9話 無個性剣士の狙われた学園
変な香港の少女。たしか好だったか?に襲われた翌日。
朝から特に変わったこともなく、いつも通りの日を過ごし、今日はザックに誘われたので一緒に帰っているところだ。
「なぁ、ザック。Cクラスの好って知ってるか?」
ザックはなんやかんやで人付き合いがうまい。おそらく彼女のことも知っているだろう。
「なんだ急に?あぁ、もちろん知ってるぜ。好 小鈴。戦闘能力だけなら、白狼や麗騎士にも劣らないって言われてる、1年じゃトップクラスの実力者だぜ。むしろ知らない奴の方が少ねぇと思うぜ」
「へぇ〜…そうなのか」
あいつ、有名人だったのか。まぁ、第2階梯を使いこなすくらいだし当然だろうけど。
「ただなぁ、どうも頭の方があまりよろしくなくてな…入試順位も筆記試験が合格スレスレだったから62位と低めだし、脳筋少女だの、喋り方も訛りが強いからアホっぽく聞こえるだの、ちょっと残念な娘だよ」
なるほど、いきなり襲って来たのはただのバカだからか。納得。
ただ、諜報機関に所属しているくらいだし、それも演技でやってるのかも知れないが。キャラ作りってのは大変だな。
「それよりも、珍しいじゃねぇか。お前が他の奴のこと聞いて来るとか。しかもお相手は女子ときたもんだ。さてはお前…」
ザックがニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている。
確かにこの聞き方だと勘違いされかねんな。
「そういうのじゃねーよ。たまたま知り合ったから聞いてみただけ」
「たまたま知り合ったって…。お前、ただでさえ、白神とは幼馴染で、さらにこの前のシークと公園に行ってたらしいじゃねぇか。そのうえ更にCクラスの人気少女とお知り合いって…そろそろ刺されるんじゃね?」
この前の公園での一件を見られていたのか。そのうえ変な噂まで。あぁ、メンドクセ。
「悪いけど、そういうのには興味ないんでな。それより、明日からの中間試験の勉強は進んでるのか?」
「うへぇ〜。嫌なこと思い出した。それを今言うかよ」
明日からセントラルは試験期間に入る。
各学年が丸1日を使って筆記の試験と実技の試験を行うのだ。
明日は最初の1年の試験の日で、2年、3年は登校してこないので、1年生で学園を貸し切り状態にして試験は執り行われる。
俺はというと筆記の方は問題なさそうだが、実技がなぁ…。
成績次第では追試もあるらしいし、どうしたもんか…。
ちなみに、反応といつもの授業を見ている限り、ザックは勉学はあまり得意ではないご様子。
ただでさえ、セントラルはハイレベルな授業だから、難しいのは仕方ないんだけどな。
「なぁ健!頼む!勉強教えてくれ!今からお前の家で泊まり込みで!」
「え?普通に嫌だけど」
「そこをなんとか!こんど昼飯奢るから!」
「いいだろう!今夜は寝かせないぜ!」
「いや、それはキモい」
と、いうことでザックが泊まりに来ることになった。
ザックも俺と同じく一人暮らしなので、何度かお互いの家に泊まったりはしたことはある。
毎回狭いだのなんだのいちゃもんはつけるが、いつも豪華な差し入れを持参してくれるので、非常に助かっている。
ザックは一度着替えとかを用意するために帰宅し、俺も家でザックが来るまで色々準備をした。
1時間ほどでザックがやってきて、今日は豪華な肉を持ってきてくれたので、2人で肉を堪能した後、深夜まで勉強を行った。
何度かザックの頭が破裂しそうになっていたが、なんとか頑張っていた。が、2時を過ぎた頃には限界を迎えたようで、気絶するように寝てしまった。
俺もだいたいは勉強が済んだので、明日に備えて寝るとしよう。
こんな普通の学生みたいな生活が送れる日が来るとは思ってもいなかったが、なんというか、友達ってのはいいもんだな。
ー翌日ー
訂正。ザックが全力寝坊をかましたせいでテスト当日のも関わらず遅刻寸前だ。
友達を待つ優しさを出してしまった俺を責めたい。
とりあえず、全力でダッシュしているが、間に合うかどうか…。
しかし、校門まであと100mっとこくらいで、俺たちの足が止まる。
校門に必ず立っているはずの教師の姿がないのだ。
もうすぐ閉門の時間にも関わらず教師が立っていないのは明らかにおかしい。
特に今日なんてテスト当日なのだから、いないはずがない。
「もしかして、俺たち、もう見捨てられたとか…」
「いや、それにしては門が開きっぱなしなのはおかしい」
「用事でどっかいってるとかじゃね?まぁ、なんにせよバレずに済みそうじゃん。ラッキー!」
ザックが勢いよく走り出した、その瞬間だった。
1発の銃声が鳴り響き、鉛玉がザックの目の前へと打ち込まれる。
「まさか、遅刻寸前でやってくるやつがいるなんて驚いたぜ。門の見張りなんかハズレくじだと思ったが、思わぬラッキーだったな」
現れたのは黒いマントに身を包んだ男。
口調はくだけているが、俺にはわかる。こいつは敵だ。
「なにもんだテメェ」
「あ?お前には用はねぇんだよ。用があるのは後ろのやつ」
「健になにか用か?」
どうやら、男の目的は俺のようだ。
「おい!そっちのお前、型無 健だな。一緒に来てもらう」
「断ると言ったら?」
「殺さない程度にぶっ殺して連れて行く」
男が再び銃を構える。
だが、その銃は発砲されることなく、手から落ちる。
ザックが発動させたマインドから放たれた銃弾によって。
「なんだかわからねぇけど、俺のダチに手ぇ出そうとしてんじゃねぇよ」
ザックの手には赤と青の二丁拳銃が握られていた。
ザックのマインドを見るのは初めてだが、そういえば自己紹介の時に拳銃型って言ってたな。
「あーぁ、めんどくせ。大人しくしとけば見逃してもよかったんだけどな…。気が変わった。お前は殺す。目標以外はどうしてもいいって話だしな。お前は死ね!」
男の手にマインドが発言する。
相手の男も拳銃型。
マグナムタイプだ。火力ではザックが劣るか…。
「おい!健!ここは俺がなんとかするから、お前は先に中へ行け!」
「待て!相手は間違いなく格上だぞ!ザックじゃ!」
「うるせぇ!マインド使えねぇお前じゃ足手まといだ!」
そういえば、ザックはあの時、気絶してたから俺の力については知らないんだったな。
だが、ザックの想いを無駄にするわけにもいかない。
俺は全力で校門へと駆け出す。
「いかせるわけねぇだろ!」
男の銃弾が俺へと一直線に向かって来る。
避けられそうにもない。マインドの攻撃だから傷はつかないが…仕方なく受けるか…。
だが、その銃弾は俺へと着弾することなく、ザックが放った銃弾に弾かれる。
「なんだと!?」
男が驚愕する声が聞こえる。
銃弾を正確に弾くなんてのは並の技術じゃない。
ザック、さすがのセンスだ。
「悪い!助かった!」
俺はそのまま男を抜いて、門をくぐり学校へと一直線に走る。
「なかなかやるじゃねぇか…。殺し甲斐があるじゃねぇの」
「俺のダチはやらせねぇよ」
後ろで何発もの銃声が聞こえて来る。
だが、俺は振り返らない。
頼んだぞ。ザック!
ーAクラス教室ー
「お前たちは何者だ!」
勢いよくシークが叫ぶ。
教室の隅に生徒が固まり、怯える生徒もいるなか、その先頭にシークが立ちはだかっている。
正面には黒いマント姿の男が2人。
さらに大型のグレイタイガーに跨った若い女性が1人。
そのあまりにも巨大なグレイタイガーの体に多くの生徒が萎縮しているなか、シークだけは震えることもなく生徒を守ろうとしている。
「別になんでもいいでしょ。そんなことよりさぁ、この教室に、型無 健って男の子がいるはずなんだけど、どの子ぉ〜?」
「型無が目的か。なぜ彼を狙う!」
「アンタには関係ないっしょ!。ってかさ!アンタ私の可愛いグレイタイガーちゃんを殺してくれた女だよね?」
「やはり、貴様がこの前の!」
「まぁ、厳密には私じゃないんだけどさ。ってか、そんなのどーでもいいんだよ。アンタにはお礼をしないとって思ってたとこだし。型無くんが出て来てくれないなら、アンタでいいや。おい!お前ら、その女犯れ」
女の命令で2人の男がシークを取り押さえる。
「やめろ!触るな!」
「あ、暴れると他の子達が私の可愛い子の餌になるから。大人しく犯られてくんない?」
グレイタイガーが喉を鳴らして生徒たちに威嚇をする。
それに他の生徒たちは怯え、仙も迂闊には手が出せない状況だ。
「卑劣な!」
シークも生徒を人質に取られては反撃できず、ついに抵抗をやめてしまう。
「大人しくなったね。じゃ、よろしく」
男たちがシークの制服に手をかけ、勢いよく引き裂いた。
シークの顔が恥辱で赤面し、目には涙が浮かぶ。
「あはは!めっちゃいい顔するじゃん!いいよぉ!」
女の高笑いが教室に響き渡る。
シークを襲っている男たちも、その露わになった白い素肌を目にし笑みを浮かべる。
男たちの手がシークの体を這うたびにシークのからだが震え、唇を強く噛み、女は悦に浸った表情を浮かべる。
女性とは目を背け、男子生徒には生唾を飲む者もいた。
そして、ついに男たちの手が下着に差し掛かり、シークが強く目を瞑った、その時だった。
教室に2発の銃声が鳴り響き、2人の男は地に伏せる。
敵の目的が俺なのだとすれば、まず襲うなら俺の教室だろう。
俺は全力で教室へと走った。
予想は的中だった。教室には人質に取られている生徒たち。
そして、襲われているシーク。
その姿を見た瞬間、俺の中で何かが弾ける音がした。
考えるより先に行動していたという方が正しいだろうか。
手にさっきコピーしたザックのマインドを顕現させ、教室へと飛び込み、シークへと群がる2人の男を撃ち抜いた。
生徒たちが驚きで言葉をなくし、呆然とする。
仙も大きく目を見開き、シークはどこか安堵の表情を浮かべていた。
大型のグレイタイガーに乗った女が口を開く。
「せっかくいいところだったのに!邪魔してんじゃねぇよ!って、なんだ、ようやく来たんだ」
女がグレイタイガーから飛び降り、こちらへ向かって来る。が、俺はそれを無視し、シークへ駆け寄る。
「型無…」
「悪い、遅くなった」
シークへと上着をかけてやる。
みんなのために1人で耐えていたんだな。未だに肩が震えている。
「お前、なぜ…」
「お前が前に言ってただろ?俺の力は人を救えるって。今がその時だろ?」
俺は立ち上がり、女と対峙する。
仙は何も言わずにただじっと見つめている。
俺の意思を察してくれているかのように、静かに。
「ちょっと!何シカトしちゃってくれてんの?マジありえないし!」
「……」
俺は何も答えず、ただじっと女を睨みつける。
「なにその顔?普通にムカつくんですけど?」
それでも俺は口を開かない。
俺は怒りで言葉がでないのだろうか?いや、これは違う。
どうせ他の生徒にも見られたし、この件が終わった後、俺の普通はなくなるだろう。
なら、最後くらいは、誰かのために戦ってやろう。
最後に全力で誰かのために戦える。
これは、その喜びの感情なんだろうか?
それとも、ただ、今から人を殺そうとしている、あの戦場にいた頃の感覚なんだろうか?
「なんなのアンタ?生かして連れてこいって命令だけど、腕か足の一本くらいいいよね?」
女の手に鞭型のマインドが顕現する。
そして、俺もマインドを発動させる。
真っ黒のレイピアが顕現する。シークの屈辱は俺があいつに返しえやるって、俺なりの意思表示だ。
やっぱり、前の一件でシークの想いを聞いてしまってから、少し情が移ってしまってるのか?
一息の後、女が鞭を叩きつけ、それを合図にグレイタイガーが大きくこちらへ飛びかかる。
俺はまっすぐグレイタイガーへと突っ込み、その喉元めがけてレイピアを突き出す。
グレイタイガーの首元から大量の血が吹きだし、その活動が停止する。
教室からは女子生徒の悲鳴があがる。
返り血に俺も染まるが、瞳はまっすぐ相手を睨み続ける。
「一撃で…私の可愛い子をよくも!やっぱり1本なんかじゃ足りない。手足全部もいでダルマにして連れてってやる」
女の表情が怒りで歪む。
だが、俺はそれにも怯まず、相手を見据える。
「その目が鬱陶しいんだよ!なんだよその目は!死んだ魚みたいな目してるくせに!いいよ。本気でやったげるよ!
ーデビル・テイル!ー」
女の鞭が光を放ち形が変化する。
先端がまるで悪魔の尻尾のように鋭く尖り、鞭全体も禍々しいオーラを放っている。
やはり、第2階梯を出してきたか。
その位の力はあるだろうな。
「ぶっ殺す!」
さぁ、ここからが、本番だ。
俺は今から、この女をー
ー殺す。
ー同時刻。学園長室ー
椅子に座る壮麗な女性を複数の男が取り囲んでいる。
その中央に立っているのは眼鏡をかけたマントの男。
「なぜだ…なぜお前が…クロード!」
眼鏡の男がニヤリと笑った。




