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中央学園の無個性剣士  作者: 龍華
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12話 無個性剣士と黒ずくめの少女

   あの後、シーク達を筆頭に動ける生徒たちが残党を片付け、先生たちを解放し、事件は幕を閉じた。

 幸いにもこの事件で敵味方から死者は出ることはなかった。

 が、クロードをはじめとした襲撃犯は皆ロスト状態に陥り、事件の全貌が明らかにされることはなかった。

 

 今回の襲撃事件は国中に知れ渡ることとなり、学園への不信感を募らせた国民たちからの批判が殺到し、学園はしばらくの間休校となったが、学園長の尽力と、国の重要人物であるシークや仙の親の力もあり、これからのセキュリティのさらなる強化などを条件に、無事学園は再開することとなった。


 俺は事件後3日間眠り続けたが、特に大きな怪我もなく、検査だけを受け、退院した。

 特に京和からの干渉もなく、少しの入院中、偉い人たちから色んな取り調べとか受けたが、特に変わったことはなかった。

 

 そして、あれから大きく変わったことが1つ。

 俺の中から完全にマインドは消え去っていた。

 マインドが消えることは心が消えることに等しいのだが、俺は変わらず生きている。

 専門の機関の人間も頭を悩ませたようだが、特に問題はないので、必要以上の研究は行われなかった。

 京和もマインドを失った俺を監視する必要はないと判断したのか、もう関わってくることもなかった。

 なんどかマインドが使えないか試してみたが、やはり俺の中にもうマインドはなかった。

 俺は学園から去ることを考えていたが、ザックたちが必死に説得してきたので、残ることにした。

 マインドはなくなったが、居場所は残った。

 俺にはそれで十分だった。


 学園長は事件の責任を取って辞任を迫られていたが、これは事件解決者の立役者である俺の強い懇願で、学園長は今まで通りお姉さんが続投することとなった。


 もうみんな普通の学園生活を送っている。

 延期されていた試験も無事実施され、もうすぐ夏季長期休暇を迎える生徒たちは、事件のことなどなかったかのように浮かれて過ごしている。

 

 前と変わらない、普通の日常が戻ってきた。

 

 俺はというと、マインドを失っても以前と同じように、普通の日常を過ごしていた。

 もう1つ変わったことがあるとすれば、なぜか俺の周りには人が集まるようになってきた。

 最近は会ったこともない人からも声をかけられたりして、もともと人付き合いがあまり得意ではないから、毎回対応に困ってしまうが、まぁ悪い気はしないな。


 そんな感じで、事件の傷跡は確実に消えていっている。

 もうすぐ夏休みだし、俺もザックたちと遊ぶ約束も多く立てているから、俺もこれからの学園生活を楽しむとしよう。

 

 ちなみに、マインドを失ったが、試験は変わらずマインドを用いた実戦の試験も実施されたが、俺は学園長の取り計らいでマインドを使用しない徒手格闘のみで受けることを許されたので、相手だったザックには悪いが、もう隠す必要もないので軍仕込みの格闘技でサクッとK.O.させてもらい、試験は難なくクリアした。

 別にはじめの頃の仕返しではないぞ?補習になったザックには心からお悔やみ申し上げる。


 そして、今日は今学期最終日だ。

 最後のHRの時間も、もうすぐ終わる。

「はい、じゃあこれでHRを終わります。今学期はいろいろと事件もありましたが、みんなが無事に学期末を迎えられて先生は嬉しいです。来学期も元気な姿を見せてくださいね。それでは」

 そのまま先生は退室していき、教室からは大きな歓声が上がった。


『終わったぁー!』

『夏休みだぜぇー!』

 

 となりのクラスからも同じような歓声が聞こえてくる。

 どこもこんな感じなんだろうか?

 国のエリートとはいえ、所詮は学生なんだし、夏休みが嬉しいって感覚は普通なもんだな。


「ようやく終わったな!健!今日帰りにどっかよって帰ろーぜ」

 さっそく俺の席へザックがやってくる。

 子どもみたいに目を輝かせて…こいつ自分が補習って忘れてないだろうか?

「早速かよ。まぁ、いいけど。夏休みは長いんだし、今日は少しだけな」

「んだよ、堅いこと言わずにさ!今年は遊び尽くすぜ!」

「お前、補習忘れてないよな?」

「…」

「おい」

「…いいじゃねーか!今日は補習もないし、付き合えよ!」

「しゃーねぇな。どうせ明日からは補習が始まるからしばらく遊べないだろうからな。ま、今日くらいは付き合ってやると」

「さすが健!話がわかるじゃねーの!」


 学園からバスで30分くらいのところにある中央繁華街。

 セントラルを中心にした、この4地域どこにも属さない中央区において、唯一にして最大の娯楽施設だ。

 終業式後ってこともあってか学園の生徒も多く見かける。

 ここは4地域の中心、不可侵区域の中央区なので、4地域の様々な人間が出入りする。

 当然、生徒以外の人間の姿もかなり多いが、やはり普段より生徒の数が多いためか、少し目立つな。

 

 ザックと俺は、ザックの強い希望でゲームセンターに来ている。

 人生で初めて来たんだが、意外に楽しいもんだな。

 特にこのクレーンゲームってやつ。なんとも非効率的なのに、なぜここまでお金をつぎ込んでしまうのか…。

 ザックはさっきから格ゲーに必死だ。

 なんでも全国の人間と対戦できるらしいが、同じやつと何回もマッチングして勝てないとかなんとか…。もう10連敗以上しているのに辞める気配がまるでない…。

「なぁ、ザック。もう辞めたらどうだ?」

「いや!まだだ!次は勝てる!」

 あぁ、ダメだこりゃ。

 そういえば石鹸が切れてたんだった。ザックもまだまだ終わらなさそうだし、今のうちに買いに行くか。

「俺、買い物に行きたいんだけど…」

「ん?あぁ、俺まだここでゲームしてるから買いに行ってこいよ」

「ん。じゃあ、ちょっと行ってくるわ」

 また負けて怒声を上げるザックの声を聞きながら、俺はゲーセンを後にした。


 さっきのゲーセンから少し歩いたところにある大型のショッピングモール。

 せっかくここまで来たんだから石鹸だけ買うのは勿体無いし、ついでに色々と見に行くか。

 しかし、ここは本当になんでもあるな。

 石鹸買うために入った、なんかお洒落なショップには石鹸だけで何十種類もあったぞ。

 なんか恥ずかしかったので一番安いのを選んでさっさと店を出た。

 

 しばらく店を回っていると意外な人間に出会った。

「ん?型無か?珍しいなこんなところで」

「それはこっちのセリフだよ。まさかお前がこんなところに居るなんてな」

 意外なことにショッピング中のシークと遭遇してしまった。

「そうか?私だって買い物くらいするさ」

「いや、まぁそうだろうけど…。なんか勝手にこういう庶民が行くところでは買い物とかはしないって思ってたわ」

「それは偏見だな。私だって普通に買い物くらいするさ」

「それは悪かったな。で?お前は何を買いに来たんだ?」

「夏に向けて新しい水着を買おうと思ってな。去年のものがサイズが合わなくなってしまってな。そうだ、ちょうどいいこれから少し付き合ってくれないか。客観的に見てくれる意見があると参考になる」

 俺の目が自然とシークの胸へと吸い寄せられる。

 去年のが入らなくなったと…。

「いいぞ、俺もちょうど暇だったからな」

 すまんザック。

「助かる。では、行こうか」

 

 シークに連れられモールの水着コーナーにやって来た。

 さすがシーズンなだけあって、凄い種類の水着がディスプレイされている。

 周りは女の人ばっかだし、正直視線が痛い。

「これとかはどうだろうか?」

 シークの手には水色のワンピースタイプとオレンジのビキニが握られて居る。

「そうだな。こっちの方がいいと思うぞ」

 迷いなくビキニを選択。

「そうか。では試着してくる。少し待っていてくれ」

 シークは俺が選んだ水着を手に試着コーナーへ向かった。

 しかし、本当にたくさんの水着があるんだな。中にはヒモみたいなやつもあったぞ。あんなの誰が着るんだ?

 何よりもメンズコーナーにあった、あのワンショルダーってやつだけは、理解ができん…。

 そんなことを考えてるうちにカーテンが開いた。

「どう…だろうか?」

 純白の肌に鮮やかなオレンジが映える。なによりも溢れんばかりの胸。これ以上に完璧なものがあるだろうか…いや、ない。

「おぅ、すごく似合ってるぞ」

「そ、そうか!では、これを買うとしよう!」

 なんかご機嫌なシークはそのままその水着を購入。

 そして、選ぶのに付き合ってくれたお礼としてシークが人気のアイスを奢ってくれるそうなので、2人でモールを出て店へ向かった。

 

 いや、しかし人気店とはいえ並びすぎだろ。

 最後尾で3時間待ちって…。

「すまない。私から言い出したことだが、他の店にしないか?」

「あぁ、今ちょうどそう言おうと思ってたとこだ。ここはまた今度来ようぜ。今日はもう帰ろうぜ」

「そうだな…。また今度か…」

「ん?なんか言ったか?」

「いや、なんでもない。では帰ろうか」

 結局アイスは諦めて家路につくことにした。

 

 その帰り道。

 繁華街から少し離れた暗い路地裏。

「いいじゃん、一緒に行こうよ」

「あの…私…」

「まぁまぁ、そう言わず!」

「!…やめて!」

 聞こえて来た声に反応して、俺とシークが声の方に向かう。

 まるで漫画のテンプレみたいなシーンだな。

「おい!貴様ら何をしている!」

 さすが、騎士様だな。こういうことは放っとけないってか。

「なんだ?威勢のいい姉ちゃんじゃねーか?」

 お、これまたテンプレみたいな展開。

 これから先の展開はだいたい予想がつくので、俺はそっと後ろへ下がった。


 はい、そこからは予想通りです。

 シークに襲いかかる男たち。もちろん瞬殺。ボコボコにされたうえに、土下座までさせられ、そのまま泣いて帰っていきましたとさ。


 さて…


「大丈夫ですか?災難でしたね?お怪我はありませんか?」

 一瞬の出来事で呆気にとられていた女の人に声をかける。

「あの…大丈夫です。ありがとうございます」

 とりあえず怪我とかは無いようだ。

 さっき女の人と言ったが、よく見ると俺たちとあまり歳も変わらないくらいだ。それにもう夏だってのに全身真っ黒の服だし、肌も異様なくらい白い。髪だって腰下くらいまで伸びた長い黒髪で、まとめてもいないから、この季節ではさぞ鬱陶しいだろうに。

「それで、こんなところで何をしていたんだ?」

 シークが問いかける。確かに女の子が1人でこんな路地裏に居るのは珍しい。

「私…人探していた…んです…」

「いた?過去形なのか?」

「思いだせない…誰かを探してこの街に来たハズ…」

「この街にってことは、君は他の街から来たのか?」

「思い出せない…だんだん記憶がなくなっていっているみたいで…」

「ふむ…」

 これは困ったもんだな。

 シークが小さく呟く。

 格好も珍しいが、素性までも不明とは…。

 一体、この娘はなんなのだろうか…?

「とりあえず、警務隊のとこへ連れて行くか?」

「いや、それはやめといた方がいいだろう。素性が分からない以上、下手に警務隊の元へ連れて行くと、最悪捕らえられる可能性だって…」

「そうか…このまま放っとくわけにもな…」

「なら、型無のところで面倒を見てやったらどうだ?」

 この女はいきなり何を言い出すかと思えば…。

「いや、さすがにそれはマズくないか?俺も一応男だぞ?」

「だが、このままともいかんだろ?いいじゃないか美味しい展開だと思わんか?」

「いや…だけど…」

 視界に黒髪少女の姿が入ってしまった。

 オロオロと状況が飲み込めず、若干涙目で…。

「あー!もうわかったよ!うちで面倒見てやる!まぁ、一人暮らしだしな」

「…いいんですか?」

 そんな嬉しそうな顔して…。俺もお人好しがすぎるだろうか?

「あぁ、関わっちまったのもなんかの縁だろ。シーク、お前もこの娘のこと調べるの協力しろよ!」

「さすが型無。あぁ、無論だ。私もできる限りの事は協力する」

 なんちゅー顔をしとるんだこいつは。ニヤニヤとしやがって。

 

 とりあえず、この謎の少女は俺の家で匿うことになった。

 正直、いろんな意味で不安しかないが…。まぁ、シークも協力してくれるみたいだし、なんとかなるだろ。

 さて、帰るか。



 なんか、忘れてる気がしないでもないけど…。



ーその頃ー

「だぁあ!クソ!もう金ねぇじゃねぇか!はぁ、帰りの交通費貸してくれよ健。…あれ?健?健?………けぇえええええんん!!!」

 その日ザックが帰宅したのは日付が変わる頃だったという…。



 あれから、シークと別れて家路についたが、帰宅の途中結局少女は一言も発することがなかった。

 ただ時々こっちを見ては何故か目を逸らしたり。うーん…よくわからんな…。

 そうこうしてるうちに家に着いた。

「さ、着いたぞ。まぁ狭いとこだけど、自分の家だと思ってくつろいでくれていいから」

「あの…ありがとう…ございます」

「あー、そういえば名前聞いてなかったよな?」

「…ごめんなさい。思い出せないんです」

「そうか…名前すら覚えてないのか…でも何か呼び方がないとな…」

「じゃあ、つけて」

「え!?俺が!?」

「うん…お願い」

 名前をつけろと、いきなり初対面の人に。

 これはなかなかハードルが高いことを…。

 どうしたもんかなぁ。

 その時、たまたま目に入ったのがさっきの店でのレシートだった。

 おつり:369円


「369…ミロク…弥勒でどうだ?」

 いや、さすがにこれはないか…。レシートのお釣りの金額って…。

「弥勒…うん!弥勒!私は今から弥勒!」

「いいのか!?」

「うん!気に入った!ありがとう!」

 口が裂けてもこの由来は話せないな。

 だが、なぜかこの呼び方がすごいしっくりきた。

 まるで昔から知ってるような…。いや、気のせいだな。

「さ、とりあえず飯にしようぜ!腹減ってるだろ?」

「うん!ありがとう!」


 こうして、不思議な少女『弥勒ミロク』との同居生活が始まった。

お久しぶりです!

プライベートがかなり忙しく、ようやく投稿できました。

これからもこんな感じですが、どうかお付き合いください。

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