第6話 日常
第5話の主人公の名前をさっそく間違って書いていたので修正しました。
今回は日常説明回です。
日が暮れたら寝て、日が昇れば起きる。
この世界では基本の生活だ。
「……ねむ」
大きな欠伸を一つ。
ある意味時差ボケと言ってもいいのではないだろうか。こちらに来てから生活習慣がガラリと変わり、毎日眠くて仕方がない。早く体がこちらの生活に慣れてくれることを願うばかりだ。
「姉ちゃん起きてるー?」
「起きてるよ〜」
最初に寝ていた部屋。そこが私の部屋として与えられている。
本来はダリルくんの部屋だったのだが、私が来たことで彼はガイさんの部屋で寝起きをしている。
さすがに申し訳なさすぎて遠慮したんだけれど、元は夫婦の寝室だったから広さは十分あるし問題ないと押し切られてしまった。
着替えの服もいくつか借りてしまって、
本当にこの親子には借りを作ってばかりだ。
「いたた…あ〜筋肉痛が…」
毎日、平和な日本ではしない動きをすることで腕や脚が痛みを訴えてくる。一応夜のうちに軽くマッサージはしておくのだがあまり意味はないようだ。
ダリルくんが扉を開けて入ってくる。
「姉ちゃん大丈夫?動けるか?」
「ただの筋肉痛だから大丈夫。たぶん」
「無理ならちゃんと言えよ」
「うん、ありがとう」
よし、と気合いを入れて立ち上がる。足がめちゃくちゃ痛かったがなんとか堪えて動き出す。
藁を貰って即席で作った寝床で寝ているユリを置いて、ダリルくんと一緒に水汲みへ。
戻ったら外に出てナイフで素振りの練習。
20分程したら朝食の準備を終えたダリルくんが呼びにくるから、私も一度部屋に戻りユリを起こして食卓へ着く。足元で野菜の切れ端を齧るユリは可愛い。 寝汚くて、食べながら寝てる時もある。
朝食が終わったら装備を確認してガイさんと狩りのお手伝いに行く。
これがこの世界に来て一週間経った私の日常。
「順風満帆すぎて怖い」
「ん?何か言ったか?」
「あっ独り言です」
いけないいけない、つい口に出てしまった。
ここの生活が安定してて、正直もうずっとここに住んでいたい。そうすれば楽に人生送れそうな気がする。さすがにずっと間借りはダメだからどっか家を借りるか買うかしてさ。
そう思うんだけど、身分を証明するものもないままでは何かあった時やっぱり不安だ。だから一度はここを出て、冒険者登録をしに行かなければならない。家を借りたりするにもお金がいる。そのためにこうやってガイさんが私に生きる術を教えてくれてるわけだしね…。
午前の罠の確認で獲物を得られればその場で血抜きの仕方を練習し、午後にはガイさんが私にナイフの振り方を教えてくれる。私がもう少し上手く扱えるようになったらガイさん相手に対人戦の訓練もしてくれるらしい。
罠で獲物を得られなかった日は、午後の狩りで獲物の探し方と戦い方の実践訓練をする。ついでにその辺に生えてる薬草の見分け方や採取方法、森の歩き方なんかも教えてくれる。
何から何まで至れり尽くせり。
おかげで私はたった一週間ながらもそれなりの成長を実感できているわけだ。
「あっガイさんあれ、ハヤクナオリ草じゃないですか?」
「ああ、合ってるぞ」
「やった」
いそいそと採取を行う。私が見つけたものは私の取り分ということになっているので、これはそのまま私の懐に入ることになる。
ハヤクナオリ草。その名前の通り傷が早く治る、かもしれない草だ。実際ほんのちょっとだけ早く治るが、ちゃんと知識のある人がポーションにすればHPの回復速度が一気に上がるすごい代物なのだ。
この草はけっこうどこにでも生えている上に、ポーションの材料なのでいつでも売れる嬉しい草である。こんなふざけた名前なのにね。
そしてポーションとは、この世界に存在する専用の魔法で作られる冒険者御用達の薬(?)である。HPやMPの回復が簡単にできるがちょっとお高め。作り手によって効果もピンキリで、良いものが作れる人は引っ張りだこの左うちわらしい。羨ましい。
この村にはもちろんポーションの作り手なんかはいないのだが、定期的に来る行商人の人に売ることができるらしい。本当はなるべく新鮮なものを渡す方が売値も高くなるんだけど、きちんと処理さえすればそれなりの期間保存もできそこそこの値段で売れるから問題はないんだとか。
「お待たせしました!」
「ああ。……少しだが、冒険者らしくなったな」
「え、そうですか?」
「まだまだ駆け出しって感じだがな」
どうしよう、すごく嬉しい。顔がにやけるのを止められない。
「えへへ、ありがとうございます」
今なら何でもできそうな気がする。
「だが、少しできることが増えて自信がついた頃が一番危ないんだ。ここからの気の持ち方でどれだけ成長できるかは変わってくる」
気を引き締めろ、と。
そうだよね、確かにたった一週間で簡単な薬草だけど見分けられるようになって、ナイフを振る練習なんかしてみて成長を実感していたところだ。浮かれて実力以上のことをしようとしてしまうかもしれない。
豚もおだてれば木に登るって言うけど、本当に木に登って降りてこれるかはわからない。より一層気をつけなければ。
「わかりました。浮かれず頑張ります!」
「うん、その意気だ。だが頑張った自分はちゃんと認めてやれよ」
「はい!」
ガイさん本当に良い人だあ〜〜〜。
この人に師事できて良かったな…。
「ほら、行くぞ。今日の仕事はまだ終わってないからな」
先を進むガイさんの背中はまさに仕事のできる男のものだった。
「はーい!」