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「ああ、疲れた。おいで風花」
「ピチチチチ、ピュイピューイ」
どうやら風花は元気なようだ。流石レア種といった所か。
この世界では一昔前まで人と動物が寄り添いあって暮らしていた。しかし、近年の技術発達により動物たちの力が無くとも人は娯楽や発展を遂げることが可能になり、世話のかかる動物たちは必要なくなった。そうして住みかを奪われた多くの動物たちは人の手の届かない森へと去っていってしまいった。
今では残る動物たちは物好きや、上流階級のステータスとして顕示されるもののみになってしまった。
そんな中で出会った風花は動物という存在だけでも珍しいのに、かつ一昔前でも中々にお目にかかれない小鳥の一種、花風ウグイスだ。
その種の特徴として花の香りのする風を巻き起こすことができる。以前はそのスキルと桃色の可愛らしい容姿から愛玩動物として人気だった。風花の名前は安直だが、そこから取った。
「モフモフだねぇ。可愛いねぇ。いいこだねぇ。」
そう言って風花を撫でると、嬉しそうに顔を擦り付けてくる。
「よし!残りの仕事も頑張りますか」
「今日中に洗濯と雑巾がけ終わらないと寝れないとかどんな拷問なの?いや拷問が目的か、この家では」
と一人言を呟き仕事を始める。
その仕事が終わったのは真夜中だった。
何だかんだで眠らせてもらえない彩華の平均睡眠時間は約4~5時間。夜ごはんを食べ損ねることも多い。そのせいか彩華は年齢の割には華奢で小さかった。
「、、、いつまでこんな生活続くんだろ。なんかもう疲れたな、、、なんてね。」
そうして少女は目を閉じた。
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私の人生が劇的に変わったのは一年前のことだった。
私の家族はグラマラスな美女であるお母さんと、優しげな風貌のお父さんと私の3人家族。家族仲は至って良好で、お母さんの趣味が高じて休みの日にはよく渓谷や山に行ったり海に行ったりした。
彩華は個人的に遊園地とかの方がいい性格だった。
(今日もまた川か~。行ってもする事ないのに)
なんて車のなかでブスッとしているとお母さんはそれを見てクスクス笑う。
「あらぁ~。自然に触れるってことは自然と仲良くなるってことなのよ?と~っても大事なことじゃない?」
(自然と仲良くなるってなんなの、それ?)
自分にはまだ分からないことだ。
だけど、そう言うお母さんの周りはいつもキラキラしていて、子供ながら女神様みたいだなぁなんて思ってたりした。そんなお母さんを眩しそうに見つめるお父さんは、私とお母さんの事が大好きでそんなお父さんの事が私もお母さんも大好きだった。だからいつも仕方なしに着いていくのだ。
そんなある日、いつものように自然と戯れていると弱々しい音が聞こえてきた。
「ピィ、ピー。、、、ピ、、、。」
それは近くにある林から聞こえてきた。
「えっ、、、。どうしよう。気になるけどお母さんに森には入っちゃダメよって言われたしな」
でもどんどん声が小さくなっていく。
(これはあれだ。よく絵本に載っている、困っている人を助けに行くパターンだ。)
小さい頃からお姫様より戦う騎士の方が好きだった正義感の強いヤンチャな彩華は放っておけなかった。
「あぁ、もう!これは仕方ないよね?行こう、、、!」
「お母さぁぁ~ん!すぐ戻ってくるからちょっと行ってくる!」
川辺で休憩していたお母さんはニッコリ笑って手を振ってくれた。
「よし、行くか。待っててね、誰かさん!」
そう言って駆け出しすと、ギョッとしたように何かお母さんが言ってる。だけど今止められたら森には行けそうにない。取り敢えず今は行こう。
ハァ、ハァ、ハァ。進むにつれて鳥の声が近くなってきた。すると
「居た、、、。でもこれって、、、。」
そこに居たのは今ではお伽噺位に希少になった花風ウグイスの雛だった。
桃色の体に徐々に白ばんでいく翼。つぶらな瞳はじっとこっちを見ていて、ふわふわの毛で覆われているその生き物はとても可愛らしい。
(か、かわいいっっ!)
「だけど何でこんなところに、、、。」
もしかしたら木の上から落ちてきたのかもと上やそこらを見渡すが、親鳥の姿が見えない。
「ピチチチチ。ピチピチ、ピューイ!」
すると先程まで弱々しそうだった雛が急に彩華の方へ駆け寄ってきた。
「え、え?どした?元気なの?」
雛は可愛さに悶えていた彩華の所に来るとツンツンと足をつついた。
「君はどこから来たの?お母さんは?」
すると雛は首を横に振った。
「えぇえ!?待って。鳥って人の言葉理解できるの?」
「オーケー?ユーはミーの言ってること分かるの?」
動揺して変な言葉になってしまったが雛にそう問い掛けると
「ピッ!」
と元気な返事が聞こえた。
「すごいね君!それから、、、えっと君は戻るところあるの?」
「ピィ、、、。」
雛は項垂れた。なるほど無いのか。
先程の問いではお母さんは居ないと言っていた。でも見るからに保護者が居ないと誘拐か肉食動物に食べられそうな見事に目立つ色彩してるしなぁ。
「分かった!今日から君は家の子。名前は、、、えーっと、うんとね、、、。風花はどうかな?」
「花風ウグイスから取ったけどあながち私たちの出会いを表していて可笑しくはないでしょう?風のように現れた花みたいに綺麗な子だもん、あなたは。」
そう言うと雛は嬉しそうに囀ずって周りにブワッと花の良い香りが満ち溢れた。すると
「わわっ。なに?体が光ってる」
私の周りを漂っていた風が私の体を中心に渦を巻き始め、体から光りが溢れ始めた。
あまりの明るさにそのまま世界が暗くなった。