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やっと甘い成分入りま~す✨
「お嬢様、起きてください。お嬢様!」
グラグラと乱暴に体を揺すられて夢の世界が遠くなっていく。
「うぅん。、、、。おはようございますミチさん。」
「お嬢様、朝から鳥を鳴かせるなんて非常識ですよ?籠に入れてくれたようですが、鳴かないように躾してくださいね。」
挨拶も無視の上に酷い言いようだ。鳥の鳴くのを禁止するだなんて生き甲斐を奪うようなものだ。
それにしてもずいぶん早い時間に起こされたようだ。まだ外は暗い。
「今何時ですか?今日は何かあるんでしょうか。」
そう聞くとまだ朝の六時半だという。しかもミチさんは驚きの言葉を述べた。
「今日からお嬢様はお嬢様ではなく彩華です。働かざる者食うべからず。そう言いましたよね?今日からこの家で働いてもらいます。」
「え、でも暁さんはこの家で家族として暮らすって言ってくれました、、、。暁さんはどうしたんですか?」
「旦那様は昨日の夜遅く出ていかれました。暫くは海外でお仕事をなさるようで帰ってこないでしょう。その間この家の指揮を取るのは百合様です。百合様が働く許可を与えてくださったのですから感謝して精一杯尽くすのですよ。」
そう言うと私を二回にある浴室に連れていった。
(どういうこと?私は召し使いとしてこの家に来たってこと?暁さんは何のために私を、、、。)
混乱しているうちにミチさんはドンドンと掃除の手順を教えてくる。こんな広いお風呂を一時間で綺麗にしろだなんて本気で言っているのだろうか?
「ミチさん、あの、、、流石に一時間じゃ無理です。私こんなことやったこと無いし、、、。」
その発言が気にくわなかったようだ。
ドンッ! 私を勢い良く突き飛ばした。
「キャッ!?、、、ッ!痛っ、」
まだ水気が残る大理石のうえに後ろから勢い良く倒れこんだ私は背中と頭を強打して痛みのあまり起き上がれない。心なしか頭がグワグワンとする。
「人殺しの娘の癖に生意気言うんじゃないわよ。出来なかったらまた仕事増えるから。」
そう言って激しい口調で私を罵ると私を残して出ていった。
「っ痛!、、、っ。うぅ。」
割れそうな頭と痛む背中を何とか起こして掃除を始める。先程頭を打ったせいか視界が歪むが文句は言ってられない。我慢して手を動かした。
「ふっっ、、、っ。ひっく。」
涙が止まらない。ここに来てこんな仕打ちを受けると思っても見なかった。せめてここに風花がいてくれたらと思ったが風花はもう私と一緒にどこへでも行けるわけではなくなってしまった。
(早く終わらせて部屋へ戻ろう。今日は朝御飯食べたい、、、。)
暫くするとミチさんが戻ってきた。今日は何としてでもご飯を食べたい。お腹が空きすぎて死にそうだ。幸いにも掃除は出来ていたようで食事の間に行くことが出来た。
お腹の空くあまりはやる気持ちで食間に向かう。だが後もう少しでつくというところで中年の侍従から声をかけられた。
「おい、お前。そんな格好で食間に入るな。奥さま達の目が汚れるだろう。」
そう言われハッとして自分の服装を見下ろすと朝着替えずに着っぱなしになっているパジャマは掃除のせいか所々汚れていた。
「それにお前。まだやること終わってないだろ。皿洗いが残っている。」
「、、、っ。でも早く行かないと朝ご飯が無くなっちゃう!」
「なら早く洗え」
そう言うとキッチンに連れてこられた。私はあきらめて大急ぎで洗うと急いでじぶんの部屋に戻って着替え食間に向かった。
ガチャ。
それでも遅かったようだ。どうやら食事はもう始まっていた。
「あら、遅かったのね。遅れてくるなんていい度胸。」
右奥に座る女性が私を蔑むように上から下まで見る。
「その髪にその顔、、、。嫌な女を思い出すわ。人殺しの娘をこの家に置かせるなんて気が気じゃないわっ!」
「っ!」
私が何かしただろうか。それにまだ何も証拠が出てないっていうのに、、、。私は助けを求めて薫の方を見た。だがその表情に絶望する。
「お前、人殺しの娘なんだってな。よくこの家に世話になろうと考えたものだ。のうのうとこの場に顔だしやがって」
こんなに一晩で手のひら返しのような敵意を見せられて胸が痛い。
「お前の分は無いぞ?勝手に食材を使うのも許さない。早く出ていけ」
そう睨み付けられるがお腹が空きすぎて今にも死にそうだ。
「お願いします、、、。昨日から何も食べてないんです。何か食べさせて」
「俺がお前を殴り付ける前に早く出ていけ」
「っ!すいません、、、。」
私は空きっ腹を抱えて部屋に戻った。そしたらそこには私の荷物も風花もいなくなっていた。
「え?どうして?風花は?風花?」
するとミチさんがやってきた。
「あぁ、居たの?今日からお前の部屋はここではないわ。」
そう言うと屋敷の一番隅っこの日の当たらない部家に案内された。
「風花!」
そこには鳥籠が置いてあった。
「無事で良かった、、、っ。」
すぐさま部屋に放してあげる。新しく与えられた部屋は固い小さなベッドと小さな机と椅子が置いてあるこじんまりとした部屋だった。
「人殺しの娘、、、か。」
今日一日で心身ともに疲れきった彩華はボソッと呟く。固いベッドにトスッと倒れこむと今朝怪我した背中や頭が痛かった。肩も痛くなってきてこれはアザになってそうだと他人事のように考えた。
すると風花は心配して近寄ってきた。
「ふふっ。慰めてくれるの?ありがとう、、、。私にはもう風花しかいないの。風花だけは私から離れていかないで。」
そう言うと了解したように「クルルル」と返事をする。
そうすると風花がいい匂いのする香りを運んできてくれた。心なしか痛みが和らいだ気がした。
「ありがとう、風花」
そう言うと嬉しそうに首をたてに降って跳び跳ねる。その動きが可笑しくて笑っていると、使用人が呼びにきた。仕事があるらしい。風花に申し訳なく思いながらも鳥籠に戻し仕事に戻る。そしてその仕事は夜中まで続いた。
「お腹空いたなぁ。」
もはや口癖になりそうだ。ものすごく頼み込んでやっとご飯にありつけたが、それでも微々たる物だ。しかし、何も食べてなかった私にはとてもそれが有り難かった。
「朝も早いし寝ないと、、、。おいで風花。」
そう言うと風花はいそいそと薄い蒲団に潜り込んでくる。あの時以来風花は姿を変えられなくなった。イースに寄ると魔力が戻るのはこの世界では時間がかかるようだ。
(こんな小さいからだに何かあったら大変。次は私が守らなきゃ。)
そう決意して朝に備えて眠りについた。
この日を皮切りに私に対するこの屋敷の人の態度は日増しに悪くなっていった。そのなかでも良く分からない態度を取るのが薫だった。
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日増しに悪烈になっていく人々に私は心を病んでいった、、、。なんてなると思ったか?!黙ってやられてたまるもんですか!
5年後には愛されて純粋に育ってきた彩華は、やられたら地味にやり返すことで鬱憤を晴らす擦れた性格になってしまっていた。相変わらず使用人には間違えて?水をかけられたり、私の分の食事が無かったりと様々に巧妙な嫌がらせをされていた。
「こんなんで私が根を上げると思ったか?今に見てなさいよ!このままじゃ済ませないんだから!」
そうどこかの三流悪役が言うような暴言を吐きながら庭をほじくっているのは可愛らしい顔をした少女だった。彩華の髪はいまでは長く伸び、流れるように緩やかに渦を巻くまるで飴が溶けたかのような見事な金髪を背中に長し、せっせとミミズの採集に勤しんでいる。
これは今朝嫌がらせをしてきた使用人の部屋にこっそり放っておくためのものだ。こんなことをしていても、証拠は絶対に残さないので誰も彩華を責めることは出来ない。
と言うのも
「彩華、こんな所で何をやっている。仕事をサボっているなら承知しないぞ。」
そう冷たい目でおっしゃる薫様が証拠の無いことで相手を痛め付けるのを禁止したからだ。
そう。こやつ、様子が可笑しいのだ。私の事を嫌っているくせに何だかんだとちょっかいをかけてくる。
「薫様。実は庭師に言われて畑の土を良くするミミズを集めていました。お目汚し失礼いたします。」
これは強ち嘘でもない。庭師のおじいさんだけは私に対して分かりにくいが優しさを返してくれている。今日は私が使用人から苛められているのを見た彼が気休めにでもなればと、そうした事にして私の大事にしている箱庭で休ませてくれているのだ。
「ふん。別にそう思ってはいない。ただお前は日に焼けると真っ赤になるからそれが痛そ、、、痛そうにするのが不愉快なだけだ」
そう言う彼の顔は真っ赤で彼の方こそ真っ赤だ、なんて思ったりする。
「大丈夫ですか?お顔が真っ赤です。薫様、お休みになられては、、、?体調が悪いのかもしれません。」
そう言って顔色を良く見るために少し近寄ってこの五年で大きく背を伸ばした彼を見つめると
「っっつ!う、うるさい!とにかくそれが終わったら早く部屋に戻れっ!」
そう言って更に赤くなった顔を隠すように戻っていった。
「変なの~。、、、あ!これは立派なミミズね」
そうしてミミズ探しに没頭したが、やはり頭の片隅には先程の彼が思い浮かぶ。
(あの五年前の鳥籠事件の時からちょっと変だったけど最近更に変だなぁ?どこか体調が良くないのかな)
そう。彼はあの時以来ずっと変なのだ。
だって人殺しの娘と蔑んでたくせに美味しいお菓子をくれたり、学校に行くときも車に乗せていってくれたりする。熱が出れば何か様子見に来るし、それに少し前からは名前で呼んでくるのだ。
、、、こんなに優しいなんてやっぱり変だ。
薫は好きな子ほど苛めちゃうんだけど後から後悔してウガァーってなるタイプの子です(´(ェ)`)