4話 無個性剣士と初めての友達
中央学園の新入生に課せられる一番初めの課題。それがこの宿泊演習だ。
広大な学園内の敷地内には演習用の山や森などがあり、そこで決められた班で2泊3日を過ごす。
これだけ聞けば、よくある林間学校みたいなものかと思うかもしれないが、ここはセントラル。そんな生易しい内容なわけがなく…。
「おい!無個性野郎!テメェ、まだ1匹も釣れてねぇじゃねぇか!やる気あるのか!」
この2泊3日の間、俺たちは生徒だけでのサバイバル生活を強いられる。
食料から飲み水、寝床まで、すべて生徒だけで確保しなければならない。ちなみに俺たちの班は森林エリアで、今は男子が釣りを、女子(というか、仙は相変わらず寝ているのでシークだけ)が山菜採りを分担している。
生徒同士で協力して生き抜くことで絆を深めるのが目的らしいが、各班の演習場所はかなり離れて指定されているので会うことはないし、教師たちからの援助なども一切ないとのことなので、完全に班だけで孤立している状態だ。おまけに学校の敷地内であるにも関わらず、猛獣などの危険生物なども出没するとかで、本格的に協力し合わないと命が危ない内容なのだが…。
「おい!お前、もっと離れたとこ行けよ!お前がそこにいるせいで魚が食いつかねぇんだろ!」
「それは関係ないと思うけど。そこまで言うなら君が移動してみたら?」
「テメェ誰に向かって口聞いてんだコラ!」
まぁ、見ての通り協力のきの字もないような状態だ。
こんなんで生き残れるのだろうか…。
「貴様ら、口喧嘩をしているくらい余裕だということは、少しは成果があるのだろうな」
俺たちがくだらないやりとりをしている間にシーク嬢が山菜採りから戻ってきた。カゴには山盛りの山菜が盛られていて、正直あれだけでも十分な食事になりそうだ。
「げ、シーク。もう戻ってきたのかよ」
「このようなサバイバルは幼少期の頃より何度も経験しているからな。食せる植物の見分けなど容易いものだ。それよりも、みたところまだ1匹も釣れていないみたいだが、貴様らは一体何をしていたのだ?」
「だって、それはこの無個性野郎が!」
「俺のせいにしないでくれる?」
「はぁ…。先が思いやられるな。もういい。私がやる」
そういってシークは俺に山菜のカゴを俺に押し付けて川へと入って行く。
「釣竿はいいのか?」
「必要ない。顕現!」
シークの手に純白のレイピアが出現する。そしてそのまま川へとそのレイピアをひと突き。
「この方が効率がいい」
レイピアには魚が4匹突き刺さっていた。ちなみに、マインドで人間は傷つけられなくても、動物は攻撃できる。
それにしても一発で魚を正確に4匹も貫くなんて、まじでどんな腕してんだよ。
結局その後も俺たちは魚を釣り上げることはできず、シークが追加で突いた魚4匹の計8匹の魚と、これまたシークの採ってきた山菜が夕飯となることになった。
ちなみに寝床に関しては、戻ると仙が立派な寝床を作り、そこで爆睡していた。
しかし、この短時間で一体どうやってこんな立派な寝床を作ったのだろう。ちゃんと建築の技術を学んだ人の木の組み方だし、昔から知っているが、こんなのいつ勉強したのだろうか。
夕食では意外なことにザックが調理を担当し、これまたシークが採ってきた木の実を調味料に魚の焼きものと山菜のすまし汁を手際よく作ってくれた。なにも役に立っていない俺に振る舞うのはさぞ不服そうだったが。
「仙、夕飯だぞ。そろそろ起きろ」
「…わかった…」
「今更なのだが、君たちはどういう関係なのだ?」
夕食の準備ができたので俺が仙を起こしていると、シークが俺に聞いてきた。
普通に考えたら、俺が仙と知り合いってのは確かに違和感があるのだろう。説明しておくか。
「親同士が仲よかったんだよ。家も近所だったから」
「そうなのか。しかし、白神家は京和の領主だろう。君の家も実はかなりの家柄なのではないのか?」
「普通の家だよ。特に変わったことはない」
「けっ!結局は親のおかげで白神と知り合いなだけで、お前は何もしてねぇじゃねぇか。とことん無個性野郎だな」
いちいち突っかかってくるあたりさすがザックだな。しかも若干意味がわからん。
「お前みたいなやつがこの学園にいるのが不思議でならないね。実は白神と仲のいい親のおかげだったりしてな!」
「あぁ、俺自身不思議だよ。本当にそうだったりしてな」
「あぁ?テメエいちいちムカつくな」
「やめないか!こんなところで大声を出すと獣が寄ってくるだろ!」
「でも実際お前も思ってるんだろ。こいつみたいな雑魚がここにいるのはおかしいって」
「それは…」
なにか言いたげではあるが、言い返せないのだろう。シークは気まずそうに黙ってしまった。大方、以前の実践時のことを言いたいのだろうが、相手が相手なだけに言えないでいるのだろうな。
そんな沈黙を破ったのは意外な人物だった。
「…そんなことはない。健は強い」
さっきまでうとうとしていた仙が強い口調でそう言った。
普段の仙からは想像できないような強い口調だったので、かなり衝撃だったのか、2人とも唖然としていた。
しばらくして、ザックが口を開いた。
「こんな無個性野郎が強いって、どういう意味なんだよ!」
「…そのままの意味。健は強い。私よりもあなたよりも、シークよりも」
「それは聞き捨てならねぇな!この俺がこいつより弱いだって?前の授業で俺に一発でやられたお前もみてたろ!」
「…あれで本当にそう思ってるなら、あなたはまだまだ…」
「はぁ!?どういう意味だよ」
「………」
話の途中ではあるが、仙はもう眠りについてしまたようだ。
「意味わからねぇ!俺はそんなの絶対に認めねぇ!こんな何もしないやつなんかに!」
「おい!どこへ行く!」
「うるせぇ!ほっとけ!」
シークの制止も聞かずザックはそのままどこかへ行ってしまった。
仙は眠ったままで、ザックはどこかへ行ってしまったのでシークと2人になってしまった。気まずい…。
長い沈黙の後で先に口を開いたのはシークだった。
「白神は知っているようだな」
「何を?」
「君の本当の実力をだ」
「なんのことだか、さっぱりわからんな」
「ザックの気持ちもわからなくはない。君のようなやつより劣っていると、しかも白神に言われてはそりゃ、あぁなるだろう」
ようなやつって、ひどい言われようだな。
「彼はあぁ見えてもかなり努力しているんだよ」
「あいつのこと知っているのか?」
「彼はグランデ家の次男でな。長男の兄君が不幸な事故で亡くなってからグランデ家の跡取りとしてそれは努力をしたそうだ。それこそ血の滲むような。私も一応貴族の家の生まれなのでな。そういう話は耳にするんだよ」
意外だった。ただのヤンキーかと思っていたのだが、あぁ見えて苦労をしていたんだな。少しだけ見直した。
「だから、彼にとって君のような者は気に食わないのだろう。努力を続け、この学園に入学した彼と、君ではまるで正反対だ」
確かに今の話を聞いた後だと俺は何も言えないな。なんの努力もせず、普段から特に何もしていない。無気力そのものの俺が気に食わないのは当然だろう。
「君がどんな理由で力を隠しているかは私にはわからないが、ザックの気持ちも少しは考えてみるべきだと思うぞ。私も…」
と、シークが何かを言いかけたところで、会話は中断する。
うわぁー!!
ザックの悲鳴によって。
「今の声はザックの!私が見てくる!君はここで白神を見ていてくれ!」
シークが慌てて立ち上がり声の方へ向かおうとする。
「…必要ない。私も行く」
さっきの悲鳴で目が覚めたのか、仙も立ち上がり、急いで3人でザックの元へ向かう。
拠点から少し離れたところでザックを発見した。何かと戦っている様子だが、ザックの服には無数の破れが見え、獣に引っ掻かれたような傷があった。
「大丈夫か!なにがあった!」
「あぁ、少し食らったが大丈夫だ。いきなりこいつが襲いかかってきやがったんだ」
ようやく暗闇に目が慣れてきて敵の姿が見えてきた。
「こいつは…グレイタイガー!?どうしてこんなところに!」
グレイタイガー。国で危険指定されている猛獣だ。鋭い牙をもつ大型のトラ型の獣で、会ったら逃げろがお約束のやつだ。だが、おかしい…。
「グレイタイガーはノーザンスの、それも北の果てにしか生息していないハズなのだ!こんなところにいるはずが…」
「今はそんなことを気にしている場合じゃないだろ!とりあえず逃げるぞ!」
俺はザックの肩を持ち後方へ退がろうとしたのだが…。
「俺に触んじゃねぇ!」
ザックはそれを拒絶して、俺の手を振りほどいてしまう。
「こんなやつ相手に退がるわけにはいかねぇ…俺はグランデ家の…」
強がってはいるが満身創痍だ。これ以上動けば命にも関わるかもしれない。
「ザックは休んでおけ。型無、ザックを頼んだ」
「あぁ…」
シークがマインドを発動し、グレイタイガーの前に立ちはだかる。
俺はザックを無理やり抱えて後ろ退がった。さすがにダメージが効いてきたのかザックも暴れることはなかった。
次の瞬間、グレイタイガーがシークへと襲い掛かる。だがそれもシークは華麗にかわし、レイピアの刺突を数発グレイタイガーの体へと放つ。しかし、それも致命打にはならず、倒しきることはできない。
「さすがに、この程度ではやれんか…ならばこれではどうだ!」
シークが大きく跳ね、グレイタイガーの瞳にレイピアを突き刺す。
痛みのあまりグレイタイガーは大きく仰け反り、大きく後退する。
その隙を見逃すことなく、無数の追撃をグレイタイガーへとお見舞いし、大きなダメージを与えることができたようだ。
「これでトドメだ!」
シークのレイピアがグレイタイガーを貫き、その活動を停止させた。
「なんとかなったのか…」
俺が安心したのも束の間、近くで獣の気配がする。
現れたのは3匹のグレイタイガー。これは絶体絶命だ。
「まだいたとは…しかも3匹…私だけでこの数は…」
さすがの麗騎士でもグレイタイガー3匹ではどうしようもない。そもそもグレイタイガーはプロのハンターが10人がかりでようやく倒せるやつだ。1人で倒せただけでもシークの強さはわかるが、それでも3匹相手では…。
やるしかないのか…?
俺が立ち上がろうとした、その刹那に白い閃光。そう形容するのが一番適切だろう。高速でグレイタイガーへと斬撃を食らわせる人物がいた。仙だ。
「なんだ、麗騎士。トラ風情に苦戦しているのか?」
「白神…。ふっ…なんてことはない!」
仙の一撃で大きくよろけたグレイタイガーをシークのレイピアが貫き、2匹目のグレイタイガーを倒す。
「おい…あいつキャラ変わってねぇか…」
ザックが苦しそうに口を開いた。
「仙はマインドを発動させるとあぁなるんだよ。心の力だからな。抑えられている闘争本能みたいなのが人格となって表に出てくるんだよ」
マインドを発動させると性格が変わるものは少なからずいる。仙は普段のキャラもあってか、その変化が大きく現れる。闘争本能むき出しになり、口調も荒くなる。その状態で刀を振り回すその姿は、まさに白狼そのものだ。
そうこうしている間に2人はもう1匹のグレイタイガーも倒す。
少し傷を負っているが、ザックほどではない。これならなんとか最後の1匹も倒せそうだが…。
そう思ったのは俺だけではなかったのだろう。2人もそう思ったのか、隙ができてしまい、その一瞬の隙をついて、グレイタイガーがザックめがけて猛突進してくる。
「しまった!」
シークも仙も一瞬判断が遅れてしまった。これでは間に合わない。
俺はとっさに身を呈してザックを守る。無意識、本能とでも言うのだろうか。勝手に体が動いてしまった。
背中に鋭い痛みが走る。
「お、お前…なんで…」
「仕方ないだろ…体が勝手に動いちまったんだから」
背中に受けた傷のダメージが思ったよりも大きく、俺は話すのもやっとだ。
その直後に仙の刀がグレイタイガーの首を落とし、すべてのグレイタイガーが活動を止めた。
「型無!大丈夫か!」
「健!」
2人が俺とザックの元へ駆け寄ってくる。
「あぁ、なんとかな。俺よりも今はザックを…」
さっきまで意識を保っていたザックも、気を失ってしまっている。
「すぐに拠点へと運ぼう!」
俺たちはそのままザックを拠点へと運び、幸いにも最低限の治療道具の持ち込みは許可されていたので、それをつかってシークがザックに治療を施したおかげで大事には至らなかった。
俺も仙に軽く治療してもらい、その後は眠るザックを守りながら3人で交代で見張りを行いながら朝を迎えた。
「…ん…痛っつ!」
「よう、起きたか?」
朝日が昇り始めた頃にザックが目を覚ました。
今は俺の見張りの番なので女子2人には眠ってもらっている。
「俺は…そうだ!昨日グレイタイガーに…」
「グレイタイガーなら2人が全部倒してくれたよ。全員無事だ。安心しろ」
「そうか…お前、昨日、なんで俺のことを…」
今までのザックの俺への対応から考えたらそういうリアクションになるのも無理もないか。人によっては見捨てる可能性だってあったのだから。
「だから、言っただろ。体が勝手に動いちまったんだから」
「俺は、お前に今まで散々してきたのに…」
「まぁ、確かに雑な扱いはされたけどよ、なんつーかさ、お前は今死ぬべきやつじゃないって、そう思った時に体が勝手に動いた。それに、今は同じ班の、その、仲間だろ?助けるのに理由なんかねぇだろ」
自分で言っておいて恥ずかしくなる。よくもこんなクサイセリフが出るもんだ。
それでもザックは、少し照れたように、嬉しそうにこう言ってくれた
「…ありがとよ」
入学してから何もいいこともなかった。
友達もいないし、周りはすごいやつばっかりだし、無個性の俺は空気のように扱われるし…。
でも、だけど、ようやく…。
この学校でも友達ができた気がした。
それから俺達は笑いながら、くだらない話なんかをしながら2人が起きてくるまで語り合った。
起きてきた2人がポカンとした顔をしていたのは言うまでもない。
宿泊演習の2日目が始まる。
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