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生きろ!!!  作者: 波島 みほ
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第5話 はじめてのお手伝い

 あれから、何事もなく家へ戻りユリの餌を探したり夕飯を食べたり風呂の入り方にカルチャーショックを受けたりしたが概ね問題はなかった。なので割愛。


「今日も暑い…」


 そんな私は本日よりガイさんの狩りのお手伝い。まずは荷物持ちをしながら狩について教わる。ユリは家でお留守番。

 この世界にはお約束通り魔物がいるが、普通の動物も存在する。魔物を倒せば貴重な素材や魔石というものが手に入るが、その肉は固く味も悪いため好んで食べる人は少ない。なので普通狩りと言えば食用の猪や鹿や熊といった動物を相手にすることを指す。

 一狩り行こうぜで魔物退治はしないのだ。


「まずは昨日仕掛けた罠の確認だ。それに引っかかってるやつがいれば楽だが、そうでなければ足で獲物を探さなきゃならん」

「なるほど」


 正直記憶力に自信がないので全部メモりたいのだけれど、こんなところで一々メモを取り出してたらキリがない。あと何かあった時にすぐ動けないと困る。ガイさんには慣れるまではなるべく両手を開けて行動するように言われた。

 ガイさんは手伝いをさせることで、冒険者になると言った私がこれから困らないよう基本的な知識を教えてくれるつもりなんだろうな。

 優しすぎて心配になるけど、本当にありがたい。実際に私は森の歩き方を知れたしこれから色々学ばせてもらうんだろう。荷物持ちも獲物をまだ確保してない現在では軽い籠を背負ってるだけで、働いてるとはとても言えない。


「これが罠だ。他にも2つ仕掛けている」


 そう言って見せられたのは輪っかになった紐に動物の足が入ると締め付けるようになっているやつだった。


「これは素人には扱い難いが持ち運びも楽だからできるようになると良い」

「後で教えてください」

「もちろんだ」


 残りの2つも見て回ったが、獲物がかかっているものはなかった。

 それぞれをまた別の場所へ仕掛け直して午前は終了。同じ場所に仕掛けると動物が覚えてしまうから毎回違う場所にするのだとか。

 収穫ゼロだったので、午後からは自ら獲物を探して捕らえなければいけない。


「リナ、俺の予備しかないんだがこれを使え」


 渡されたのは刃渡り20cm程のナイフ。

 初めて持つ包丁以外のナイフはずっしりと重たい。心情的なので重く感じるってことはあるんだろうけど普通に重いぞ。

 これ持ってても振り回すとか無理じゃない?物語の主人公は「重いな…」とか言いながらあっさり振り回して敵倒してたけど無理でしょこれ。


「実戦になる前に一応聞いておくが、戦いの経験なんかはあるのか?それか何か魔法が使えるとか、武術を習ってたとか。レベルはどれくらいなんだ?」

「何もしたことないです。むしろ運動自体めったにしません。レベルは1ですね」

「レベル1…本当に何もしたことないんだな。それならなるべく無理はせず何かあれば限界になる前に言え。俺から離れるなよ」

「わかりました、なるべく足手まといにならないよう気をつけます」

「ああ」


 戦いなんかしたことないし魔法が使えるかはそもそも知らない。

 レベル1なのは戦ったりする機会のない村の女子供ならそう珍しくもない。だから特に隠さず私も言ったのだが。

 魔力に関しては量に差があれど誰にでもあるらしい。しかしきちんと魔法が使えるのは学んだ人だけ。なんでも呪文とかがいるのだとか…?一般人が知ってる常識ではその程度の認識だ。

 識字率の低いこの世界では魔力があることは分かってても学ぶことができる人が少ないのだろう。幸い私は常識インストールのおかげで言葉もわかるし、たぶん文字も読み書きできるはず。これ常識くらいは頂戴って言ってなかったら言葉もわからないまま放り出されてたのでは…?そう考えると怖すぎる。


 気を取り直して森の中。ガイさんがゆっくり索敵しながら進む後ろを、必死に着いて歩いている。ガイさんは腰にナイフというか剣を挿して、背中には弓矢を背負っている。

 昨日と午前の森歩きでちょっと慣れたつもりだったけど、警戒しながら進むのは疲れが全然違う。1時間も動いてないのにヘトヘトだ。


「…いたぞ。リナ、見えるか。あそこに鹿がいる」


 …え、どこ?


「ほら、この先にある3つ股の木の陰だ」


 んんんんん???え、もしかしてあれ?いやちょっと待って遠くない???あれ200mは先じゃないですか???


「あれを捕まえる。もう少し近づいたらまずは弓で狙う。気づかれたら追って剣でトドメを刺しに行く」


 いや待って待って、この世界の人は200m先の木の陰にいる動物を判別できるのが当たり前なの???そう考えると頭の中の常識が自然の側で生まれ育った村人は150mくらいは普通に見える。訓練した人なら200m以上、300m見える人もいると教えてくれた。

 150mでも普通じゃないよ、お前らみんなマサイ族か。マサイ族が実際どれくらい凄いのかは知らないけど。

 そんな特殊な人は多くなくて、街中に住んでる人の視力は私の知ってる人間と同じくらいらしいので一安心。


「えっと私はどうしたら…?」

「足音を立てないように着いて来い」

「わかりました」


 そーっとそーっと着いて行くと、100mほど近づいてガイさんが止まる。緊張感が辺りを支配する。

 後ろで息を殺していると、ゆっくりと弓を番え引き絞る。キリキリという小さな音が世界中に響いているような気がした。

 一瞬のことだった。ヒュンという音と共に矢が飛んで鹿に突き刺さる。それと同時にガイさんが剣を抜いて走り出す。


「!?」


 矢が刺さって暴れ出した鹿に肉迫し、一閃で首を搔き切る。それはとても鮮やかな手つきで、熟練という言葉も優しい気がした。


「おい、終わったぞ。すぐに血抜きするから手伝ってくれ」

「は、はい!」


 ぼーっと突っ立っていると声がかかる。急いで駆けつけて教えてもらいながら血抜きをする。

 本来なら動物を殺して血抜きなんて吐いてもおかしくないことだったのだが、先ほどのガイさんの動きが瞼に焼き付いてそれどころではなかった。

 ガイさん、ただの冒険者リタイアした村人なんかではないんじゃないだろうか…そう思えてならない。そうじゃなければこの世界の村人や冒険者の能力が余程高いのかだ。


「これで今日は終わりだ。さあ、帰ろう」

「はい」


 気が散りすぎてて血抜きと解体の仕方全く覚えられなかった。これはまた教えてもらわなきゃな…まともな時にやったら吐くだろうけど、これがこの世界での生き方だって言うなら仕方ない。早く慣れよう。

なるべく王道ベタなストーリーを目指してるのですが、王道とかベタとはなんぞやってなってます。

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