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ガシャン
その大きな音で目が覚めた。
「何だ今の音?、、、明かりが付いてる。お母さん達まだ起きてるのかな?」
側を見るとどうやら風花も起きているようだ。風花が小さくなり肩に乗ってくる。喉が乾いた私は起きたついでに下に降りて水を飲みに言った。すると
「それは本当に申し訳なかったと反省してるわ。それにその罰として私は「うるさぃっ!人間になったお前に何ができる?お前にとっては愛のために行ったことが、龍族を脅かし俺からフィーを奪った!」
何が起こっているのか理解できなかった。まず知らない人がここにいることもそうだし、その人がその手に凶器を持っていることも。
ギィ、、、。
しまった。後ろに下がろうとした拍子に床板が軋んだ音を立てた。
「誰だ!出てこい」
すると私の前にあったドアが勢いよく開いた。
「ヒッ。」
気付いたら目の前に痩せ細り頬が痩けてなお美しい男がいた。しかしその目は濁っており底知れなさを感じた私は足の力が抜けて立てなくなった。
「チチチチ、チチ」焦ったように風花が肩から飛び降り風が吹いたと思ったら孔雀の姿をした風花が私を守るように前に立ち男を威嚇した。
「ほぉ。流石神の娘か。身は人間に堕ちれど魂は高潔で周りの聖なる獣を惹き付ける、か。」
「やめて!娘には手を出さないで。それにもう私は罪を償っているわ。これ以上は天の父が許さないでしょう」
そう言ってお母さんは私の方に逃げるよう合図してきた。
そして
「天球結界!」
そうお母さんが叫ぶと男は輝く光の球に閉じ込められた。男は中で何かやっているようだが出られないみたいだ。私はほっとして
「お母さん!その人誰?怖いよ、、、。警察に電話しよ?あ、でもその前に逃げないと、、、。」
目の前の現実が受け入れられなくて次から次へと思考が駆け巡る。
「お父さんも逃げ、、、。」
その時 バリィィン!爆風と共に恐怖が解放された。
「やはり力はうまく出せないんだな。」
「ッッツ!そんな、、、。なら[救済の堅牢]!!」
新たに展開された檻が男を捕らえるが男の力を見るに長くは持たなそうだ。
「っつ!早く、早く逃げなさい彩華!誠あなたもよ。私は後からすぐに行くから。、、、平気よ。私は愛の女神ヴィーナスなんだから!ほら早く逃げて!」
そういうと母お母さんは私達を突き飛ばして逃がそうとした。
(何が起こっているの?これは夢?)
夢にしてはリアルすぎるほどこの場は緊迫感に満ちている。
「、、、ッ。美奈子、君だけじゃ無理だ。僕も戦う。少しでも奴を足止めし、彩華を逃がそう。風花、彩華を頼む。行く先は分かるな?」
すると風花は頷いた。そうして私達の絆が別たれる危機に在ることを悲しむようにしっとりとした芳しい香りが空間に満ちる。クウェーと一鳴きすると一陣の風が吹き、風花は今までの孔雀の姿でなく輝くばかりの白い体毛に所々に銀と白金の入り交じる桃色のたてがみを持ったペガサスに姿を変えた。
「風花なの!?」
こんな危機的状況に居ながらその美しい動物に私は魅入った。
「そうなのね。やはりあなたは聖獣だったのね。懐かしい気配がしたはずだわ。それに普通の獣には世界の制約であんな術使える筈も無いし。」
そう言ってどこか納得したかのような面持ちで頷いた母は決意に満ちた顔をしていた。
「彩華ちゃん。よく聞きなさい。お母さんとお父さんはこれからあいつと決着を着けなきゃいけないわ。でもね、それはちょっぴり危ないの。だけどすぐに終わるから暫くの間風花と夜のお散歩でもしてきてね?愛してるわ彩華、、、。」
そう言って私を抱き締めてくれたお母さんの表情を見て私は別れを悟った。
「やだ、、、。絶対に嫌。離れたくない!一緒に逃げよう?」
そういう間にも檻に亀裂が入っていく。男が解放されることを表すかのように檻はギシギシと軋んでいる。
(危ないっっ!絶対にあれが解放されたらお母さんたちとは会えなくなっちゃう!)
彩華は絶対にこのばから離れたくなかった。堪らなく悪い予感がビンビンするのだ。
「彩華、もう時間がない。また後で会えるから。明日になったら良い子にできた御褒美として何でも買ってあげよう。だから行きなさい。愛してるよ彩華。」
お父さんも私を抱き締め、風花に乗せる。顔を離した時に肩に落ちてきた雫はしょっぱかったがお父さんはもう檻に向き合っていた。
すると「クルクル。クルルルル」風花がわたしを乗せて家の外に出ると助走を着け空へと舞い上がった。私目掛けてあの男が光を放ってこようとするのを懸命に止めている2人の姿が見える。
遠くなっていく家からは光が溢れ幸せな家庭が壊れていく様子が見えた。
「待って!ねぇ待って!お父さん達がまだ来てないよ?一緒に行かなきゃ。だって明日一緒に私の欲しいもの買ってくれるって約束したもん!」
「そのためには皆一緒に居なきゃ。ねぇ、戻って風花。お願いだから戻って!」
私も心の中では分かっていたのかもしれない。今日を最後にお父さん達と会えなくなることを。そしてお父さんたちが私のために命を掛けてくれたことも。
(もう会えないのかな。そんなの堪えられないよっっ!お母さん!お父さん!御願いだから無事で居て...。)
別れを思うと胸が張り裂けそうで胸が痛くて息が吸えなかった。
「ぁぁぁぁあああッ。何で?私達が何したって言うの?、、、ッ。」
涙が滝のように流れる。キユーンと悲しそうに風花が私を心配しながらも空を駆け続ける。その足並みは一定で行くべき道が分かっているようだ。
次第に泣き疲れて何が起こっているのか現実逃避を始めた脳が私を安らかな眠りへと誘った。