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ヒソヒソヒソヒソ、、、
「聞いた?◯◯さん。あの子の母親って誠さんのことを殺害したらしいのよ。あんなに綺麗で優しそうな顔しておいて、本当に人は分からないわね~。」
「えぇ、聞いたわ。しかも行方不明なんですって?その場に残されたのは彩華ちゃんと犯行に使われたナイフだけだったとか。彩華ちゃんもその現場を見ちゃったのかしら?そうしたら可哀想ねぇ、、、。」
人の不幸は蜜の味なんだろう。私が聞こえてるのが分かっているのか、そうでないのか。言葉が私を傷つける。
「、、、じゃない。っそうじゃないもん!お母さんはお父さんを殺してなんかない!おばさん達なにも知らないくせに!」
「まぁ!なんてお行儀の悪い子かしら。所詮あの誠さんの娘ね。駆け落ちしておいて今さら私達にこの子の面倒を見ろだなんて。」
そう。あの日から数日経って警察の調査の結果からお父さん達とはもう会えないことが分かった。保護者の居なくなった私を誰かが引き取らなくてはならないため、今日はそのために親戚の集まりが開かれた。
(お父さん達を悪く言う人達になんて引き取られたくない。戻ってきてお母さん、お父さん。)
今日初めて知ったことだが、お父さんはどうやらとある財閥の御曹司で跡取り息子だったがお母さんと駆け落ちしたらしい。そのせいで本家から拒否された私を、誰が引き取ってくれるだろうか。たらい回しにされるのが落ちに見えた。
「そうよねぇ。私のところも思春期の娘がいるし来年に受験を控えてる息子がいるのに引き取るなんて無理よ。」
「私のところも申し訳ないけどお断りするわ。」
(私、施設に行くのかな?でもこの人達と暮らすよりよっぽどましだもん。お母さんを人殺しにする人達と暮らしていけない!)
するとその時
「家が引き取ろう。」
そこに居たのは端麗な顔つきをした男性だった。
「あなた様は清水家の暁様では、、、。なぜこのような場に?」
「君達はどうやらそこの娘を引き取りたくないようだ。ならば私の家がもらい受けよう。私と誠は学生時代に友人として過ごした仲でね。誠も私が引き受けた方が浮かばれるだろう。」
そうして他を圧倒する美しい顔を私に向けた男は私の前にしゃがみこみ
「君の名前は?私は暁。君のお父さんのお友達だ。よかったら私の家に来ないか?一人息子が居るが君と年が近く仲良くやれるだろう。」
私には選択肢があるようでない。この人は人を従わせることに慣れている。ふとそう思った。お父さんと友人とも言っていたし、後ろめたいことはしてこないと信じたい。
「私の名前は彩華です。彩るの「彩」に華やかの「華」で彩華といいます。宜しくお願いします。」
「うん、彩華ちゃんだよね?君の事は大事にしよう。美奈子さんの娘だからね。さぁ新しいお家に行こう。」
そう言って私の手を引くと近くにいたいかにも仕事が出来そうな人を呼び寄せると何やら指示を出して歩き出した。
「ヂヂ、、、。ピッ!グルルル」
どうやら存在を無視された風花は機嫌が悪そうだ。なんとなく暁さんのことを警戒しているが彼ががどんな人かは分からないけど取り敢えず今は信じたかった。
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車にのって暫くすると目の前に白く塗られた上品で立派な門が現れた。車が正面に来ると音もなくスッと開いていく。
「うわぁ!すごい綺麗、、、。」
新しいお家は敷地がとても広いらしく綺麗に手入れされた庭をゆっくりと車が走り続ける。道中には素敵な噴水や温室が見えて太陽の光を受けてキラキラと輝いていた。
暫くすると車はゆっくりと止まった。どうやら着いたらしい。運転手がドアを開けると暁さんが先に降りて私に手を差し出した。お礼を言ってその手を取ると、玄関の前に可愛い男の子が立っていた。年齢は私と同じくらいに見える。
「挨拶しなさい、薫。君の新しい家族だ。」
するとその男の子は私をじっと見る。自然と私もその子をじっと見るがその子は父親譲りの美しい顔をしていた。切れ長の涼しげな目元にスッと通った鼻筋。そして塗れたように美しい深い青にも見える黒髪がその美しい顔を縁取っている。その子は口を開くと
「お前の事は父上から聞いた。よろしく」
「初めまして。私は彩華と言います。今日からお世話になりますがよろしくお願いします。」
そう言って握手をすると、顔見せが終わったとでもいうように家のなかに入っていった。
暁さんの方もどうやらこの後向かわなければ行けないところがあるのあるようだ。
「彩華ちゃん。私はもう行かなければならない。後は家のものが教えてくれるだろう。ではまた。」
そう言うと颯爽と去っていった。初めて来たばかりで寂しいのにもう行ってしまうのかと思ったが我が儘はいえない。取り敢えず風花を肩に乗せ中に入った。
中にはいると召し使いのような格好をした女性が私の事を部屋まで案内してくれた。ミチと名乗るその女性はどうやら私の事が気にくわなそうだった。
「あの、、、私彩華って言いま「お嬢様、私はあなたの専属侍女ですが用がない限りは私を呼ばないで下さいね。私はお嬢様と違って忙しいんです。それからその鳥ですが、鳥籠で飼育してください。家のなかで粗相されたら困りますので。では。」
私の言葉を遮ってそう言うと私をねめつけ部屋から出ていった。
(来てそうそう嫌われちゃったみたい)
そう落ち込んでいると風花が歌を歌って慰めてくれた。こんなに可愛い風花を閉じ込めるなんて、なんて酷い事を言うのだろう。それに風花は私の家族で友達だ。なおさらそんなことできない。
「はぁーあ。上手くやっていけるかな私、、、。ううん、やらなきゃ。」
そう思って決心を固めるが目蓋が重くなってきた。
(最近色々あって眠れてなかったから疲れたな、、、。ちょっとだけ寝よう、、、)
起きたのは外が暗くなってからだった。
「お腹空いた、、、。」
この場合どうすればいいんだろう。
(ミチさんに聞いてみよう)
部屋に付属している受話器をとり呼び出すと暫くしてミチさんがやってきた。
「あ、、、ミチさん。あの、私お腹が空いたので何か頂きたいのですが、、、。」
「そうですか。しかし、お嬢様は夕食に来られなかったので夕食は今日はお嬢様に用意できません。それでは」
そんなの聞いてない。確かに寝てしまった自分が悪いが起こしてくれても良かったんじゃ、、、。踵を返して去ろうとするミチさんを呼び止めてせめて何か食べさせて欲しいと言うと
「働かざる者食うべからずって言葉をご存知ですか?この家のご主人様は暁様と薫様と薫様の母君であらせられる百合様です。何かお食べになりたいなら働いたらどうですか?」
そう言うと去っていった。ミチさんのその言葉は明らかに私という存在がこの家に紛れ込むのを忌んでいた。私を嫌っているのはこの屋敷全体なんだろうか。誰かしらおかしいと思ってもくれないみたいだ。暁さんや薫さんは夕食に出ない私をどう思っただろう。百合さんともまだ挨拶できてない。
「そんな、、、。お腹空いたよ。」
今日は朝から慌ただしく何も食べていない。だからと言って働けと言われても何をするのか分からない。取り敢えずお風呂に入って寝よう。そう想いその日は眠りについた。空腹のあまり気持ち悪いのを抑えて。