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『記憶の種』   作者: 平田直矢
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序章:夢見る

小説『記憶の種』

序章 夢見る

第1章 物語のはじまり

Ⅰ 山本茉利子

Ⅱ 山本圭子

Ⅲ 山本吾郎


第2章 河原木由紀

第3章 ベランダ

第4章 いま、ここを超えて

終章 記憶の種


主な登場人物

・河原木由紀(茉利子の実母 美希の幼なじみ)

・河原木佐和(由紀の母)

・河原木真治(由紀の父)

・小泉政実(由紀の祖母)

・遠藤真知子(由紀の同僚教員 英語科)

・川崎美希

・山口裕平(由紀の学生時代の彼氏)

・山本茉利子

・山本吾郎(茉利子の実父)

・山本圭子(茉利子の育ての母 吾郎の実妹)

・山本信(吾郎、圭子の父親)

・山本幸江(吾郎、圭子の母親)

・少年A(由紀、美希のクラスメイト)

・少年B (同上)

・佐々木衛門(吾郎の地元の島民)

・小池勉(吾郎の中学1年生の時の担任教師 英語科)

・島津綾(吾郎の同級生)

・木下さん(茉利子の隣人)

・葛城るい(?)

     序章 記憶

私の母は二十年前に私を産んですぐに亡くなってしまった。2週間前、私が帰宅すると書斎に私宛の封筒があり中にはUSBメモリーと1通の手紙があり、そこにはこう綴られていた。


茉利子ちゃんへ

あなたのお母様から預かったものです。あなたが二十歳の誕生日を迎えたら渡すように頼まれていたので、ずっと私が保管していました。大切にしてください。


匿名かつワープロだったので送り主に全く見当はつかなかったが、私は迷わずUSBメモリーをパソコンに差し込んだ。するとそこには母の日記だけがポツンと残されていた。


1991年12月10日

いつもより一本早い電車に乗れた。

 昨夜の疲れがまだ残っていたので、優先席でも躊躇わず座った。月曜の朝は特に混雑するし、人身事故が起こりやすいので優先席に座った罪悪感より電車の遅延が起こらないかという不安のほうが大きかった。

 大学4年生。来年度から神奈川県の中学校で養護教諭として就職することが決まった私は来年度から車通勤だから、この地下鉄に乗るのも今年で最後かもしれないと思った。

今日の論文提出が終わればしばらく休みになる。教員になったらほとんど休めないから、どこか遠くに旅行でも行くかな。それともなかなか実家に帰れてないから福岡に帰るか。そうこうしているうちに最寄り駅に到着。すると後方から聞き慣れた声が。

「由紀!おはよう!」

「ああ。美希、久々だね」

「何?元気ないじゃない?」

「そう?ちょっと考え事していただけよ。」

「ん?もしかして裕君のことで?」

「違うわよ。それにY(山本裕平)とはもう別れたって言ったでしょ?」

「へー。由紀の事だから、まだ好きなんじゃないの?」

「そんなわけないし。あいつは最低男よ。」

「まあね。あんなことがあれば、そうなるわな。ごめん。もう聞かないわ。」

「で、何を考えていたの?」

「今日で学校ほぼ終わりでしょ?就職したら休みがあまり取れないから、今のうちに旅行に行くか、実家に帰ってのんびりするか考えていたのよ。」

「由紀が福岡に帰ろうなんて珍しいじゃない?」

「お母さんに採用決定報告してくれば?どうせ、全然お墓参り行ってないでしょ?」

「そうだね。実家に帰ってお母さんに会ってくる。じゃあ、美希も一緒に帰る?」

「名案だね!由紀のおばあちゃんに久々に会いたいし!」

「じゃあ、決まりだね!帰省するとき何か横浜銘菓でも買っていく?」

「あ!!!博多ラーメン食べたい!!」

「ちょっと?美希、話聞いている?」

 こんな他愛もない会話が好きだった。美希と一緒にいると、なんだか心が癒されるし、初心に戻れる気がする。ただ少し抜けているというか、アホな部分もある。例えば、パスポートのsex(性別)を書く欄に平気で週3回。と書いたり、車で買い物に来たのにもかかわらず電車で帰宅してしまったり。他にも色々エピソードはある。むろん美希とは幼稚園から大学までずっと一緒にいるから、お互いのことは知り尽くしている。

美希は幼い時から容姿がよく、頻繁に男子に絡まれてたことも知っている。

私たちが中学校に入学して三か月程が経ったある日、私は美希が同じクラスの男子二人に過度なスキンシップをされているのを、目撃したが私は少し怖くて止めに入ることはできなかったので、担任の先生にそのことを報告した。しかし、“よくあることだよ”と言われ、流されてしまった。美希へのスキンシップは学年が上がるにつれより過激なものになってきた。美希は成長のスピードは平均に比べはるかに速かった。月経も小学四年になったころには始まっていたし、胸だってDカップもあった。当時の女子中学生の話題は恋愛、胸の大きさ、月経が3本柱だったが。私はまだ月経はきてなかったし、胸だってAカップ。だから、私は美希の容姿には正直羨ましかったし、自分と美希をどうしても比べてしまうから劣等感は半端じゃなかった。しかし、大人はきれいごとばかり並べる。体の成長スピードは個人差が大きいから、気にするな。だとか、人の容姿を過度にいじるのはセクハラだぞ。とか。思春期の子供たちにそんなきれいごと言ったって、効果なんかあるわけないじゃない!そんなことは私にも分かっている。分かってはいるが、いざ自分が当事者になると分からなくなる。こんなふうに私はいつも大人の言動には腹を立てていた。私自身が反抗期だったのかもしれないが、それにしてもよく大人の言動に突っかかるイヤな奴であったことは間違いない。大人になった私は、思春期の子供たちになんて説明すればよいのかと常に考えているが中々名案は浮かばない。


“まりちゃーん!”

ちょうど日記を読み終わったタイミングでインターホンが鳴った。反射的に時間を確認すると18時を回っていた。大体この時間は大家の木下さんが訪ねてくるので、確認するといつもの如く木下さんが来ていた。私はめんどくせーと思いながらも、USBメモリーを金庫にしまい、玄関へ向かった。

まりちゃん!今日は旬の食材をお裾分けね!!

なすびと、トマト。なすびは傷んできているから早めに食べてね!

木下さんは横浜市の市役所の職員をしながら、農業を営んでいる。といっても自分達が食べる分と近隣に少しお裾分けする程度なので小規模だが、無農薬なので安心だし美味い。週2〜3回のスパンで色々と貰ってしまっているので申し訳なかったが、お金がなかった私には大変有り難かったのも確かである。

過去に何回かお返しに菓子折りなどを渡そうとしたが、1回も受け取ってくれなかった。

決まって木下さんはこういう。

"私は余り物をあげているのよ?悪く言えば残飯処理をしてもらっている側なのだから、私があなたに感謝したい。だから受け取れないわ。”

温かいな。こんな人他にいるのだろうかと思いながらも、私は何か違和感を覚えていた。木下さんがこのセリフを言う時は一字一句同じだし、棒読みなのだ。






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