小さな狼
「………あれ、これ結構取ったな。なんかカゴいっぱいだ。」
カゴからわさわさと様々な薬草が少女の歩くスピードに合わせて揺れる。朝露がぽたりと落ちると、足元に咲いている花の香りがほのかに広がる。
「そろそろ戻ればちょうどお昼前かな。…ん?」
来た道を戻っていた少女は違和感に気づく。少女は毎朝薬草取りに森に入っているので、もう庭のようなものなのだが、そこには見なれない道があった。
「…草が倒れてる。何か引きずったような跡…。」
少女はその道を辿っていく。倒木に傷を治すキノコがあれば、もう入らないカゴの薬草を詰めに詰めて押し込む。そうして少し行った先には樹齢何年になるのかも分からない大きな木があった。
「おっきな木…。何メートルあるのかしら?」
小さな少女では比べ物にならないほどおおきな木は、根が地表に現れてその強大さを表していた。
「なんて言う木なのかしら…。え。」
くるっと木の周りを見ていると根元に小さな灰色の狼が、ヒュウヒュウと細い呼吸をしている。慌ててカゴを地面に置き、シルティーリアは狼に駆け寄った。少女の指先からひじくらいの大きさしかない狼を抱き抱えると、その体温の冷たさに背筋がゾッとする。
「どうして危険な生き物の居ない星の森でこんなに弱るの、どうしたらいいの、薬草しかなくて薬はないし、どうしよう」
少女は涙目になりながら必死に狼の体をさする。衰弱と疲労で弱りきった狼の毛並みには艶がなかった。
「…! 喉になにか詰まってて呼吸が出来ないんだわ!」
撫でると狼の喉になにか不自然な膨らみがあった。口を開け、覗き込むとそこには何か金属光沢がみえる。
「ちょっと我慢してね、うう…ごめんね!!」
思い切り喉に手を突っ込む。小さいとはいえ、鋭い歯が柔らかな手の甲にくい込むが少女にそんなことを気にする余裕はなかった。今目の前にいる生き物を助けることに必死だった。
「と、どいた!」
指先に当たった物を手で包み、これ以上喉を傷つけないように取り出す。
「ガフッガフッ…」
数回の咳をした後、狼は正常な呼吸を取り戻す。少女は手に取った金属をほおり投げて狼をもう一度さする。体温が少しづつ戻ってきたことを確認して安堵のため息をついた。
「はぁぁぁ…。も、よかった…。」
狼を軽く抱きしめると自分の肩の小さな震えに気づく。少女は少し笑い、もう一度安堵の溜息を零した。エプロンを脱ぎ、狼に優しく巻き付ける。
「そういえば何が喉に入ってたのかしら。…?首飾り、かな、これ…」
四角形のシルバーに赤い意匠が刻まれている。ツバサのようなその模様はとても細かい物で、職人の腕が伺える。
狼は利口な生き物で、誤飲なんてするはずも無い。狼の大事なものかもしれないと考えたシルティーリアはそれをスカートのポケットにしまう。
「とりあえずこの子を休ませて治療しないと。」
急いで足元のカゴを拾い、狼を優しく抱き上げると帰り道へ小さな足を動かした。