第7話 冒険に出るまでが長すぎる
今回とても読みにくいです、すみません。
あれからさらに三週間。
動物相手に実践を繰り返し、ガイさんにも相手してもらって特訓を積んだ。
平和ボケした小市民は鹿や熊や猪なんてのは動物園くらいでしか見たことがなかったから、感覚は愛玩動物に近くて血抜きの手伝いで傷を付けることすら戸惑ったあの日が懐かしい。
熊なんかは自分より大きくて、元の世界じゃ会ったら逃げろとか言われてたんだから最初の頃は対峙することすらできなかった。
それでもガイさんが華麗なお手本を見せてくれて、少しずつ恐怖心を削り、三週間もかければさすがに目の前に立つこともできるようになった。
ガイさんとの訓練でなんとか身につけたナイフ捌きで相手をすることもできるようになり、この世界に来て一ヶ月経った今日、初めて自分の力だけで狩りを成功させることができた。
「はぁ、はぁ、」
息がなかなか整わない。
相手と対峙する毎回が緊張の連続で、何度ももう無理だと思ったし死にそうにだってなった。怪我だっていっぱいした。今でも夢に見て泣いてしまうこともある。
たかが動物相手だと思うかもしれない。でも私は平凡な、喧嘩で人を殴ったことすらない女子大生でしかなかったのだ。もちろん殴られたこともない。人じゃなくても動物とか生き物を傷付けるなんて、なかなか決心ができなかった。
そんな私が、一ヶ月もかかったが一人で獲物を仕留められるところまで来たのだ。
「お疲れさん、よく出来たな」
「……ガイさん」
「ほら、倒すだけじゃまだ終わりじゃない。血抜きをして肉をいい状態で維持できるようにするまでが仕事だ」
「そうでした…つい考え事を」
「感慨深くなるのはわかるが、それはこの後だ」
「はい」
ごめんね、ありがとう。
一言呟いてから血抜きをするのが私の習慣になってしまっている。
「やっと駆け出しを抜けたってところだが、リカは良い猟師になりそうだな」
「ありがとうございます…?」
おかしい、猟師になりたかったわけじゃないんだけどな。自分でもこのまま目指せば猟師で食っていけそうな気がしてるから満更でもない。
「とりあえず基本の戦いは身についただろう。だが冒険者となれば相手にするのは動物ではなく魔物だ。明日から午前に獲物が捕れた午後は少し奥まで行って魔物を相手にする練習をしよう」
「魔物を相手に、ですか」
「ああ。もしリカが登録だけで冒険者としての活動はあまりしないとしても、旅をすることがあれば魔物に出会うことがある。魔物は普通の動物とは違う。その時になって焦っては遅いからな」
「そうですよね…」
この世界に来て一ヶ月。こうして森の中の浅いところで猟師の真似事をしてはいるが、未だに魔物に出会ったことはない。あるのはほんの少しの知識だけだ。
「魔物って魔法使ったりもするんですよね?」
「そうだ。魔物は体内に魔石と呼ばれる魔力が詰まった核を持っていて、それにより魔法が使えるのだろうと言われている。詳しいことは学者じゃないからわからんが、魔道具や大掛かりな魔法を使う際に使用されている」
「なるほど」
「だが全ての魔物が魔法を使えるわけではなく、主に上位個体が使うものだ。魔物には種族や個体での差も大きいから、それぞれについてしっかり学んでおくと危険を避けることができる」
「それも大きな街の図書館で調べればいいんですか?」
「いや、魔物に関しては冒険者ギルドで資料をまとめている。閲覧に金もかからないから、きちんと頭に入れて外に出るようにすればいい」
タダで資料見せてくれるなんて優しい。と思ったら元は閲覧料が設定されていたけれど、お金をケチって調べずに出て行き死亡する新人が絶えなかったから無料になったのだとか。安全をちょっとのお金で買えるんだから、ケチるところじゃないと思うけどなぁ。
「他にもギルドは冒険者のために講習をしたり、パーティのマッチングをしたりと色々と工夫してくれている。まあその辺の詳しいことは、実際にリカが登録をする時に聞くといい」
「はい、そうします」
冒険者ギルドって物語によっては適当だったりするけど、この世界ではまともそうで良かった。
「もう日も暮れる。戻って休むぞ」
「わかりました」
ガイさんの言葉を受けて「よいしょ」と勢いをつけて籠を背負う。
みんな忘れてるかもしれないけど、私の本来のお手伝いは荷物持ちだ。毎日捕まえた獲物を入れた、重たい籠を背負って帰るから肩がバッキバキになる。
「今日もマッサージしなきゃ…」
自分へのマッサージが上手くなる日々である。
主人公が全く冒険に出てくれない。