14話 無個性剣士と及ばない騎士
少し戻って期末テスト終わりの昼休み。
学園の中庭にデカデカと立つ掲示板にテストの結果が張り出され、多くの生徒が目を向けていた。
夏も真っ盛りでただでさえ日差しがキツくて倒れそうなのに、よくみんなこの日差しの中に出てくるもんだなとか思いつつも、俺もザック達に連れられお日様に当てられている。
主席は、まぁ予想通りシーク。次いで次席が仙。
それから、少し下に好の名前があった。
あいつ、たぶん実力は隠して調整してやがるな。
俺はというと筆記は全て平均点、実技もマインド無しの徒手格闘だけだから、ザックには勝ったとはいえ、点数はそんなに高くなく、総合するとド平均点。順位はちょうど真ん中くらいだった。なんというか、さすが俺ってかんじだな。
あ、ちなみに、ザックは筆記はが壊滅的だったので、下から片手で数えられるところに名前があった。
「流石だな。お前なら当然だろうけど」
同じく結果を見に来ていたシークに労いの言葉をかける。
「型無か…ありがとう。だが、私など、まだまださ…伝説の神に比べたら」
「神?なんだ、そのヤバそうな名前のやつは?」
「なんだ?知らないのか?セントラル始まって以来の天才、伝説の生徒会長を」
「いや、知らんな」
「圧倒的な支持率で3年間生徒会長を務め上げ、その品行方正な立ち振る舞い、何より圧倒的な実力からついた渾名が神だそうだ」
「へぇ〜、そんなやつがいたなんてな」
「あぁ、私も噂でしか聞いたことがないが、そんな彼女を心から尊敬し、目標にしたいと思っている」
シークがあまりにも目を輝かせて言うもんだから言い出せなかったが、よくよく考えたら、これ、姉さんの事だわ。めんどくさくなりそうなので黙っておこう。
なんて、ことがあった数日後、つまり現在。
輩どもを星屑に変えた姉さんの元に、あの時と同じ輝きをした眼を向けているシークの姿を俺はただ眺めていた。
「まさか、由依さんがあの伝説の神だったとは!あの数をたった一瞬で!しかも第3階梯とは一体!?…」
「健ちゃ〜ん…助けてほしいなぁ〜?」
すまんな姉さん。今の俺にはシークを止める術はない。
「それよりも、詳しく聞きたいのだが、第3階梯とは一体…」
「あっちです!女の子たちが襲われてて!」
「まずい!姉さんが派手にやりすぎたから!逃げるぞ!」
警務隊の足音がドンドン近づいてくる。このままではかなり面倒なことになるので、俺はオドオドする弥勒や、暴走してるシーク達を引っ張り、全力でその場から逃げ出した。
結構な騒ぎになってきたのか、繁華街は人が溢れすぎたので、今日の捜索は断念し、俺たちはそのまま帰宅した。
帰りの道中もシークは姉さんに食いつき続け、さすがに周りの目も気になるので、このまま家までついてきてもらうことにした。
下手にやばいことを外で話されるよりはマシとの判断だったんだが、よくよく考えれば、(弥勒は特殊だから例外として)同い年の女の子を家に合法的に連れ込めるチャンスだからな!
その俺の下心を妹には当然。シークの相手をしている姉さんにも見抜かれており、シークが帰宅した後で地獄を見ることになっただが、それはまたの話。
疲れてしまったんだろう、帰宅してすぐに弥勒は寝てしまった。
なんだか、全部初めて見たみたいに興味を示したり、こうして疲れたらすぐに寝てしまったり、まるで子どもみたいだな。
と、弥勒にいつまでも構っているわけにもいかず、そろそろ落ち着いたシーク達の相手をしなければ。
「…ンッ!すまない型無。興奮して我を忘れてしまっていた。勢いでお邪魔してしまったな」
「気にするな。それより、姉さん達、そろそろ説明してあげたらどうだ?」
「あ〜…やっぱりぃ〜?」
「由依ねぇは説明とか苦手だもね」
「そうなのか!?まさか、神にも苦手があったとは…」
「その呼び方苦手だなぁ〜。私ふつうに人間だから…」
「それは、失礼しました。今後は控えるようにします」
ちなみに、姉さんは在学中、このあだ名を知った時、ショックで2日寝込み、その後このあだ名が広まる原因となった新聞部を半壊させたことがある。
シークには黙っておこう。
「姉さん、そこは頑張ってくれないとシーク帰んないから」
「ご無理を言って申し訳ないです。ですが、どうかお願いいたします」
そしてシークは正座の姿勢から深々と頭を下げた。
気高い騎士がこうして頭を下げたのだ。並大抵のことではない。
そして、その意味をわからないほど俺の姉は馬鹿ではない。
「ハァ…わかりました。私に答えられることなら…」
「…!ありがとうございます!」
シークは再び、深く、深く頭を下げた。
「もう、頭を上げて?聞きたいことがあるんでしょ?」
「すみません。それでは…あの!先程の戦闘のとき!第3階梯とは一体!?」
「やっぱりそのことだよね。うーんと…どう説明したらいいかな…あのね、マインドと1つになるっていうの?こう、マインドを使うっていうより、マインドになるっていう…」
せっかく説明してくれたところ悪いが、壊滅的に説明が下手くそなのはご愛嬌。こういうときに助けを出すのは弟妹の役目だ。
「姉さん、それじゃわかんないだろ。えっと、つまりな…」
「待て!その口ぶりだと型無も第3階梯について知っているということなのか!?」
「家族だからな。それにこう見えても俺は元軍の所属だ。結構深いことだって知ってる。ま、監視とか規制とか色々あったからな。俺もそんな簡単に話せなかったんだ。聞かれなかったってのもあるけどな…」
「そうだったのか…あ、すまない!話の腰を折ってしまった。続きを頼む」
「あぁ…。昼に言ったこと覚えてるか?姉さんが素手で闘ってらように見えたが、マインドを使ってるぞって言ったこと」
「あ、あぁ」
「あのな、姉さんが言ったことそのままなんだがな、マインドの第3階梯ってのは、マインドとの一体化。言うなれば常時発動状態みたいなもんなんだ」
「すまない。まだ頭がついていかないんだが…」
まだ頭が追いついてないシークにさらに妹が追加の解説を入れる。
「普段マインドを使うときって、今から使うぞー!って感じで自分の中のマインドを強くイメージして顕現させるでしょ?でもね、第3階梯は違うの。そもそもマインドってのは心。自分そのものなんかだからその認識が違うんだよ。それがリミットになってしまってるんだよ」
「まぁ、理解できないだろうが、これはその域に達した人じゃないと理解できないだろうな」
「…」
シークは難しい顔をしたまま黙ってしまう。
せっかく貴重な話を聞けると思ったら、結局理解できない内容だったのだから、こうなるの仕方ない。
「正直、これ以上は聞いても私には理解できないだろう。なら、別のことを聞きたいですが、第3階梯、一体どうやってその域に達したのですか?」
おそらくシークが一番聞きたかった内容。
しかし、その質問に答える者は誰もいなかった。
「…ごめんね〜。それは答えられないんだ〜」
「やはり、そうですよね…」
「そう気を落とすな。なにも姉さんも意地悪で教えないわけじゃないんだ」
「いや、気にするな。こんな重要な話簡単に教えてもらえるなんて思ってはいないさ」
「うーん…シークさん、違うんだよ。教えられないんじゃなくて、私たちも知らないんだ」
「…え?」
「いや〜…実はそうなんだよね〜。知らない間に使えるようになってたって言うか〜。なんというか元からそうだってっていうのかな〜?」
「一体どういうことなのですか!?流石にそれは私を馬鹿にしているとしか!」
「そう声をあげるなシーク。残念だけど本当のことなんだよ。ここに来てお前にそんな嘘をつくと思うのか?」
「確かにそうかも知れんが…だが!」
俺たちの言っていることに嘘はないと、シークにも頭では理解しているのだろう。しかし、あまりにも幼稚なその回答に、彼女は納得がいかないのだ。どこにその想いをぶつけたらいいのか、わからなくなっているのだろうな。
「じゃ、シークさん。お望みの答えはあげられないけど、第3階梯の力、見せてあげるよ。少しでも参考になるかもしれないし」
「それは一体どういう…」
「だからね。私が手合わせしてあげるよ。第3階梯の力を使ってね。いや?」
「…いや!ぜひお願いしたい!」
結局、この姉妹は頭を使うより行動する派なんだな。
それに、シークも第3階梯の相手を出来るのが余程嬉しかったのか。さっきまで沈んでいたシークの表情が、姉さんと初めて会ったときの顔に戻った。
そして、俺たちは弥勒を起こさないようにそっと部屋を出て、少し離れたところにある公園へ移動した。
「さて、じゃあ、始めよっか」
「…いや、しかし…相手をしてもらえるのは本当に光栄なのだが、しかし、その姿は…」
シークの反応もうなずけるかもしれない。由宇ちゃんは目隠しをしてシークの前に立っているのだから。
「流石に本気でやるわけにはいかないからね。私は一切攻撃しないから、全力で攻撃してきていいよ」
「それは私を舐めすぎではないか?」
確かに騎士として目隠しをした相手に一方的に攻撃しろなんて、容認できることではないだろう。
だが、きっとすぐにでも理解するだろう。どれくらい力に差があるかを。
「まぁ、いいから、シークさんも用意して。一発でも当てたられたらシークさんの勝ちでいいよ」
「…わかった。正直、私の騎士道精神に反するが…本気でやるぞ?顕現!」
そして、シークの手に純白のレイピアが顕現する。
「さぁ、そちらもマインドを」
「だからね、さっき説明したと思うけど、もうマインドは使ってるんだって。というか、もはや、そういう概念じゃないんだけど…うーん…やっぱり説明できない!早くかかってきて!」
「いいだろう!では、参る!」
そして、シークのレイピアが由宇ちゃん目掛けて突き出される。
それは一般人なら到底避けることができない速さの突きだった。
正直、俺でも避けれるかわからないくらいの速さだ。国のトップ校主席の実力を遺憾なく発揮している。
だが、結局、シークが使っているマインドは第1階梯。
「なっ…!」
目隠しをしているにも関わらず、由宇ちゃんは高速の突きをいともたやすく避けてしまう。
しかも、その場から一歩も動くことなく。
動揺してシークは一瞬攻撃の手を止めてしまう。
が、すぐに再開し、怒涛の連続突きを繰り出すが、それも擦りもしない。
「一体、どうなっているんだ!」
さすがにシークにも疲れが見え始め、息も上がっている。
対して由宇ちゃんは顔色一つ変わらず、呼吸も通常通りだ。
ここまでやって実力差を理解しない奴などいないだろう。
シークも諦めてマインドを解いた。
そして、それと同時に由宇ちゃんも目隠しを外した。
「はい。お疲れ様。どう?少しでも何か掴めた?」
「あぁ、わかったよ。他方もないほどの力の差がな。正直、今の私ではいくらやっても勝てる気がしない…」
そういうシークの暗い表情には、悔しさが混じっているように思えた。
「お手合わせいただき感謝する。今日はもう遅い…。私はここで失礼する」
「あ、女の子1人じゃ危ないよ〜。健ちゃん、駅まで送って行ってあげなよ〜」
「ありがとう。だが私は大丈夫だ。では」
シークはそのまま足早に帰路へとついた。
ま、あいつならその辺の暴漢が襲おうとも返り討ちだろうな。
夏真っ盛りの今だが、夜は少し冷える。
シークの姿が見えなくなるまで見送った後、俺たちも部屋へともどった。
「ちょっと、やりすぎちゃったかな?」
風呂上りにアイスを食べながら由宇ちゃんが俺にそう問いかけた。
プライドが高いシークのことだから、かなり悔しかっただろう。だが、納得させるにはあの方法が一番だったかもしれない。
「ま、仕方ないさ」
「だよね。あれ以上だと由依ねぇがいらんこと話しそうだったし」
「私がなにって〜?」
「なんもねぇよ。ってか、服きろ」
髪をタオルで拭きながら出てきた姉さんは、俺たちの会話に混ざりたかったのか、下着すら着けず全裸でこちらへ歩いてくる。正直勘弁してくれ。
「や〜ん。健ちゃんのエッチ〜」
「黙れ」
姉さんはそのまま隣の部屋へと姿を消した。
「それにしても、シークさんはなんであそこまで第3階梯のことが聞きたかったんだろね?お姉ちゃんのファンって割には、あんまりお姉ちゃんのことを聞かずにそっちのことばっかりだったし…」
確かに、思えば結局シークは姉さんに関することはほとんど聞くことはなかった。
「さぁな。いろいろ事情があんだろよ。さ、もう遅い。明日こそはちゃんと弥勒のことを調べるぞ」
深夜アニメを見るといい夜更かしをする妹を放置して、俺は先に眠りについた。
ーリューズ邸ー
「ただいま戻りました」
「遅い!一体こんな時間までなにをやっていた!」
「申し訳ありません。お父様」
「ふん!…まぁ、いい。シーク今日はお前に大事な話がある」
「話…ですか?」
「あぁ、以前から進めていた縁談の話がようやくまとまった」
「そんな!あれはお断りしたはずです!」
「黙れ!これは我が家にとっても重要なことなのだ!」
「しかし!私はまだ学生です!」
「そんなことは関係ない。当然、セントラルからも退学してもらう。お前はそのまま家に入れ」
「勝手なことを!」
「話は終わりだ。部屋に戻りなさい」
「…」
「私は…!」
強く握りしめた、その拳から血が滴り落ちていった。
お久しぶりです
気づけば年末ですね。
今までなにをしていたのかザックリ説明すると、PCが壊れ、データが全て吹き飛び、心の怪盗団に時間を奪われてました。はい。すいません。ペルソナしてました。
吹き飛んだ構想を練り直して、一から書き直してたので、かなり時間がかかってしまいましたが、なんとか再開できそうです。もし、こんな小説でも読むのを楽しみにしてくださってた方がいたなら申し訳ありません。これからもどうかよろしくお願いします。




