召喚者?いいえ変質者です
おうちでお昼寝していたはずなのに、目をつぶっていてもまぶしくなって、なんだかザワザワ聞こえてきた。
由麻は恐る恐る目を開き、そして…号泣した。
怪しげなマントを被ったおじさんや、神話にでてくるような変な格好をしたおじさんや、刃物っぽいものを腰にさげたおじさんに囲まれていたのだ。怖い。怖すぎる。
「まぁまぁぁぁ~たぁすけぇてぇえぇぇ」
「由麻のおうち、お金もちじゃないからユーカイしてもお金はらえないよぉぉぉ」
「うわぁぁぁぁん、ヘンタイ~ヘンシツシャ~ユウカイハン~」
「へ、変態…」
「へ、変質者…」
「ゆ、誘拐犯…」
各々、技術を極めて王宮に仕える魔術師であり、神殿の最高峰の中央神殿に仕える神官であり、国に忠誠を誓い心身共に鍛え上げた騎士である。敬われ慕われることはあれど、貶められることなどあるはずもなかった。
四歳か五歳くらいの、泣き叫ぶ幼い少女を呆然とみつめながら、国を救うため禁術である召喚を試みた魔術師や神官はもちろん、護衛の騎士達も悟った。自分達がしたことは崇高な使命ではなかったと。ただの誘拐であったと。
あまりの衝撃に誰も動けないでいると、幼い少女は泣き過ぎてしゃくりあげ、ひきつけそうなほどになってきた。間もなく魔方陣の光が消え、召喚の儀式が完了する。
一人の魔術師が動いた。魔方陣の一部を掻き消したのだ。
途端に召喚の光も、少女も、少女の泣き叫ぶ声も消えた。
あとには安堵の溜め息と気まずい沈黙が残された。
以降、この国では召喚の儀式は執り行われなくなった。
儀式の方法は黒く塗りつぶされ、異世界から幼子を誘拐する変質者になる前に、自分達の力で対処すべきだと記されたとか。
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一方、由麻は…
「うわぁぁぁぁん、まぁまぁぁぁ~」
「はいはい、ママよ~ここにいるよ~」
由麻がお昼寝してる間に庭の水やりをしていたママが、泣き声に驚き駆けつけてきて抱き締める。
「怖い夢みちゃったかな?もう大丈夫だよ~」
ママにぎゅうっと抱きつき顔をすりつける。
ママの匂いにやっと少し落ち着いてくる。
もうやめた筈の指しゃぶりもする。ふぅ。
「ひっく…もっとぎゅうしてぇ~お背中ポンポンもぉ~」
「はーい、ぎゅうぅぅっと」
ぎゅうっと抱き締め、お背中をポンポンしてくれる、いつもの温もりに、由麻はやっと安心できた。怖かった。変質者に囲まれる夢。怖すぎた。
その日は寝るまでずっとママにくっついて離れなかった。
寝てからも寝ながら夜泣きした。
ママは急な赤ちゃん返りにほとほと困ったが、愛娘を永遠に失う寸前であったことに気づくことはなかった。
由麻もまた気づいていない。この時の召喚から召喚癖がついてしまったことに…。