11話 無個性剣士の最後のカケラ
戦いは激しさを増していった。
シークや仙は前線でクロードと対峙し、回復したザックや好を中心に中距離型のメンバーは距離を開けてサポートを行い、学園長のようなガード型は俺を囲うように守りに徹している。
さすが国内最高機関の生徒達だけあって、1年生とはいえ戦い方がよくわかっている。
だが、相手もあれだけのメンバーを従えていたリーダーだけあって、かなりの実力だ。
この人数を相手に、まだ一撃も攻撃を受けていない。
同じ力を持っていた俺だが、敵にするとこの力はここまで厄介なものだったなんて…。
「絶対にあいつに触れられるな!マインドを奪われるぞ!」
俺は後方から前衛のメンバーに大声で呼びかける。
「あぁ!だが、このままでは埒が開かん!どうにかする手は…」
前線で戦いながら指揮をとっているシークだが、流石に少し疲れが見える。
仙とシークが最前線で互いにスイッチし合い、攻撃をうまく往なしているが、これもいつまで続くか…。
クソッ!こんな時に俺は何を…。
「いい加減うっとうしいですよ!」
痺れを切らしたクロードが大剣の大振りで近接型を一気に薙ぎ払う。
強い衝撃で前線のメンバーは大きく後退させられてしまった。
数名、衝撃で気を失って戦線離脱を余儀なくされた者もいる。
「負傷者を急いで後方へ!」
「逃がしませんよ!」
すかさず取り回しのし易いナイフに持ち替えクロードの追撃が襲いかかる。
「させっかよ!」
ザックたち中距離部隊が銃撃で応戦するが、それも全て弾かれてしまう。
これはやばいかもしれない…。
「もう、出し惜しみしている場合じゃないわね…」
それまで活発に参戦はしてこなかった好がついに動いた。
「喰らいなさい!龍骨槍!」
好の槍の形状が変化し、シーク達まであと数センチの距離まで迫っていたクロードに襲いかかる。
不意打ちに対応し切れず、体を大きく逸らして直撃は避けられてしまったが、大きく後退させることには成功した。
「これは…!」
シークが突然の攻撃に目を大きく開き、驚きを隠せないでいる。
無理もないだろう。まさか同じ年に第2階梯まで進んでいる奴がいるなんて思わなかっただろうからな。
これは、好のやつ、さらに有名人になっちまったな。
なんて悠長なことを考えている場合じゃなかった。
「ほぅ…まさか1年生に第2階梯を扱える者がいたとは驚きました…奪い甲斐がありますね!」
完全に体勢を立て直したクロードがニヤリと笑みを浮かべる。
「うわ!キモい顔!こっち見んな!」
「おい、喋り方…」
「ハッ!いけない!さ、さぁー!まだまだこれからアルよ!」
もう手遅れな気がするが…。
だが、好のおかげで一旦戦況のリセットができた。
今のうちに何か策を…。
純粋な戦闘能力では圧倒的に差がある。しかも、仲間から奪いやがったマインドを完全に使いこなしてやがる。
おまけに頭もキレるし、こちらの策も読んで対策してきやがる。この数の差でも全く意味をなしていないみたいだ。
ダメだ。全く勝てる気がしねぇ…。
「無理だ…」
つい本音が溢れてしまった。
「何を言ってるんだ型無!」
シークに聞かれてしまい、彼女から怒りを向けられる。
「お前もわかるだろ?この状況で、これだけの人数差でも手も足も出ないんだ。もう無理だろ…」
「ふざけるな!みな、お前のために戦っていると言っても過言じゃないんだぞ!よくもそんなことを!」
「だが、こうなったのも、全部俺が力を奪われてしまったせいで…」
その時、乾いた破裂音が響いた。
仙が俺の頬を思いっきり引っ叩いた音だ。
「え?」
いきなりのことで思考が止まる。
他の皆も呆気に取られ、クロードも仲間割れかと笑っている。
「おい、白神。なにも急にぶつことは…」
仙はそのまま鬼のような形相で俺の襟首を掴み上げた。
「健!腑抜けるのも大概にしろ!」
普段の仙からは想像もつかないような強い声に驚きを隠せない。
仙の顔はいつになく真剣で、これがどれだけ本気なのか伝わってくる。
「でも、実際にそうだろ!これ以上はどうしたって…」
「どうしたってなんだ!これ以上など何を勝手に決めつけている!皆、お前の為に戦っているなら、どうしてそんなとこに座り込んでいる!力がないからなんだ!その頭は飾りか!少しでも策でも考えてみたらどうだ!戦えないなりになにかすることがあるんじゃないのか!」
「そんな無茶苦茶な…」
「力がないと嘆けば隠された力でも覚醒するのか!諦めれば正義の味方が助けに来るのか!そんな御都合主義があるとでも思っているのか!ふざけるな!型無 健!今お前にできることはなんだ!」
本当に無茶苦茶だ。
でも、その通りだな。
どうやったって、今、俺が、いや、俺たちだけでなんとかしなきゃいけないんだ。
みんな戦ってるんだ。俺だけが諦めていいわけないよな。
思い出せ!今は無個性野郎でも昔は京和最強だろ!
思い出せ!今の自分に何ができる!どうすれば戦える!
せめて、俺にマインドがー…。
俺のマインド?
もともとそんなもんないじゃないか。
そうだ、もともと俺は自分の力で戦ったことなんてない。武器なんて持っていない。
なら、俺の戦い方は…
「ありがとう、仙。すまなかったな。おかげで目が覚めた。俺に策がある。お前たち協力してくれ」
俺は覚悟を決め、皆に俺の作戦を伝える。
「そんなことが!?できるのか?」
シークは俺の作戦に驚いているが、さっきまでの暗い表情とは違う。
俺の表情を見て安心しているような…そんな気さえする。
「それでこそ健だ。私に任せておけ!」
仙、お前のおかげだ。今度は俺も力になれるように…
「チョット、私たちも忘れないでほしいアル!」
「健!親友の俺に隠してたなんて許さねぇからな!後でお前のこと、ちゃんと聞かせろよ!」
好、ザック、他のみんなも…。
今の俺は1人じゃない!みんなの力があれば!
「臭い友情ごっこはもう十分でしょう。そろそろ私も飽きてきました」
やつも痺れを切らしてきたようだ。
「あぁ、次で終いだ!みんな!いこう!」
『あぁ!』
「まとめて消えてください!」
まずは、仙とシーク、その他前衛部隊がクロードに突撃する。
クロードもそれに応えるように、大剣を構え、両者の剣が火花を散らし、切り結ぶ。
すかさず、ザック、好が追撃を加える。
さすがの反応速度で跳びのき、攻撃は躱されてしまう。
「この程度ですか?」
クロードが余裕の笑みを浮かべる。
「逃すか!」
苦し紛れの一撃。
シークが手に持ったレイピアをクロードに向け投擲する。
が、それも頬を軽く掠めた程度だった。
「甘いですね!これで死になさい!」
得物を失ったシークにクロードが襲いかかる。
だが、その攻撃は、現れたお姉さんの盾に阻まれる。
「何!?」
「今だ!健!」
クロードの後ろ。
戦いに紛れ後ろへ回っていた俺は、作戦通りにシークの投げた得物を合図に、飛び出して、持ち主の手から離れ、消え掛かっていたそれを掴んだ。
マインドは本来、使用者しか使えない。他の者が触れたり、持ち主から離れると消滅する。
だが、俺のマインドの特性を考え、もしかしたらと思ったが、うまくいった。
一度コピーし、適合したマインドなら俺でも扱える。
完全に背後をとったクロードへ一撃を叩き込む。
「ここだぁぁあああ!」
俺の断末魔にもにた叫びとともに、クロードの体をレイピアが貫いた。
クロードが動きを止め数秒。
俺はゆっくりとレイピアを引き抜き、クロードが地面に倒れこむ。
手元から役目を終えたようにレイピアが消滅する。
他人のマインドを使えるが、時間制限はあるようだな。
だが、これで戦いも終わった。
「やったな!健!」
ザックたちが俺の元へ駆け寄る。
「あぁ、ようやく終わった」
俺も気が緩んで体から力が抜け落ちた。
その場に腰から崩れてしまい、ザックが肩を掴んでくれた。
「おつかれさん。とりあえず、そいつ縛って健を医務室に。いや、その前に他の先生を助けにー」
ザックの言葉を遮るように、俺の背後から禍々しい気を感じ、振り返る。
気の根源はクロードの方だった。
クロードの全身から黒いオーラが吹き出る。
「あいつ!まだ!」
シークが再び、レイピアを構え、臨戦態勢を取る。
だが、やつの様子がおかしい。
「あが…あ゛ぁ゛ああ!」
人の声とは思えない絶叫が空間に響き渡る。
まるで釣り上げられたかのようにクロードが状態を起こし、体が異様な方向へねじ曲がる。
「なんだ…あれ…」
クロードの全身を黒いオーラが包み込み、弾けた。
現れたのは、全身を真っ黒に染め、身体中から吸収したマインドが飛び出した、もう人とは言えない姿に変わり果てたクロードだった。
「暴走している」
大きすぎる力に体が耐えきれなくなったのだろう。
さっきまでは意識があったから制御できていたものが、途切れたことで完全に制御を失い、暴走し始めたのだ。
もはや、あれはクロードじゃない。マインドが人の体を使って暴れようとしている。
「やばすぎだろ…」
その姿、発するオーラに多くの生徒が戦意を削がれてしまう。
そして、そのクロードの姿をした何かは咆哮し、こちらへ一直線に突撃を繰り出す。
「きゃぁあー!」
女生徒達から悲鳴が上がる。
お姉さんが正面に立ち、マインドを展開する。
が、強い衝撃が走り、盾は砕け散り、お姉さんも大きく吹き飛ばされ、意識を持って行かれた。
「マジ…かよ…」
ザックの顔からも血が引いていくのを感じる。
もう人の意識すら完全に失い暴れまわるだけの存在を、満身創痍の俺たちだけで、どうにかしなければいけない。
一周回って笑えてくる。
これは本気でどうしようもない。
その場にいた全員が諦めかけた時、それでも折れずに敵から視線を外さなかったのはシークと仙だった。
「型無、ここは私と白神に任せて、皆を連れて逃げろ」
「できるわけないだろ!」
「健!お願い!このままじゃ全滅してしまう。少しでも時間を稼ぐから、助けを呼んできて!」
「でも…!」
今戦える人間はもう2人しかいないだろう。他のみんなは戦意を失っている。
他に戦力になりそうな好も第2階梯を発動した反動でしばらくは戦えそうにもない。
今考えられる最善の策は、これだろう。
だが…。
俺の頭に過去の記憶が蘇る。
敵に襲われ、弱い部分を見せていたシーク。
俺のために強くなると誓った仙。
2人とも、こんなところで失っていい存在じゃない。
だが、どうする?俺が代わりに戦うか?
どうやって?マインドも使えない。素手でなんとかできるわけもない。
本当にこれ以上は無理なんだろうか…。
ここで2人を失って、俺は後悔せずに人生を生きていけるはずがない!
神様でもなんでもいい!
今、この瞬間だけ。少しでいいから俺に力を!
みんなを守れる力を!
マインドは心の力だ。
皆を守りたいその意思にマインドは呼応する。
俺の心に少しだけ残っていた、カケラのようなもの。
クロードに奪われた俺の心の最後の残り火に俺の守りたいという意思が油を注ぎ、大きく燃え上がった。
炎は消える最後の瞬間に大きく燃え上がる。
この、最後の炎で!
俺は2人の間を走り抜け、バケモノへと一直線に突っ込む。
バケモノの体を顕現した黒い日本刀が切り裂く。
「型無!?」
「健!」
2人の驚く声が聞こえる。
「ガァ!あ゛ぁあ!」
獣のような叫び。
確実にダメージを与えただろう。
だが、相手もすぐに回復し、俺の体に敵の攻撃が突き刺さる。
血は出ない。だが、一瞬で意識を刈り取られかける。
「効かねぇよ!」
こんなことで持ってかれてたまるか。
「うおぉぉお!」
腹の底から声をあげ、自分の奮い立たせる。
すかさず、レイピアを顕現させ、相手の体を貫く。
間髪入れず、次はさっきまでクロードが使っていたナイフ。さらに大剣。
今まで覚えたマインドを惜しみなく顕現させバケモノに叩き込む。
「すげぇ…」
「がんばれ…頑張れ!」
「いけぇ!」
「負けんな!」
マインドの使用過多で心も限界に近い。
だが、みんなの声を支えに、炎が消え切るその前に!
俺は攻撃の手を止めることなく、次々にマインドを顕現させ叩き込む。
ザックの銃。好の槍。
戦場で戦った多くの名前も知らない兵士のマインド。
今までの俺を全てこいつに!
「これで!ラストぉお!」
声も力も、全てを振り絞った最後の一撃がバケモノを貫いた。
バケモノが断末魔を上げ、身体中から黒いオーラを撒き散らし、そして、姿を消した。
その場には生気が失せた顔のクロードだけが残っていた。
全てを出し切った俺は、ついに意識を手放し、その場に倒れこんだ。
消えゆく意識の中、大きな歓声と駆け寄る仲間の声だけがずっと響いていた。
ーどこかの街の何処かの路地裏ー
黒いワンピースに長い黒髪の綺麗な少女が1人。
「私は……?」
かなり期間が空いてしまいました。
すみませんでした!
そんな中でも呼んでくださっている方には感謝しかありません!
今回で1章的な話が終わりで、次回から新章になります。
どうか、これからもよろしくお願いします!




