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中央学園の無個性剣士  作者: 龍華
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8話 無個性剣士の昔話

 数秒、俺の思考が停止した。

 時間にすると、一瞬だっただろうが、その瞬間に俺の頭の中を様々な思考が回り、答えを出す。

 こいつはここで消さないと。

 

 俺の手元に黒い仙の刀と同じマインドが顕現し、そのまま少女に襲いかかる。


「うわわ!ちょ、ちょっとタンマ!」


 振り下ろした俺の刀を少女が両手で挟んで受け止める。

 真剣白刃取り。まさか現実で見れるとはな…。


「悪いが、ここで消えてくれ…」

「うわっ!目が本気じゃん!ちょっと待って!話を聞いて!」

 少女の必死の懇願で冷静さを取り戻した俺は、そこで我に帰った。

 と、いうか、少女に違和感を感じたからだろうか?

「お前、さっきまでの訛りはどうした?」

 違和感の正体は少女の話し方だった。

 さっきまでは香港訛りが強い話し方だったのに、今は普通の話し方だ。

「あぁ、あんなのキャラに決まってるじゃない。マインドは個性の強さに比例するんだから、キャラを強くしたらマインドも強くなるのよ。じゃなきゃ、あんな恥ずかしい話し方しないわよ!」

 恥ずかしって…。香港では普通の話し方なのにな。 

 なるほどな。第2階梯までなるとキャラ作りとか、色々と大変なんだろうな。こっちが本性か。

 いや、それよりも…。

「なぜ俺の力について知っている?返答次第では…」

 再び刀を構える。

「だから、話を聞いてって言ったでしょ。まずはその物騒なのしまってくれる?」

 確かに、話を聞いてからでもいいかもしれないな。

 とりあえずマインドを解除し、話を聞くことにした。

「はぁ…。えっと、まずは自己紹介からするわね。私は、コウ 小鈴シャオリン。あなたと同じ1年生よ。組はCクラスね」

 Cクラスか。Cクラスとは離れてるし、そもそも俺は他のクラスのやつ、というか、この前の宿泊演習で一緒になったメンバー以外ほとんど学園の生徒を知らないし、まぁ顔も知らなくて当然か。

「私は香港のとある諜報機関の所属でね。あなたのことも組織から聞いてるの。知らないと思うけど、あなたは香港の裏組織では有名人なのよ」

 京和では俺の存在はトップシークレットになってのだが、他地域ではそうではないみたいだな。

 知っているやつは知っているってことか。なんとも迷惑な話だな。

「で、なんでいきなり襲いかかってきたわけ?」

「それは単純な興味よ。香港うちの精鋭を全滅させた人工マインドの力を見てみたくなったの」

 本当に迷惑な話だ。ただの興味で襲われるとは…。

「しっかし、予想以上ね。だいたいの能力は聞いてたけど、ここまでとはね。マインドのコピー。まさか第2階梯までコピーするなんて思わなかったわ」

 



 俺のマインドは決まった形を持っていない。

 マインドのコピー。世界で唯一、俺だけが持つ能力だ。

 コピーしたマインドの能力はオリジナルとほぼ遜色なく、コピーのストックも無制限。

 第3階梯は試したことはないが、今のところ第2階梯でもコピーできるみたいだ。

 マインドの発動の瞬間さえ見ることができればコピーは可能。

 ただ、なぜかコピーしたマインドは全て真っ黒になってしまう。

 正直、俺自身この力の全ては理解していない。



「で、俺の力を確認したのはいいけど、これからどうするつもりだ?全校生徒に言いふらしでもするのか?」

「そんなことはしないわよ。だから言ったでしょ。今回の私の行動はただの興味。機関とは全く関係ないわ」

「なら、もう十分だろ。俺は帰るぞ」

「ちょっと待って!あなた、このまま3年間ずっと隠し続けていくつもりなの?」

「もし、この力が知られたらどうなると思う?全世界が俺を狙ってくるかもしれない、俺の周りの人間、学園にだって危険が及ぶかもしれない。俺は平穏に暮らしていたいだけだ。これ以上は関わらないでくれ」

「…そう。引き止めて悪かったわ」

 用事は済んだようなので俺は家路につくことにした。

 まだ何か言いたげだったが、これ以上は関わりたくないので気にしないことにする。


 

 その帰り道、俺は昔のことを思い出していた。

 香京事件。

 今から10年前。

 家が近所で、当時はよく一緒に遊んでいた俺と仙は、ある日、香港のテロリスト集団により誘拐された。

 テロリストの目的は領主の娘であった仙だったが、たまたま一緒に遊んでいた俺も一緒に連れ去られた。

 京和との貿易交渉で揉めていた香港の貴族が依頼してのことだった。

 ついでに誘拐された俺だったが、そこで俺は香港が独自に研究を進めていた人工マインドの人体実験材料として利用された。

 さすがに領主の娘に危害を加えれば全面戦争にもなりかねないと思ったのか、一般人の俺を使ったのだろう。

 思い出しただけで吐き気がするような酷い実験だった。

 毎日繰り返される実験の中で、俺は助けが来ることも諦めていた。ただ毎日、はやく殺してくれないか。そんなことばかり考えていた。

 だが、ある日、ついに人工のマインドの植え付けに成功し、俺にマインドが発現した。

 喜びに湧く研究者たちをみた時、俺の中の怒りや憎しみの感情が爆発し、マインドが暴走した。

 憎しみの力を全て注ぎ込まれた俺のマインドは、触れるもの全てを一撃でロストさせるほどの力を持っており、その場にいた人間を全員ロストさせ、香港には甚大な損失を与えることとなった。

 その直後に京和から助けが来て、俺と仙は救出された。

 それ以降、仙は自分のことを責め続け、自分を強くするのに固執するようになった。

 そして、それまで通りに仙と遊ぶどころか、俺は普通の生活にも戻れなかった。

 難しい外交のことは大人がやってくれたが、俺の力には京和も頭を抱えた。

 普通は10歳頃で発現するマインドを、その半分の年齢で、しかも人工的に強制的に発現させられたのだ。もちろん制御などできるわけなく、いつ暴走してもおかしくないような状態だ。

 監禁などの案もあったらしいが、京和は俺の軍事利用を決めた。

 それからというもの、俺は京和の軍で毎日のように訓練をさせられた。

 マインドの制御や戦い方を全て叩き込まれ、10歳になる頃には軍の精鋭入りまで果たしていた。

 そして、その頃に気づいた。自分自身の本来のマインドが俺には発現していないことを。長い軍での訓練で、いつの間にか俺自身を失くしていたことに。

 己を失くした俺には、自分自身の力がなくなっていた。

 なんどか戦場へも駆り出されたが、俺のその姿、強大すぎる力に畏怖した京和は俺の利用をやめた。

 俺の現状を見かねた領主の仙の親父さんが止めてくれたってのも大きい。

 京和は俺が力を使うことを禁止し、普通に過ごすように命じた。自分たちが勝手に利用して、制御できるものでないと分かった途端に捨てる。都合のいいやりかただ。俺のことは京和の上層部のみが知ることとなり、一切の情報を秘匿した。

 12歳になる頃にようやく俺は普通の生活に戻ることができたが、もはや普通がどんなだったのかを俺は覚えていなかった。

 だが、そんな俺でも、父さんや母さんや姉さんや妹は暖かく迎えてくれた。

 俺はそれ以来、この現状を守り続けていこうと心に誓った。

 もう戦わない。この平穏を2度と失うまいと。

 


 この学園に来たのは、もしかしたら間違いだったかもしれない。

 ここへ来てから変なやつには絡まれるし、襲われるし、無駄に力を使わさられるし、ろくなことがないな。

 そんなことを考えていると、いつの間にか家についていた。

 学園から少し離れたところにある小さなアパートの一室で俺は今生活している。

 京和の実家から通うのは難しいので、親元を離れ一人暮らしだ。

 寮に入る生徒も多いが、俺のように部屋を借りているのも、セントラルではごく普通のことだ。

 ただいまと声をかけても返事はないから、少し寂しいが、今はこの平穏を続けていこう。

 

 


ーとある廃ビルにてー

 数人の人間が机を囲んでいる。

 男、女、若い者、年老いているもの、様々だが、全員が黒いコートに身を包んでいた。

「まさか、彼の力がここまでとは…」

「ゲイルって性格は最悪だけど、実力はそこそこあったのに、あっさりとやられちゃうなんて。しかも私が大事に育てたグレイタイガー全滅って!マジありえないし!」

「たかだかペットの虎を殺されたくらいで騒ぐな!酒がまずくなる」

「んだと!?じゃあ、私の可愛い虎ちゃんと遊んでみる?」

 若い男女が一触即発になりかけた時、一番奥に座っている男が口を開いた。

「少し、静かにしようか?」

 恐ろしく、冷たい声に場は静まり返る。

「ゲイルは確かに残念だったが、だが、彼の力が健在だということがわかった。それだけでも大きな成果だ」

 フードの奥のメガネが光に反射し光り、男の頬が少し上がる。

「我々の悲願のため、彼の力は必要不可欠だ。そろそろ我々も動くとしよう」

 男のその言葉を合図にその場の人間が一斉に立ち上がる。


「彼の力を我らの手に。そしてー


 セントラルを掌握する!」

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