の終わりだが、千載一遇のチャンス、虎穴に入らずんば虎子を得ずということで、とくに抵抗はしない。
吸い込まれると……俺の周囲の景色が一変した。
気がついたら、俺は宮殿っぽい場所の中にいた。
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