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中央学園の無個性剣士  作者: 龍華
2/18

2話 無個性剣士の入学初日

 季節は春。そこかしこに桜が咲き、新しい季節が始まったことを実感させられる。

 そんな季節に、俺はなぜか合格した国の超エリート校の入学式に新入生として参列している。


「我々も誇りある中央学園の生徒として、これからの学園生活をーーー」

 1ヶ月前にも来た、このだだっ広い会場のど真ん中に設置された壇上には、入試1位の金髪美少女麗騎士様が、新入生代表挨拶をなさっている。

 ちなみに俺は入試ぶっちぎりの最下位。実技試験に関しては無得点(俺の相手になるはずだったやつは後で別のやつと実践になったらしい)

 

 挨拶が終わり、大きな拍手が会場中から送られ麗騎士様が退場なされる。

 その後は、教員の人が今日のスケジュールを説明し、各自教室への移動となった。


 事前に送られた案内に従って教室へ向かう。俺はAクラスらしい。

 1年生100人は20人ずつのA~Eまでの5クラスに分けられる。ちなみに、完全にランダムでクラスは編成されるので、よくある漫画みたいにA組に優秀なものが集められるとか、そういうことはない。

 そもそも、入試最下位の俺がA組みの時点で察するだろうが…


「おい、あいつ…」

「マインドが使えないって…」

「最下位…」


 教室へ向かう途中、視線が痛い。

 そこかしこから俺に視線が向けられ、皆が小さな声で俺について話しているようだ。

 まぁ、無理もないわな。


 しばらくしてA組の教室へ到着したが、ここへ来るときも思ったが、たかだか20人のクラスのために教室デカすぎないか?そこいらのいい屋敷の広間くらいの広さだ。

 

 

 ドアを開けて教室に入った途端、外からも聞こえていたはずの声が一気に静まる。

 そして、外でも散々浴びた視線が、声が再び俺に襲いかかる。


「あっれ〜?マインドも使えないやつが、どうしてこんなところにいるのかな〜?来るところ間違えたんじゃないの〜?」


 そう言いながら前に出て来たのは、いかにも貴族のボンボンみたいなやつと、いかにもその取り巻きみたいなやつ2人。

「あのさ〜…ここは選ばれた人間だけが入学できるとこなの。君みたいな入学試験であんなふざけたことするやつが来るところじゃないの」

 俺、こいつと話したことないのに何で俺のこと知ってんの?俺もしかして有名人なの?

「いや、まぁ、俺も場違いだとは思ってるんだけどさ、ほら、合格通知届いちゃったから」

 そういって俺は合格者に送付された合格通知と入学案内書を鞄から取り出して彼らに見せる。

「わざわざ見せなくていいよそんなもん!っつーか、お前、本当は汚い手でも使って入学したんじゃねーの?裏口入学だって、そこら中で噂されてるぜ!」

「あ〜…そうみたいだね。まぁ正直、俺も未だに手違いだと思ってるんだけど…」

「てめぇ、さっきからなんだその舐めた話し方は!」

 俺の気の抜けた喋り方が癪に触ったヤン貴族(いま命名)くんが俺に掴みかかろうとした、その時に俺の後ろのドアが開き、1人の少女が教室に現れる。


「貴様ら!入学初日から何をやっている!」

 鋭い剣幕で現れた金髪の美少女。その一言にさっきまで息巻いていたヤン貴族くんも、離れて傍観していた他の生徒たちも全員が言葉を失う。


「麗騎士…」


 教室の誰かが小さい声で呟いた。

 教室に現れたそれは、さっき壇上で挨拶していた麗騎士こと「シーク」嬢であった。


「外の連中もそうだが、何をくだらないことをしているのだ!誇りあるセントラルの生徒としての自覚を持て!」

 勢い殺すことなく彼女は続ける。

 勢いに圧倒されていた彼らもようやく口を開いた。

「で、でも!あんただって噂は聞いてるだろ!こんなふざけたやつが!」

「合格書は間違いなく本物。なら間違いなくこの学園の生徒だ。そもそも偽造できるものでもないだろう。それでもまだ疑念があるのなら、学園長へと直接聞いて来たらどうだ?」

 その一言に何も言い返せないまま、小さく悪態をつきながら彼らは席へと戻っていった。

「いや〜。なんかすいません」

「勘違いするな。私は周りのような噂に流されるようなやつではないだけだ。貴様を庇ったつもりもないし、そもそも私は貴様のような腑抜けたやつが最も好かん!神聖な試験であのような冗談を言う貴様のようなやつが、この学園で生き残れるとは思わんがな!」

 と、まるでライオンのような圧をかけられ、彼女はそのまま席へと向かって行った。

 俺も席へと向かおう。入り口に掲示された席順を確認して席へとつく。

 席についてほどなくして勢いよく教室のドアが開かれる。


「おはよー!諸君!入学おめでとう!」

 そう勢いよく教室に入って来たのは、教員服を着た細身の男性だった。そんなに歳はいってないか?30代前半くらいか?

「私が、Aクラスの担任の、クロム・クロヴェルだ。これからよろしく頼むよ」

 クロムと名乗ったその男性がどうやら俺たちの担任になる先生のようだ。

 まぁ、厳しそうな先生じゃなくてよかった。

「さっそくだけど、自己紹介をしてもらおうかな…そうだね窓側の生徒から順番に」

 先生がそう言って、この無駄に広い教室の一番窓側の一番前の生徒を指名する。指名された生徒は若干ダルそうに立ち上がり、自己紹介を始めた。


「俺はザック・グランデ。ローウェルの名家グランデ家の者だ」

 あ、さっきのヤン貴族だ。

 へぇ〜。あいつローウェルの貴族のやつだったのか。


 この国はセントラルを中心に東西南北4つの地域に分かれる。

 北のノーザンス。東の京和きょうわ。南の香港かこう。そして西のローウェルだ。

 西は貴族社会で貧富の差が激しく、近年は問題となっている。さっきの俺に対する態度も頷けるものだ。


「マインドは拳銃型。中遠距離を得意としている。ま、マインドの話をしてもわからないやつがこのクラスにはいるようだけどな」

 ザックのその一言でクラスに笑いが起こる。あぁ、これは俺に向けられている嘲笑だな。


「はい、みんな静かにね。ザック君ありがとう。もう座っていいよ。マインドのことまでは別に話さなくていいからね。それと特定の誰かを蔑むようなことは言わないようにね」

 先生が場を整え直し、ザックはフンと不遜な態度で席に座った。


 それから自己紹介は淡々と進み、半ばに差し掛かったところで教室が騒がしくなる。


「ノーザンス出身のシーク・フォン・リューズだ。これからよろしく頼む」

 相変わらず一際目を引く容姿に教室の誰もが魅了される。

 ノーザンスの麗騎士。京和の俺でも名前を知っている有名人だ。なんでも以前、警護任務の際に襲ってきた盗賊団を一人で壊滅させたとか…。すごい人と同じクラスになったもんだ。


 さらに自己紹介は進み、ついに俺の番が来た。


「京和出身の型無 健です。よろしくお願いします」

 名前を名乗っただけなのに教室が少しざわつく。シーク嬢のときとは違った毛色の。

「はい、みんな静かにね」

 先生が注意をする。

「はーい!先生!マインドを使えないやつがこの学園にいるっておかしくないですか?』

 そう言ったのはザックだった。その発言にまた教室に笑いが起こる。

「ザック君。さっきも注意したけど、そういう発言は控えるように」

 まだ少し盛り上がっているが、無視して俺は席に座る。この雰囲気にも少し慣れて来たかもしれない。

 廊下側の後ろから2番目の俺の自己紹介が終わったので、残るのは俺の後ろの席の人物のみとなった。

 俺が教室に入った時からずっと寝続けている人物の番なのだが、先生が困った顔をしているので、仕方ないが一番席の近い俺が起こしてやることにした。


「おい、次お前の自己紹介の番だぞ」

 白い髪の小柄な少女の肩を揺らし、意識はまだ朦朧としているであろうそれに状況を説明してやる。

 むにゃという擬音がぴったり合うだろう状態の少女がゆっくりと立ち上がった。その瞬間に教室に大きなざわつきが起こる。

 少女はこれまたゆっくりと声を開いた


「ふわぁ〜あ。……白神 仙です……よろしく……」

 

 気の抜けた欠伸。これでも入試2位の成績。京和の誇る戦姫。白狼こと白神 仙だった。

 他地域にも名を轟かせている彼女も、戦い以外では、ただの気の抜けた少女だ。

 麗騎士のようなスタイルはなくとも、整った顔立ちに、雪のように綺麗な髪は多くの人間を魅了する。それはもちろんこのクラスの人間もそぅであった。


「はい、ありがとう。これで全員の自己紹介が終わったね。それじゃ、今日の予定を説明していくね」

 先生が進めていく中、最後の自己紹介を終えた少女が着席と同時に口を開いた。

「あ、健おはよ〜。起こしてくれてありがとう」

「おぅ」

 そのやりとりに教室中が騒然とする。


「どういうこと!?」

「どうしてあいつが白狼と!?」


 まぁ、そういう反応になるわな


「おい!貴様!一体どういうことだ!」

 勢いよく立ち上がったのは相変わらずのザック。一番席離れてるのによくもまぁ。

「別に、家が近所で昔から知ってるだけだよ」

「健は幼馴染…」

 俺たちの解説にも納得がいっていなようなザック。そしてぽかんとした表情のその他生徒。

 麗騎士様だけはまっすぐこちらに目もくれずに、正面の先生の方を見ていた。


「はい、みんな静かにしてね」

 先生がパンパンと手を叩き注目を戻す。先生はそのまま説明を続けるが、皆集中していないように見えた。


 午前中はそのままレクリエーションや軽い座学などで終了し、特に変わったこともなく昼休みになった。


「おい、無個性野郎!」

「・・・・」

「シカトしてんじゃねーぞコラ!」

 あ、俺のことか

「えっと、ザックだっけ?なんか用?」

「お前、購買行ってパン買ってこいよ」

 こういう漫画みたいな展開ほんとにあるのか

「あ〜、悪いけど、俺、飯あるから購買行かないし、他に頼んでくれる?」

「テメェ、誰に向かって口聞いてんだ!」

 机を勢いよく叩きながら凄んでくるザック。こういうテンプレキャラ今では絶滅危惧種なんじゃないだろうか。

「誰って…。ザック君に。あと、俺は無個性やろうじゃなくて、型無 健って名前があるから、そっちで呼んでくれる?」

「テメェ調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 ザックの大声に教室が少し騒がしくなる


「なんだ喧嘩か?」

「初日からよくやるよ」


 我関せずと周りの連中は蚊帳の外だ。こういう時は関わらないが一番って定石をよく理解している。さすがエリート校の生徒たちだ。

「お前、ちょっと表出ろや。無個性野郎に格の違いを教えてやるよ」

 ザックと取り巻きが俺を外に連れ出そうと取り囲んだその時、俺の後ろの席の人物が目を覚ました。


「……うるさい!」

 寝ぼけながらも勢いよく立ち上がったその人物の剣幕にザックたちはさっきまでの勢いを殺されてたじろいていた。

「外でやって」

「白神…なんだよ、昔の馴染みだからってこいつの味方すんのかよ」

「そういうのどうでもいい。興味ない。私の昼寝の邪魔をしないで」

「そーかよ!言われなくても今からちょうどこいつを外に連れてくところだからよ!」

 あ、まだ連れてく設定生きてたんだ。

「え〜。俺嫌なんだけど。もうちょっとゴネて騒がしくしていいかな?」

「それは迷惑」

「だよな〜」

 俺と仙のやりとりに呆れたのか、それともこれ以上騒いで仙の怒りを買うのが嫌だったのか、ザックは取り巻きを連れて教室から出て行った。

「悪いな、仙」

「迷惑」

「すまん」

 そういって、また仙は昼寝に戻った。

 俺も絡まれる相手がいなくなったので昼飯にすることにした。

 これで少しは絡まれなくなるといいのだが、先が思いやられる。


 その後昼休みは何事もなく、俺は昼食を終えてからは午後からの予定を確認して過ごし、相変わらず仙は寝続けてたし、周りのやつらはそれぞれで過ごしていた。

 昼休みが終わり、午後は実習なので、訓練用の制服に着替えトレーニングルームに移動することになった。


 トレーニングルームは教室と変わらんくらい無駄に広く、隅には最新のトレーニングマシンまで用意されていて、ここでも国の最高機関らしさを感じられる。

 始業開始のチャイムからしばらくしてクロム先生がやってきて授業が始まった。

「それでは、今からは皆さんの基礎能力の確認を行うので、今から指定する人同士で組手を行ってもらいます。ちなみに、マインドの仕様は禁止なので、くれぐれも注意するように。あくまでも基礎の身体能力を見るものだからね。それじゃ組み合わせを発表していくよ」

 そう言って先生は淡々と組み合わせを発表していく。授業の一環とは言え、生徒同士を殴り合わせるのは教育上どうなのだろうか。そもそも俺はそういうの苦手だからやりたくないんだけどなぁ…


「最後は、型無 健くんとザック・グランデくん。以上の組み合わせで行っていきます」

 あぁ、最悪だなぁ。離れていても伝わるザックからの嫌な笑み。

「それじゃ、早速行っていきます。まずはリューズさんと剛力くん。前へ」

 初っ端から麗騎士様のご登場だ。相手は筋肉ゴリゴリの大男、剛力ごうりき 克哉かつやだ。

 入試順位23位で、単純なパワーだけなら今年の新入生でもトップクラス。体格差は倍近くある相手だが、麗騎士様はどう戦うのか、ちょっと興味あるな。

「麗騎士様が相手とは光栄だ。いつかは手合わせをと思っていたがこんなに早く叶うとは」

 お世辞にも綺麗とは言えない笑みを浮かべ、体を慣らしながら剛力は言う。

「よろしく頼む」

 当の麗騎士様は歯牙にも掛けていないような様でいつも通りだ。

「制限時間は3分。地面に背がついた方が負け。危険と判断したら止めに入るから、くれぐれもやりすぎないようにね。それでは、始め!」

 

 決着は一瞬だった。

 先生の合図で始まると同時に剛力が勢いよく突っ込んだと思えば、次の瞬間には地面に背から倒れていた。

 何が起こったのかわからなかった。投げられた剛力本人も、見ていた俺たちも、皆そんな感想しか出てこなかった。

「それまで!さすがはリューズさんですね。見事な捌きでした。それでは、次の組みの方は準備してください」

 入試1位の実力をしかと見せつけられた。別次元だなあれは。

 何事もなかったかのように麗騎士様は元の位置へ戻って行き、剛力もゆっくりと立ち上がって戻っていく。

 その間にも次の組みが準備を始め、授業は進んでいった。

 ちなみに、仙は半分寝ながら相手の攻撃を全て躱し切るという芸当を見せつけ、これまた周囲の度肝を抜いていた。


「それでは、最後のペア。前へどうぞ」

 残念なことだが俺の番が来てしまったので、渋々前へ出る。

 周りからは様々な声が聞こえてくるが、全て俺へのものだな。

「よう無個性野郎」

「だから、俺は型無だって…」

「んなことどーでもいいんだよカスが!昼休みの礼も返してやるよ。せいぜい粘ってくれや」

「いや、俺なんもしてないから」

「うるせぇ!」

 理不尽の極みだな。

「もぅ、いいかな?それじゃ、始め!」

 困り顔の先生の合図で始まると同時にザックが勢いよく振りかぶってくる。

 あぁ、面倒だなぁ。


 これまた決着は一瞬だった。

 勢いよく襲いかかって来たザックの拳を避けることもできず直撃。そのまま俺は後ろに倒れ、地面に背をつけあっさり敗北。

「・・・は?」

 あまりにあっさり決着してしまったのでザック本人も呆気にとられている。

 しばらくの沈黙の後に響き渡る大爆笑。

「なんだよ!お前!結局ただの雑魚じゃねーか!」

 

「本当になんであんなやつが」

「やっぱり裏口なんじゃね」


 周りは好き勝手言ってくれてるが、まぁ正直俺が一番よくわかってないので返す言葉もない。

「はい、そこまで。これで以上ですね。少し早いですが、もう授業は終わりです。各自着替えて教室に戻るように」

 先生はそういってトレーニングルームを後にする。

「あーぁ、なんかもうシラけたわ。お前もういいよ」

 ザックもそうセリフを吐いてから更衣室へと消えて行った。

 俺は殴られた頬をさすりながらゆっくりと立ち上がって、更衣室へ向かおうとした。


「ダサ」

「まぁ、そういうなって」

 戻る途中、まだ残っていた仙が俺に声をかけた。

「そういうやり方、やっぱり嫌い」

 仙はそれだけ言い残して、更衣室へと向かって行った。


 その後、午後は授業はなく、翌日から本格的に始まる授業の説明だけを受け、その日は終了となった。


 放課後になる頃には、もはや俺のことを気にするやつはいなくなり、むしろ空気かのように扱われている気がした。

 初日にしてこの様だが、俺はこれから生きていけるのだろうか?

 ほとんど生徒のいなくなった教室を見回し、教室を出ようとした時に俺に声をかけてくる人物がいた。


「おい、貴様」

 出口付近に佇んでいたのはシーク嬢だった。

「はい?なにかご用ですか?」

 入試1位様が最下位の俺になんの用なのだろうか?わざわざみんなが帰宅した教室の残っているなんて、まさか告白でもされるのだろうか?

「さっきの授業、貴様は相手の攻撃がハッキリ見えていた。なのになぜ避けなかった?」

「何を根拠にそんなことを?俺みたいな入試最下位はあんなもんですよ」

「攻撃が当たる瞬間に貴様は体の軸をずらし衝撃を完全に逃していた、気づいていないやつも多かったようだが、私の目は誤魔化せん!」

「そんな芸当できるわけないでしょ。勘違いですよ」

「あくまでもシラを切る気か。いいだろう…リアライズ!」

 俺の眼前に純白のレイピアが迫る。鼻先を切っ先がかすめる。

「貴様が本性を出さぬのなら、私が今ここで暴いてくれる」

「物騒なもの出して…やめてもらっていいですか?」

「言っておくが、私は本気だぞ」

 目が嘘ではないと語っている。この女、本気で俺を刺す気だ。

 しかし、そんなピンチも救世主の登場で難なく逃れることができた。


「君たち、もう教室を閉めますから、早く帰宅してくださいね」

 

 俺にレイピアが突き刺さる直前に、クロム先生が教室の見回りにやってきてくれたおかげで俺の体に穴が開くことは避けられた。

「運がよかったな。今日はこのまま引いてやる」

 そう言い残してシーク嬢は教室を後にした。

 なぜ、俺はこういう目に合うのだろうか。本当に面倒だ。入学初日にしてもう辞めたい。

「君も大変そうだね。早く帰って今日はゆっくり休むといい」

 先生はそう優しく声をかけてくれた。どうやら今の俺にとって唯一まともに話せるのはこの学校では先生だけだ。

 そのまま教室に鍵をかけ先生は職員室へと戻って行った。

 俺も軽く挨拶をし、家路につくことにした。


 早く帰ろう。

 

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