7話 無個性剣士とアルネ少女
あれからしばらく経ち、俺たちはいつもの日常に戻っていた。
あれ以来、仙やシークとはほとんど話していない。
事件は生徒たちにはほとんど知らされることなく秘匿とされ、突然襲ってきた猛獣にザックと俺は襲われたことになっていて、それをシークと仙が退治した。公にはそうなっている。
おかげで仙とシークの株は爆上がり。俺たちも特に変わりのない日常を過ごしている。
いや、ひとつ変わったこともある。
「健!昼飯食いに行こうぜ!」
昼休みになり、ザック達が俺を誘いに来る。
あの事件以来、ザックと俺は、そうだな、友達といえるような関係になっていた。
たまに放課後に遊んだり、飯を食いに行ったり、あと、ザックの取り巻き2人のコニーとライルとも成り行きで仲良くなり、4人で過ごすことも増えた。
こういうのは、悪くない。
「悪いな。先約があるんだ」
「え〜!お前いっつも昼休みは先約って…いつもどこいってんだよ?」
「内緒だ。じゃあな」
昼休みは俺がお姉さんと過ごす憩いの時間だ。たとえ友達といえど、その時間は譲れない。
そして、俺はいつもの場所へと向かう。
だが、お姉さんは今日も現れなかった。
宿泊演習が終わってから、お姉さんは一度も現れていない。
正直、寂しい。
現れないお姉さんを待つのを諦め、いつもの1人昼目にをしようとした時、校内放送が鳴る。
『1年A組 型無 健さん。学園長室まで来てください』
まさかの、学園長室への呼び出し。
俺何かしたか?この前の事件のことだろうか?それにしては期間が空きすぎな気がするが…。
とりあえず、学園長室へと向かうことにしたが、そういえば、入学式でも一番後ろだったから、学園長の顔とか見てなかったな。どんな人なんだろう?
目的の場所へと到着したが、ここへ来るまでに何人かにすれ違ったが、視線が痛かった。
そりゃ、学園長室へのお呼び出しともなれば当然か。少し気が重い。
「失礼しま〜す」
ノックをして、学園長室へと踏み入れるが、そこで待っていたのはー
「やぁ!久しぶりだね!元気だったかい?」
お姉さんだった。
数秒間思考が停止する。
え〜と…つまりは…
「お姉さんは、実は学園長でした?」
「正解!よく今まで気付かなかったね」
「いや、まぁ、確かに…というか、逆になんで教えてくれなかったんですか?」
「ははは、少し悪戯心が働いてしまってね」
学園長室の大層な椅子に座っているが、目の前にいるのは間違いなく屋上で一緒に過ごしていたお姉さんだった。
「それで?学園長が俺に何の用で?」
「堅苦しいのはよしてくれ、今まで通りお姉さんで頼むよ」
「はぁ…じゃあそうします」
「よろしい。いや、別に何か用ってわけでもないよ。最近忙しくてなかなか屋上へ行けなかったから、そろそろ寂しいだろうと思ってね。私に会わせてあげようと呼びつけたのだよ」
「それはどうも。おかげで全校生徒に不審がられましたよ」
「それはすまなかった」
「なにも校内放送を使わなくても…」
「仕方ないじゃないか。私はここから動けないんだから。ほれ、お詫びにこれをあげるから」
そういってお姉さんは弁当箱を俺に差し出す。
「久しぶりの手作り弁当だ。嬉しいだろ?」
「えぇ。とても」
こうして俺は昼飯をお姉さんと学園長室で食べるという奇妙な昼休みを過ごすこととなった。
「なるほどね、そんなことが…」
弁当を食べながら、俺はお姉さんと先日の事件について話していた。
口外禁止と言われていたが、お姉さんには話してもいいだろう。まず学園長だし。
「だいたいは知っているんでしょ?」
「大まかな内容の報告は受けているが、詳細なことまでは。今回のことは我々学園の責任だ。代表として謝罪をする」
お姉さんは学園長として俺へ頭を下げる。
なんか、最近偉い人に頭を下げられることが多い気がするんだが…。
「別に、お姉さんのせいじゃないですよ」
「だが、生徒を危険な目に合わせてしまった。これは大人の責任だ。それに君を戦わせてしまったこともね」
「やっぱり、俺のこと知ってたんですね」
「騙していたようですまない。君の素性を知り、学園への入学させたのも私だ」
「ま、そうでしょうね。じゃなきゃ俺が合格なんてありえないですし」
「私の管理下に置くのが一番だと思ったのだよ。ここ以上に安全な学校はこの国にはないからね。だが結局…」
「それ以上自分を責めるのはやめてください。確かに、危険な目には合いましたが、おかげで友達もできましたから」
「そうか…それは…よかったな」
さっきまで暗かったお姉さんの顔が少し明るくなった気がした。
思いつめていたんだろうな。
「香京事件の傷跡…か…。君も、本当なら…」
「…もぅ、ずっと前のことですから。今更後悔もないですよ」
「君は強いな」
「そんなことないですよ。ただの無個性野郎ですから」
「なんだそれは?」
「いえ、お気になさらず」
お姉さんとの昼休みも終わり、学園長室を後にする。
色々とお姉さんも背負っているんだな。
教室へと戻る途中に1人の男性とすれ違った。
なんか偉い人に見えたのでとりあえず挨拶をしておいたが、なんというか、目が眼鏡越しの目が怖い人だった。
「用事はすみましたか?」
「む?クロードか。あぁ、話はできたよ」
「そうですか。型無 健。まさか彼があの香京事件の関係者、いや当事者だったとは…知っていらしたんですよね?それで彼の入学を」
「あぁ」
「よいのですか?彼をこのままにしておいて」
「彼もここでは、ただの生徒だ」
「…そうですか…まぁいいでしょう」
その日の放課後、日直だった俺は仕事を終え、職員室へ先生に日報を届けた後、家路につこうとしていた。
靴を履き替えて帰ろうとしていた、その時だった。
「アナタ、型無 健ネ」
会ったことのない生徒だった。
言葉の訛りかたからして香港の人だろうか。
「えっと、どちらさまで?俺に何か用?」
「話しがあるネ。ちょっと付き合うアル」
「知らない人について行っちゃダメって偉い人に教わってるから断る」
「この前の事件、学校中で噂になってるけど、真実は違う。アナタが本当は敵を倒した」
「さぁ?なんの話し?」
あまり関わりたくない感じのやつなので足早に去ろうとしたのだが、思いもよらない一言で俺の気が変わった。
「ー香京事件」
「話を聞こうか」
怪しい少女についていくこと数分。
校舎から少し離れた人気のない雑木林についたところで少女が口を開く。
「ワタシ、この前の事件アヤシイと思ってイロイロ調べたネ。そしたら、10年前に起こった事件に今回の白神、それと同じ年の男の子が関わっていると知ったネ。それがアナタ」
「悪いが、勘違いだ。俺と仙は確かに昔からの知り合いだが、それには無関係だ」
「ノコノコとついて来てそれは通用しないアル」
確かに迂闊だった。事件のことを口に出され判断を誤ってしまった。
馬鹿正直について来てしまえば認めているようなものだ。
「で、仮に俺がその関係者だったとして何の用?」
「その力、見せてもらうアル」
「嫌だと言ったら?」
「なら、力づくネ!」
次の瞬間、謎の少女の手に長槍が出現し、俺へと突っ込んできた。
既のところでかわし、大きく後ろへ飛び退く。
「今のを躱すとは、さすがネ。でも、次はどうネ!」
今度は高速の連続突きが繰り出される。
さすがに全ては躱しきれずに何発か喰らってしまい、少しの疲労感を覚える。
「なかなかしぶといアルな」
「あのさ、いきなりはやめてくんない?結構しんどいんだけど」
「普通に話せるなら、まだ余裕ネ。普通の人間なら今の連続攻撃でやられてるアル」
つい本能的に避けてしまったが、今のはあえて受けてくべきだったかもな。
だが、あれだけの攻撃を受けてしまえば、ロストとまではいかなくても気は失ってただろうし…。
「そろそろ本気でいくアルー
ー龍骨槍!」
少女がそう叫ぶと同時に彼女のマインドであろう槍が大きく光を放った。
そして、光が収束した時に彼女の手に収まっていたのは、先ほどまでとは形状が大きく異なる槍だった。
柄の部分には無数のつなぎ目のようなものが現れ、隙間からは鎖のようなものが覗いている。
先端も先ほどよりも大型の刃に変わっており、さながら龍のような。
「あんた、まさか…」
「そうネ。ワタシのマインドは第2階梯アル」
発現し心が武器として顕現するのは、最初の第1階梯。
ここまでは誰でも発現する。
が、マインドにはその先がある。マインドは全部で3段階に成長する。
今彼女が使ったのが第2階梯。
己を理解し、心を制御したものが到達する段階。
マインドにさらなる力を与え、その形を変化させ、強力な力を与える。
そして、第2階梯に到達するとマインドには固有の名称が与えられ、それを呼ぶことで第2階梯の力が発現する。
普通は入学してたの学生なんかが使えるようなものではないはずなのだが…それくらいに彼女の心が強いということだろう。
「第2ラウンド、スタートネ!」
金属が弾けたような音が鳴り、槍が俺の元へ襲いかかる。
初撃は避けられたが、鎖で繋がれた槍の動きは予測できず、そのまま鎖が絡みつき、俺は捕らえられてしまう。
「ようやく捕まえたアル」
抜け出そうとすれば余計に絡まり締まる。逃げられない。
「このままだとロストするヨ。そろそろ本気を出したらどうネ?」
確かに、意識がだんだん薄れてくる。このままだと本気でやばいかもしれない…だが…
「意地でも戦わないつもりネ?ならアナタの正体、他の生徒にバラしてしまってもいいアル?」
これ以上は本気でやばい。まぁ、周りには誰もいないし、無駄に言いふらされるのも面倒だしな。
「それは…困るかな!」
俺の手に黒い長槍が出現する。
それを使い鎖を払い脱出する。
「…!ようやく本性を出したネ!うれしいアル!」
「喜んでくれてるとこ悪いけど、さっさと終わらせよう」
「余裕なのも今のうちネ!」
再び少女の槍が俺へと襲いかかる。
だが、その攻撃も俺の槍が全て弾く。
「さすがネ。でも、所詮は第1階梯。このまま受け切れるカナ?」
「あぁ、確かに、この状態だとやばいだろうな。このまま…ではな…」
「どういうことアルか?…まさか!」
「偽名 龍骨槍!」
俺の声と共に手元の槍の形が少女と同じものに変化する。
「そんな!ワタシの龍骨槍を!」
動揺で少女の動きが止まったのを俺は見逃さず、手元の龍骨槍を少女へ放つ。
「しまっ…!」
俺の槍が彼女を絡め取り、少女の動きが止まる。
「降参してくれると助かるんだけど?」
「…はぁ…ワタシの負けアル」
俺はマインドを解除し彼女を解放する。
「驚いたネ。まさか第2階梯までコピーされるなんて…」
「これに懲りたなら、これ以上は関わらないでくれ」
これ以上面倒はごめんなので俺は立ち去ろうとした。
だが、少女の思いもよらぬ一言で俺の足は止まる。
「それが、人工マインドの力アルか?」




