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彩華の朝は今日も早い。爽やかな朝を告げるアラームがスマホから流れるのをムニャムニャ言いながら止めては寝て...。朝に弱い彩華はいつも本当に起きたい30分前からアラームをセットしている。それでもダメな時は風花が容赦なくつつくため嫌々起きる訳だが...。
この日もそうだったようだ。
「ヂヂヂヂ!クルッキューイ!クルッキューイ!」
「んんぅ。まだ後5分、、、まだまだ寝れるぅ...。」
耳元でけたたましく風花が鳴く。だが昨日面白いドラマを見つけてしまい夜更かしした彩華はとてもじゃないが眠くて起きたくない。彩華はフカフカの布団を頭から被って囀ずりから耳を背ける。
「ピッ!チーヨチーヨ!クルル」
だが風花も負けていない。ついにはつつき始めた。というのも今のままいくと本当に学校に遅刻しそうだからだ。彩華の顔の近くにいくとほっぺたの肉を嘴でつまみ首を回転させる。風花必殺技の「回転つつき(改)」である。これがかなり痛い!
「あたたたたたっ!分かった!分かったよ!起きるから!」
そういって渋々と起きる。確かに時間を見ると予定より5分ほど遅れている。急いで支度をする。今年高校二年生になった彩華だが未だにうまく制服のリボンが結べなく、ここでいつも時間を取られる。
「ここはこの下を通って上に引っ張って...。よし!多分出来た。行くよ風花」
そう言うと桃色がさっと肩に乗る。次に向かうは薫の部屋だ。
部屋の前について軽くドアをノックするが返事は無い。薫も薫で大体起きない。
「薫~?薫入るよ?」
そう言ってドアを開ける。そして真っ暗な部屋の奥に布団に潜り込む引っ付き虫を見つけると、手始めにカーテンを開ける。
「っつ!目が目がぁぁ!?」
朝から寝ぼけた脳であの有名なセリフをぶちかましてくる辺り侮れない。だが薫の支度をするのは彩華の仕事だ。とっとと起きてもらわないとこっちが困る。
「はい、起きてくださいね~。もう七時だよ!」
そう言って布団を剥がそうとするが、何故か抵抗してくる。仕方ない最終手段だ。
「風花、用意はいい?サァ。行きなさい」
そう言って風花を薫の布団に潜り込ませる。するとすぐに悲鳴があがった。
「アダダダダ!やめろ!お前のはホントに肉が千切れる!絶対本気でやってるだろ、それ!?」
これまた風花必殺技の「回転つつき(改改)」である。風花はまだ昔自分が酷い目に合わされたことを根に持っているのでこういう所で私より当たりを強くしたりして仕返ししてるのだ。
小さな体でどうにか復讐しようと頑張るモフモフは今日も尊い。
心のなかでモフモフ神を讃えながらやっと起きた薫の身じたくを促す。
「制服用意しておくから顔早く洗ってきて」
まだ寝ぼけ眼を擦りつつ歩いていく薫を見送ると服の用意を始める。用意した制服を見て何度見ても惚れ惚れしてしまう。
(あの学校に入って一番得したのはこんなに可愛い制服が着れることね)
夏の制服は白い上質な布地にスカートやズボンの襟と袖口にあしらわれた金の豪奢な刺繍が、華やかさと共に清純さを表す。女子の場合にはスカートの両側に切れ込みが入っていることで、下にあるフリルが動く度に可愛らしく覗く仕様となっている。
方や冬の制服では女子はウエストより少し上までの丈の短い紺ブレザーに白地に襟と裾に金糸で刺繍されたシャツを着てその上から紺のワンピースを着用する。ワンピースは腰の部分をリボンで引き締めることが可能で、腰から次第にフンワリと広がったたシルエットを描く。男子の場合は紺のブレザーに同じく白地に金糸の刺繍が入ったシャツを着用し紺のズボンを履く。
制服は有名なデザイナーが仕立てたもので、この制服を着ることが一種の上流階級のステータスだったりする。
またフランスの王侯貴族学院から派生したため、男子のネクタイと女子のリボンは1年から3年まで青、白、赤と言えようにトリコロールになっており、それぞれ元となる布の端にはぐるりと金糸で学校名が彫られている。
「おい、着替えるからそれ貸せ」
いつの間にか戻ってきていたようだ。着替え終わった薫のネクタイを結び2人で食堂に向かう。
「おいで風花」
肩に風花をのせて向かうと既に先客がいた。
「「おはようございます」」
「あぁ、おはよう。2人とも」「また遅れてきたわね。」
そこには既に暁さんと百合さんがいた。
暁さんはあの鳥籠事件から一年後に戻ってきた。突然帰ってきたため百合さんは私への虐めを隠蔽することが出来なかった。暁さんは私のされている仕打ちを見ると大層怒って離婚の危機にまで行ったらしい。しかし、政略結婚ということでギリギリ踏みとどまったとか。
その日からは私への対応は見る間に変わった。部屋は元に戻り、食事も三食取るようになった。召し使いも一掃され、今では誰も私を脅かすことはなくなった。百合さんでさえもだ。
ただ一つ代わらなかったのは薫の身の世話だ。
「すいません。薫が中々起きなくて、、、。」
「ッな!俺のせいにするのか!?」
「ピッチ、ピュイ!」
遅刻の原因をそれとなく薫に擦り付けておく。暁さんが帰ってきた晩、薫も暁さんにコッテリ絞られたことを知っているのでこれぐらいは暁さんは容認してくれると予め知った上での行動だ。
風花も心なしか嬉しそうに加勢してくる。
「そうか。それはすまないね。いつもありがとう」
そう言う暁さんは全く申し訳なさそうではないが、何も言うことはなかった。というのも実のところ、彼が私が今でも薫の世話をしている原因だからだ。
あの日帰ってきてお願いされたことは二つあった。
1つは前のように薫と話すこと。2つは以前のように薫の世話をする事。その代わり薫も彩華の面倒を見るらしい。どうやらこれは薫と仲直りするためらしい。
勿論引き受けた。誰だってその代わりにお小遣いをくれるというならばもらいたいだろう。加えて。あの鳥籠事件後の謝罪以来、薫は理不尽なことはしてこなかったし段々優しくなった。つまり何も問題は無いのだ。
「人のせいにするなんて成長が見えませんね」
このように百合さんが噛みついてくるのはいつもの事だ。しかし、私には暁さんという大きなバックが着いている。虎の威を借る狐状態だが、流石の百合さんも迂闊には何もいえない。
(そうかんがえると百合さんて借りてきた猫みたい。ふむ、にゃんこといえば最近庭に来たクロはどうしてるかな?)
彩華はそう思考を明後日の方向に向け朝食を進めた。
朝食後部屋に戻り支度をすると、既に薫が支度を終え迎えに来た。
「行くぞ」
そう一言短くいうと私の荷物を持つ。これはいつからかの習慣で、私もありがとう、といい彼に荷物を預けた。
車に乗り込むとすぐに出発する。学園は警備の関係で門から本校に着くまでが長いのだ。そのため、大半の生徒は車で投稿する。
(薫ってば受験生の癖に悠々としちゃって!)
車内で2時間目にある英単語テストの勉強を始める私をよそに、外を眺める薫を憎々しげに見つめる。といっても彼はその容姿の良さを持ちながら頭脳の方までも神に愛されているらしい。だからこその余裕なのだろう。
朝日に照らされて濡れたように反射するサラサラの黒髪が今日も美しい。成長してさらに精巧さを増した薫は涼しげな顔に男らしいガッシリとした体つきで学園の女の子が彼に秋波を送るのも頷ける。
しばらくして到着すると運転手が開けたドアから降りる。薫とはここでお別れだ。
「じゃあ、また後で」
そう言って薫目当てにあつまり始めたギャラリーから逃げるように教室に向かおうとすると薫に呼び止められる。何だと思って振り替えるとすぐ近くに薫がいた。
「どうかした?」
急に近づいてきた薫にドキドキしつつも冷静に聞くと薫はリボンを一度ほどき、再び結い始めた。
「リボン曲がってるぞ。いい加減出来るようになれ」
そう言うと去っていった。
ヒソヒソヒソヒソ
どうやら先程薫に近づきすぎたのが気にくわないらしい。周りからの視線が痛い。
「またあのこ薫様の手を煩わせて、いいご身分ね。元召し使いの癖に」
「ホントそうよね。少し顔がいいからって調子にのって嫌な方ね」
上流階級が集う学園の割には俗っぽい事をするものだと視線を受けながら教室に向かう。教室には数少ない友達の実優が既に登校していた。
「あ!来た来た~。また朝からイチャイチャしてたね、君たちは?全くもう「俺が結んでやる!(キリッ)」なんて言われちゃったのかしら?朝からお熱いことねぇ~」
そう言って肩まで流れる薄茶色の加味を跳ねさせて泣きぼくろの目元を細める彼女は、今日初めて会ったまでもなく挨拶代わりにそんなことを聞いてくる。
(朝から下世話な話して、ホント残念美少女ね)
そう実優はとても可愛らしい庇護欲を誘う見た目をしている。それと同時に放つ色香はお上品な同年代の坊っちゃんを打ちのめしている。だが当の本人は他人のこうした話がすきで、自分の事はからっきしだ。
「またそんなこと言って...。あなたもそうじゃないことくらい分かるでしょ?」
そう。あの時から少しずつ親しくなっていったが、所詮は兄弟。行くところまで行ったとしてもそこには越えられない壁がある。
「だよねぇ~。いや、早とちりしちゃった!あはっ。兄弟だもんね。それは絶対ないか!良かった良かった」
「そうだよ、ないない。」
自分で言ってて少し胸が痛い。初めて今の家に来てから冷遇されるきっかけを作ったのは薫だった。でもそれは仕方がない。誰だって新しい家族が人殺しの娘と呼ばれていたら驚くだろう。それはいいのだ。だが、同時に行きすぎた虐めによる辛い日々から救ってくれたのも彼だった。
(でもどうせ彼は私の事良くて妹ぐらいにしか思ってないだろうなぁ)
あの日から次第にじぶんに向けて優しい笑みを見せてくれる彼をちょっぴり好きになりかけてる自分がいた。それに最近スキンシップが多いから余計彼も私の事が...なんて妄想をしてしまう。
(なんだかなぁ...世知辛い世の中だ)
彩華は迷走しそうな思考を切り替えて実優とテスト勉強に集中した。




